値上がりする住宅問題の対策はあるのか?:交錯する大手デベの思惑

マンションなど住宅の値上がり問題が指摘される日本ですが、長期的な賃料相場をみると割とフラットな状態が続きます。非常にざっくりした見方をすると2000年頃までは上昇の一途、それ以降はほぼ横ばいといったイメージです。もちろん物件や場所によるので一概には言えません。

理由はずばり、少子高齢化でしょう。

持ち家比率は1978年に60.4%を記録、現在でもおおむね61%程度でほぼ横ばいになっています。この持ち家比率60%から65%のレンジは一種の黄金比率で先進国や成熟国ではどの国でもこのレンジに収まります。次に世帯数の推移を見るとこれはまだ若干増えていますが、1世帯の人数が減り続けており、私の予想では今後数年のうちに世帯数も長期下落傾向に転じるとみています。

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日本の空き家住宅がすでに900万戸台という水準も考え合わせると日本で賃料が上がるのは特定エリアの特定事情がないと難しいのだろうと思います。

ところが海外に目を向けると賃料がドンドン上がっています。ブルームバーグには「米国の家賃、賃金の約1.5倍のスピードで上昇-19~23年」と記事が上がっています。以前申し上げたように金利の上昇が大家の利払い費用を圧迫するため賃料は高めのオファーになります。また、新築賃貸住宅も建設ラッシュですが、この時期建築された物件は高金利下での開発事業ですので事業費は当然膨れ上がっており、賃料の設定水準そのものが上がってしまっています。よって昨年比〇%上昇という指標だけを見ていたら判断を間違えるのです。

私の友人がカナダで住宅を今買うべきか、と聞いたので「買うべきです」と何の躊躇もなく申し上げました。理由は建設費の高騰が住宅相場を引き上げているからです。建設費の高騰には複合理由があります。一つは設計が複雑になり建築芸術的な要素を取り込んだ建物が増えていることがあります。日本の建物は耐震問題もあって非常に実用的なデザインなのですが、こちらは設計士の芸術(意匠)思想をふんだんに取り入れ、役所のデザイン審査委員会の意向もあり建物自体が一種の公共芸術的な作りになっています。

次に職人の技量が全くついていっていません。なので完成直後のトラブルが異様に多いのです。私が3月末に完成させた物件でもすでに水漏れが3回発生していて、せっかく作った壁を壊し、やり直したところもあります。これらは保証期間ですから業者が無償でせっせとやってくれるのですが、業者にしてみれば儲からない話なのでこのコスト(=「下手料」と称します)を次の仕事代金に上乗せする感じになり、建設コストだけで年間5-10%ぐらいコンスタントに上昇していくのです。なので住宅は買えるなら買うしかないのです。今なら清水の舞台から飛び降りる程度ですが、そのうちタイタニック号とかスカイツリーから飛び降りる度胸が必要になるのです。

では買えない人はどうするのか、これが問題です。私は究極的な住宅問題の解決方法はあると思うのです。一つは政府系事業者ないしNPOが作る住宅を推進することです。一般に工事業者は2割の利益を目指しますのでこれをカットすることができるかです。建築業界は重層型構造で下請け、そのまた下請け…がいるのですが、彼らがそれぞれ1-2割ずつ利益を取っていくので大元のデベロッパーはざっくり3割近く下請けの利益を払わせられます。更にエンドユーザーにはあと2割利益分をのせるので一般購入者はこれが1億円の住宅だといわれても私からすればコストは半分であとは重層の業者たちがとったとわかっているわけです。ならば重層型の業種を垂直統合直営型に変えればよいのです。

2つ目に住宅を所有する必要があるのか、という究極の疑問です。「なぜ住宅を購入したのですか」と聞けば多くの方が「安住の地を求めているから」と答えるのではないでしょうか。日本では一部を除き値上がり期待はあまりないと思います。安住目的で転売利益は二の次なら公的機関が分譲ではなく、リース方式を取り入れたらどうでしょうか?建物償却に合わせたリース料の設定を行い、土地代金は公的機関が所有しリース料に反映させない手段があります。(土地は償却しないという特性を逆手に使う手法です。)地方自治体は嫌がりそうです。なぜなら固定資産税収入が増収にならなくなるからです。ただ、今、社会が抱えている住宅問題はそれどころの話ではないと思います。

賃貸VS分譲の不毛の議論がよくありますが、選択肢はその二者だけではなく、第三の手法にも目を向けるべきだと私は長年主張しています。事実、私はリース案件を日本で実験的にやっているし、当地ではライフリースという手法を私が2006年に開発したシニアホームで一部取り入れています。ライフリースとはその方が生きている間の居住権という発想です。この手法が取り込まれたら日本の老人ホーム経営は真っ青になるゲームチェンジャーです。画期的な手法はいくらでも生み出せるのです。

よって値上がりする住宅対策もやり方次第なのですが、ネックは許可を下す行政部門が前例主義で二の足を踏みやすいということと業者が儲け主義に走り過ぎていること、大手デベロッパーが政治家を介して国交省と結託しているような気がしてならない、そんな気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月14日の記事より転載させていただきました。