血液型と性格:AIによる実証(前編) --- 金澤 正由樹

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前回説明した結果は、いずれも心理学の性格理論が完全でないことを示しています。どうやら、一般的な性格テストで血液型の差を確認しようしても、成功する可能性は高くなさそうです。

血液型と性格:本当に関係があるのか? --- 金澤 正由樹
血液型と性格は「占い」ではない 血液型と性格は、「占い」だと思っている人も多いと思います。 血液型の話題は、かつて『自分の説明書』シリーズが爆発的にヒットしたように、過去に何回も社会現象になりました。多くのネット書店には「血液型...

否定派の意味不明な主張

繰り返しますが、もし性格理論が正しいとすれば、血液型によって必ず差が認められるはず。しかし、ほとんど性格テストでは、血液型による差はないか、仮にあったとしても一貫した結果は認められていないとされます。

このため、Googleの「血液型と性格」の検索結果のトップでは、

資料1:Googleでの「血液型と性格」の検索結果(2024年5月18日現在)

大規模な統計的研究により、血液型と性格の間に相関は見られないことが示されている。無論、医学的・生理学的に血液型物質が性格に影響を与えるということも示されていない。

と表示されます。この情報ソースは、2010年に長崎大学の長島雅裕氏(現在は文教大学)が作成した資料です。

奇妙なことに、前回も紹介したとおり、長島氏は2年後となる2012年の科研費研究成果報告書(資料2)では、「大規模な統計的研究により、血液型と性格には相関が見られる」と、これとは正反対の見解を述べています。

資料2:武藤浩二、長島雅裕ほか 教員養成課程における科学リテラシー構築に向けた疑似科学の実証的批判的研究 2012年
出典:科学研究費助成事業研究成果報告書(2012年)

血液型と性格に関する解析では、過去の[血液型ごとに差がある]研究結果を拡張することができたとともに、21世紀以降のデータでは安定して血液型ごとに性格の自己報告について有意な差が出ることが判明した[サンプル推定約23万人]。

しかし、さらに1年後の2013年に彼が作成した資料3(2010年の資料1を一部修正)では、なぜか「大規模な統計的研究により、血液型と性格の間に相関は見られない」と、また主張が元に戻りましたが、前年の2012年の報告書(資料2)は触れていません。これまた極めて奇妙です。

資料3:長島雅裕氏が作成した資料(2013年)
出典:長島雅裕「疑似科学とのつきあいかた」(2013年)

大規模な統計的研究により、血液型と性格の間に相関は見られない

血液型が性格に影響するメカニズムは問題ではない

前回も紹介した信州大学・菊池聡氏によれば、血液型が性格に影響するメカニズムは無視してもよく、問題は統計データだとし、こう述べています。

血液型が性格に影響を与えるメカニズムが明らかでないことを批判点として挙げる人もいる。説明原理の不在は科学理論として決して望ましいものではないが、現実に承認されている他の科学理論にも詳しいメカニズムが不明なものはある。メカニズムを解明しようとしない血液型学の提唱者を批判することはできても、理論自体をこの点だけから批判するのはフェアではない。
(中略)
いずれにせよ、血液型性格判断はなぜ虚偽なのか、これは提唱者が言うような性格の差が、現実に信頼できる統計データとして見あたらないという点につきる。

(不可思議現象心理学9 血液型信仰のナゾ-後編 月刊『百科』1998年3月号)

これだけ否定の根拠が一貫していないと、ほとんどの否定派の主張は、もはや「意味不明」としか言いようがありません。少なくとも、「血液型と性格」について、実データに基づいた冷静な議論ができる状態ではないことは確かなようです。

余談ですが、仮に血液型による性格の差が「思い込み」によるものとするなら、そういう人の自己評価の性格は不正確なはずです。不正確なデータなら、必然的に血液型による差は「不明」という結論にならないとおかしい。

また、日本人の過半数は血液型と性格との関連性を感じていますから、そういう人の性格テストの結果は信用できないことになります。以上のことから論理的に考えると、日本人の過半数の性格テストの結果は信用できないことになるはず。しかし、否定派からそんな意見は聞いたことはありません。

何回も書いたように、このような性格テストの問題点については、いくら丁寧に否定派に説明しても、血液型と性格は「関係ない」の一点張り。彼ら、彼女らが態度を変えることはありませんでした。まさに「意味不明」なのですが、いまだに理由はよく分かりません。

突如として降って湧いたAIブーム

そんな混沌とした状況の中で、突如として降って湧いたのが、2010年代の爆発的なAIブームでした。

AIが世の中に認知されるようになったのは、おそらく「Googleの猫」がきっかけでしょう。これは、Googleが開発した画像認識AIが、世界で初めて「猫」を認識することができたというものです。当時は大ニュースになったので、覚えている方も多いと思います。

Googleが使ったのは、以前から知られている深層学習(ディープラーニング)という手法です。しかし、写真のような画像データは容量が膨大になるため、10年ほど前まではコンピュータの処理能力が追い付かず、AIが学習することは現実的ではありませんでした。また、学習に使える大量の画像データを収集するのに手間がかかることも大きな理由です。

AIが日本で一般に認知されたのは、上で説明した「Googleの猫」や、2015年に出版された松尾豊氏の著書『人工知能は人間を超えるか-ディープラニングの先にあるもの』の功績でしょう。

AIによる血液型予測

血液型と体質・性格の関係にAIを活用した先駆的な研究はいくつかあります。たとえば、AIによる血液型予測です。

私が最初に読んだのは、コンピュータ専門誌『インターフェース』に2017年に掲載された「顔写真から血液型を当てるラズパイ人工知能に挑戦」という記事です。

この記事では、ラズベリーパイ(略称:ラズパイ)という、手のひらに載るような小型コンピュータとAmazonのクラウドシステム(AWS)を組み合わせ、約6,000枚の顔写真の画像をAIに学習させることにより、その人の血液型を1分程度で予測するという実験を行っています。

図4 ラズベリーパイ3
出所:Wikimedia CC BY-SA 4.0 DEED

しかし、結果は実に残念なものでした。正解率は27.8%と低く(血液型は4種類なので、全くランダムでも4分の1の25%は当たる)、ほとんど血液型を正しく予測できなかったのです。

6,000枚の顔写真を128×128のエリアに分割して学習させたそうなのですが、率直に言ってこの解像度はかなり低いです。ちなみに、フルハイビジョンは1920×1080画素ですし、最近のスマートフォンならこれより何倍ものスペックとなっています。このことが正解率が低い理由なのかもしれません。

また、実験の内容は実に興味深いのですが、初心者にはクリアすることが難しい問題があります。

AIを活用するためには、この世界で一般的な「Python」というコンピュータ言語を習得する必要があり、システムを組み上げる技術力も必須条件となります。また、AIに学習させるためには、最低でも数千人のサンプルが必要で、いずれも簡単にできるものではありません。

このような理由で、残念ながら私は指をくわえて眺めているだけでした。後で知ったのですが、この時点でAmazonがプログラム不要で初心者でも使えるAIのクラウドシステムを発表済みで、既に状況は一変していました。

技術的な問題がクリアされたことが判明したため、「善は急げ」とばかり早速取り組んでみることにしたのです。

4,000人のアンケートによる結果

私の手元には、血液型ブームの2004年にDIMSDRIVEという会社が4,094人に行ったアンケート結果があります。

次は、このアンケートの質問の例です。

図5

まず、このデータで血液型予測をテストしてみました。残念なことに、回答の中には、「無回答」「わからない」「どちらでもない」など、そのままでは使えないものも多く、実際に利用できたのは1,371人だけと、大幅に減ってしまいました。

これら貴重なデータのうち、相当の人数をAIの「学習」に割く必要があります。AIだからといって、人間より頭がいいわけではないのです。人間だったら、1を聞いて10を知る人もいないわけではないのですが、現状のAIでは、いくら頑張っても1を聞いて1を知るのがせいぜい。普通は10を聞いて1を知るぐらいのため、前述のように大量のデータが必要となります。

結局、1,371人のうち1,271人を学習データに使い、残りの100人の血液型を予測することで我慢することにしました。気になる正解率は42%です。

1,000人のアンケートによる結果

テストが意外にうまくいったので、インターネットのアンケート調査で独自データを集めることにしました。

費用を抑えるため人数は1,000人とし、回答のバラツキを防ぐため、対象は20~30代独身男女に限定。また、1,000人のデータは、学習データに800人、残りの200人は予測データに割り当てました。これではもったいないので、データを使い回すことにして、合計200人×5回=1,000人の予測を行いました。

質問は、有名な特性を4つの血液型ごとに2つ(いずれもスコアは1〜5)。具体的には次のとおりです。

図6

結果ですが、血液型と性格の知識を持っている人414人の正解率は42.0%、全体の1,000人では37.6%でした。血液型は4つなので、偶然の25%よりは高いのですが、実用化するにはちょっと低いかもしれません。

余談ですが、この実験では実に示唆に富む現象に遭遇しました。学習データには年齢を含めていたのですが、最初にうっかりAIの設定を間違えて、30代女性のデータを使わないでしまったのです。なぜこんなに正解率が低いのかと疑問に思って調べてみたら、馬鹿馬鹿しいほど初歩的な設定ミスでした。

そこで、設定を修正してやり直してみたところ、正解率が5~10%ほど上がったのです。年齢や性別が性格に大きく影響していることは明白で、まさに「怪我の功名」となりました。

残念だった否定派や心理学者の反応

私は、AIを活用して「血液型と性格」を分析し、「関係ある」という結果を出せば、誰もが認めてくれるだろうと考えていました。そこで、これら一連の結果を記した『「血液型と性格」の新事実』を2019年に上梓したのです。

念のため、心理学ではほとんどAIを活用した論文がないことも事前に確認しています。

しかし、一発逆転を狙ったこの試みは、あえなく挫折。そもそも、日本の心理学者でAIを理解する人はほぼ「ゼロ」だから、論文が出ていないわけです。よって、AIを使った「血液型と性格」の実験には事実上何の反応もなかったのでした。

ほとんど唯一の“反論”は、「論文を書いて学会で発表しろ」、です。そうしたら認めるとのこと。査読を通った論文以外は認めず、問答無用で却下すると…。

科学の基本は再現性で、言い換えれば「誰がやっても同じ結果」となること。統計が基本なのだから、心理学の性格理論で計算すると、誰でも結果は同じはず。よって、論文化しないと認めないというのは本末転倒だと思ったのですが、“専門家”がそう言うのだからどうしようもありません。

このことは、実データに基づく議論が日本国内では事実上不可能、ということを意味しています。どうやら、血液型と性格をめぐる問題は、「科学」というよりは、「イデオロギー」の色彩を帯びてきているようです。

やむなく方針を転換し、日本語でダメなら英語で書けばいいということで、英語論文に挑戦することにしました。この経緯については、次回以降に説明します。

(次回につづく)

金澤 正由樹(かなざわ まさゆき)
1960年代関東地方生まれ。ABOセンター研究員。コンピューターサイエンス専攻、数学教員免許、英検1級、TOEIC900点のホルダー。近著『古代史サイエンス』では、AIを活用して日中韓のヒトゲノムを解析し、同時に英語論文も執筆。

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