血液型と性格は「占い」ではない
血液型と性格は、「占い」だと思っている人も多いと思います。
血液型の話題は、かつて『自分の説明書』シリーズが爆発的にヒットしたように、過去に何回も社会現象になりました。多くのネット書店には「血液型占い」のジャンルがあり、相当な数の「血液型本」を見つけることができます。リアルの書店でも同じです。一度定着したイメージは、簡単には変わらないものです。
しかし、かつては違いました。たとえば、日本十進分類法(NDC)では、「血液型と性格」は性格心理学のカテゴリーである141(細分類141.939)に属し、占いの148とは一線を画しています。過去の文献、例えば能見正比古氏の『血液型人間学』などは、多くの研究者や興味を持つ一般人にとって貴重な情報源でした。
そして、こう言うと驚く人も多いでしょうが、最新AIや続出する大規模データ解析が示唆するところによれば、血液型と性格の間には何らかの関連性が認められつつあります。最近では、性格心理学の専門家たちも否定的な発言を控える傾向にあるようにも感じます。
興味深いことに、血液型と性格の関係について最も声高に反論しているのは、性格の専門家であるはずの性格心理学者ではなく、医師やカウンセラーたちです。
・現役医師が断言「血液型と性格は関係ないし、自分の血液型を知る必要もない」
・心理学から見た、血液型と性格の関係。
彼ら、彼女らの見解が専門外からのものであるために、この複雑な議論に一層の混乱をもたらしているのかもしれません。
少数派のB型は悪く言われるのか
さて、よくある”反論”には、こんなものがあります。
心理学者X:少数派のB型が根拠なく性格を悪く言われるのは差別だ
日本人の血液型は、最多のA型が約40%を占め、2位はO型で約30%、3位がB型の約20%、そしてAB型の約10%の順です。確かに、B型は4つの血液型では割と少数派。
しかしこれだけでB型の性格が不当に批評されていると結論づけるのは早計かもしれません。実際に、私の新著『B型女性はなぜ人気があるのか』にもあるとおり、近年はB型女性の魅力が再評価されている事実があります。
特に注目すべきは、ビデオリサーチ社による「テレビタレントイメージ調査」のデータです。この調査によれば、過去10年間でB型女性タレントが高い評価を受け続けています。図にはありませんが、2024年1月度もB型の綾瀬はるかさんが1位でした。
さらに、AKB総選挙のデータでも、最終回の2018年には上位16人のうち半数がB型であるという結果が出ています。
性格に差があるように見えるのは”思い込み”のためか
よくある別の”反論”は、次のようなものです。
心理学者Y:性格に差があるように見えるのは、多くの人がそう思い込んでいるからだ
心理学者Z:その証拠に、正統的な心理学の性格テストでは、血液型による差はなかった
このタイプの心理学者の代表例として、信州大学・菊池聡氏のかつての言説を紹介します。
「A型なのに、ぜんぜん凡帳面じゃない人はいっぱいいる」というように、血液型性格学に対する反証例を挙げる批判法。これも「身の回りの人が当てはまるから信じる」というのと同じ誤った考え方である。血液型学に限らず、おおよそすべての性格理論は統計的なものであって、集団全体の傾向としてしかとらえられない。
(中略)
いずれにせよ、血液型性格判断はなぜ虚偽なのか、これは提唱者が言うような性格の差が、現実に信頼できる統計データとして見あたらないという点につきる。
(不可思議現象心理学9 血液型信仰のナゾ-後編 月刊『百科』1998年3月号)
まったくそのとおり! 心理学者の言説は正しいし、だから「血液型と性格は関係ない」、と断言する人も少なくないはず。しかし、この矛盾は誰でも簡単に見破れます。
否定派心理学者の矛盾
ご存じのとおり、「矛盾」という故事成語は、中国の古典『韓非子』にある有名な逸話に由来していますそれは、「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた楚の商人が、客から「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問われ、返答できなかったという笑い話です。
血液型でも同じ。たとえば、A型の典型的な特徴は「几帳面」だとよく言われます。このことは前出の菊池氏も言及しています。
もし、多くの人が「A型は几帳面」と思い込んでいるなら、当然A型の人にそう答える人が多くならないとおかしい。言うまでもなく「几帳面」は性格です。つまり、心理学者Y氏の言うように、多くの人がそう思い込んでいるなら、どんな性格テストでも「A型は几帳面」という結果になるはずです。
この点から見ると、心理学者Y氏の主張と、Z氏や菊池氏の結果は矛盾しているように見えます。本当に、「性格テストでは、血液型による差はなかった」なら、そのテストは”欠陥商品”だとも言われかねません。常識的には…いや、どう考えてもおかしいのです。
このことは、否定派心理学者の急先鋒だった長谷川芳典氏でさえ同意しています。
質問紙型の性格検査(性格テスト)では、しばしば自己評定型の質問が並べられているため、血液型本やかつての血液型性格判断喧伝番組を繰り返し視ていた人は、質問項目のなかで自分の血液型に合致する行動傾向があるかないかを問われた時に「あてはまる」と答えやすくなる。そういう人たちが調査対象に1割でも含まれていれば、見かけ上、血液型による(統計的に)有意な差が確認される可能性が高い。
実際にも、著名な科学誌である「PLOS ONE」には、日本人は血液型どおり「A型は粘り強い(persistence得点が高い)」結果が得られたという、弘前大学医学部(当時)の土嶺章子氏らによる2015年の論文が掲載されています。
この論文が注目を浴びている証拠は、現在までの引用回数が27回、閲覧回数は2万回超もあること。論文を書いた人なら分かると思いますが、少なくとも私には垂涎の数値です。
心理学者の奇妙な反応
そこで、これらの疑問について心理学者などの否定派に質問してみましたが、楚の商人と同じで、誰もまともに返答した人はいませんでした。
さらに驚くべき事実を示しておきます。実は、上に書いた”矛盾”は私のオリジナルではなく、30年以上前に心理学者などが何回も指摘していたのです。
次は、「性格テストでは、血液型による差はあった」という典型例となります。
【論文1】山崎賢治、坂元章 血液型ステレオタイプによる自己成就現象-全国調査の時系列分析- 日本社会心理学会第32回大会発表論文集 1991年
《結論》血液型と性格の自己報告との間の相関は、弱いが認められた。さらに、一般の人々の自己報告は、大学生の血液型ステレオタイプ(「A型は几帳面」のような有名な特徴)に合致していることがわかった(サンプル約3万人、両氏は1992年に続編を発表)。
【論文2】山岡重行、大村政男、浮谷秀一 血液型性格判断の差別性と虚妄性(自主企画(2)) 日本パーソナリティ心理学会発表論文集 2009年
《結論》血液型項目を用いて自己評定をさせると多くの項目で血液型による(統計的な)有意差が見られる(サンプル6660人)。
【論文3】武藤浩二、長島雅裕ほか 教員養成課程における科学リテラシー構築に向けた疑似科学の実証的批判的研究 2012年
《結論》血液型と性格に関する解析では、過去の研究結果(上記の論文1)を拡張することができたとともに、21世紀以降のデータでは安定して血液型ごとに性格の自己報告について有意な差が出ることが判明した(サンプル推定約23万人)。
心理学の性格理論は正しいのか
これまた驚くべきことに、否定派はこれだけ根本的な矛盾を抱えているにもかかわらず、なぜか「関係ない」という結論だけは変わらないのです。
言うまでもありませんが、科学理論の基本は「再現性」であり、言い換えれば「誰がやっても同じ結果」が必要条件となります。
ところが、現実のデータはこのとおりで、心理学理論に基づく性格テストで血液型の差がないなら、理論自体が問題を抱えているとも考えられるのです。にも関わらず、「関係ない」との結論に固執することは、科学そのものを否定しかねない行為です。私は思わず頭を抱えてしまいました。
もっとも、よくある”反論”は、「自分で論文を書いて学会で発表しろ」というものです。そうしたら認めるとのこと。しかし、以上のことから、現実問題として日本の学会で発表しようとしても、門前払いされる可能性が高いでしょう。
そこで、解決策として英語の論文執筆に挑戦することを決意しました。足かけ3年の努力の末、ついに複数の論文を国際的なジャーナルに掲載することに成功。これらの研究成果は、次回以降詳しく紹介する予定です。
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金澤 正由樹(かなざわ まさゆき)
1960年代関東地方生まれ。ABOセンター研究員。コンピューターサイエンス専攻、数学教員免許、英検1級、TOEIC900点のホルダー。近著『古代史サイエンス』では、AIを活用して日中韓のヒトゲノムを解析し、同時に英語論文も執筆。
『B型女性はなぜ人気があるのか:AIと300万人のデータで読み解く「血液型と性格」』