今回、元FM802アナウンサーで、現在フリーナレーターとして活動している、下間都代子さんが初出版をされた。主宰するClubhouse(音声SNS)の「耳ビジ★耳で読むビジネス書」 は5000名近いリスナーを抱える人気番組でもある。
「この人なら!と秒で信頼される声と話し方」(下間都代子著/日本実業出版)
声に感情を込めるということ
人の話を聞くことで「信頼」を得るためには、表情をしっかり出さないと通じ合えない。たとえ「最後まで聞く」ことができたとしても、聞いているときに相槌を打ち、リアクションをしてあげないと話し手は不安になると、下間さんは解説する。
「今、あなたは『顔の表情』はわかるが『声の表情』って何?と思ったかもしれない。顔の表情と声の表情は連動する。ここでお伝えしたいのは、電話などで人の話を聞くときに効果的な『声の表情』についてである。この声から滲にじみ出てくる『人柄』は、『綺麗な声』かどうかは関係なく、いかに声に『表情』があるかどうかがポイントとなる」(下間さん)
「だからこそ、『声』からも『本』を感じてもらう必要がある。『本音』にはその人の『本心』=『感情』が入る。そして『感情』とは『喜怒哀楽』のことである。本当の心の動き『感情』が乗った声が出ているとき、人は『この人は本気だな』と思う」(同)
「感情」には人の「エネルギー」が注入される。「声」に感情やエネルギーが乗っていないと相手はどう感じるか? じつは、感情が稀薄だと「冷たい」印象になる。その場に応じて素直に「感情」を乗せてはじめて人の心に届く声となると下間さんはつづける。
信頼できる声には「感情」が必要であり、これを上手く使いこなすことが肝要であるともいえるのだろう。筆者は、世界中でブームを巻き起こしたEQ(emotional intelligence quotient)理論を思い出していた。
感情とは一体何者か
2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果に陥った。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延した。
成果主義に対峙する理論としてEQがブームになっていた。理論を確立させた、イェール大学のピーター・サロベイ博士、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士と共同研究をおこなっていた、EQJAPANという組織があった。筆者は統括ディレクターとして、戦略とソリューション、営業を統括する立場にあり、約2000社の日本企業に導入を果たしていた。
EQのわかりやすい解説をしよう。怒りの感情は、フラストレーションを高めて情動(感情)のパニックを引き起こす。自分にとって大事なものを遮断された時の感情に近いのである。怒りをコントロールすることは適切な人間関係を育むうえで必要なスキルといえるだろう。
では、情動がパニックを引き起こすとどうなるのか。 怒りは、自分の身を守るために欠かせない本能だが、怒りに振り回されていると、冷静な判断力が低下し、衝動的な言動を取りやすくなる。情動が平静を取り戻すには6秒が必要と言われている。
最近、アンガーマネジメントで「6秒ルール」などとも言われているが、元の理論はEQの「6セカンズ」である。何らかのトラブルに巻き込まれたら、冷静に6秒数えるのである。
社会で成功する人の素養
あなたが、ある商談のプレゼンに向かうためタクシーに乗った。「よし、やるぞ」と気持ちを高め、気合を入れて会社を出た。しかし、運転手がネガティブだった。「景気はどう、よくないでしょう」から始まり、「友達もリストラされて大変」「ノルマは厳しい」。訪問先に着くころには、高揚していた気持ちはすっかり沈んでいた。
結果的に、その日のプレゼンは大失敗。感情のエネルギーをすっかり運転手さんに奪われてしまい、短時問では感情を調整し高めることができなかった。
こういったタイプの人はどこにでもいるものだ。きっと一人や二人は思い当たる人がいるだろう。
一方、話すと気分がよくなり、元気を与えてくれる人もいる。会うとホッとし、話すほどに元気がわいてくる人だ。彼らはいったい何か違うのか。実は、一番の違いは使っている「言葉」にある。「明るい言葉」は自分の気持ちを明るくし、周囲を明るくすることができる。
筆者は、これまで、EQや感情にまつわる様々な商品を上市し、この分野ではそれなりの実績を挙げてきたつもりである(過去形だが)。今回紹介する一冊は、過去の記憶を蘇らせてくれた。
社会で成功する人の素養は学歴ではない、流行りの薄っぺらいリーダーシップ論や、難解なマネジメント論を体現する人でもない。当然ながらロジカルやアナリティカルな人でもない。感情が豊かで心がやさしい人なのだと断言しておく。この考えは20年変わっていない。
※筆者が上市した商品の数々
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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