イタリア家族相の主張は「正論」だ

欧州連合(EU)上半期の議長国ベルギーがEU加盟国(27カ国)に提示した、LGBT+コミュニティの支援を促進するためのEU宣言に対し、イタリアのエウジェニア・ロッチェッラ家族・出生・機会均等相はローマの日刊紙「イル・メッサッジェーロ」(日曜版)のインタビューの中で「私たちはこの宣言文は非常に偏っていると感じる」と批判している。

イタリアのメローニ首相とエウジェニア・ロッチェッラ家族・出生・機会均等大臣 同大臣SNSより

EU宣言は、5月17日の「国際反ホモフォビア、トランスフォビア、バイフォビアの日」(IDAHOBIT)、通称「多様な性にyesの日」に合わせて作成されたもので、署名国はLGBT+の人々のための国家戦略の実施と、EU議会選挙から生まれる新しい欧州委員会で新しい平等担当EU委員の任命を約束している。

それに対し、イタリアの家族相は「親権」を引き合いに出し、「誰もが愛する人や性的関係を持つ人を選ぶことができる。しかし、文書で支持されている『自分がなりたいものになる自由』は、イデオロギー的な強制であり、現実の否定だ。身体と性的所属の現実は最終的には変えられないからだ」と主張し、「私は、いわゆる性の二元性が依然として有効であるべきだと考えている。すなわち、女性と男性が存在する。私たちは、人類の継続性と親権に基づく人類学を維持したい。男性と女性を廃止すると、親権も変わり、子供が生まれなくなることは当然で驚くべきことではない」と述べている。同相は、ポストファシスト政党であるイタリアの同胞(Fratelli d’Italia – FdI)に属する。

EU宣言に署名しなかったのは、イタリアのほか、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、リトアニア、ラトビア、チェコ、スロバキアだ。

6月は「LGBT月間」(プライド月間)と言われ、欧州全土で性的少数派の権利擁護に関するイベントが挙行される。性的少数派コミュニティは社会の多数派と同様の法的権利と保護を求めている。彼らの最終目標は同性婚の認知だ。バイデン米大統領は昨年、「全ての人間は誰を愛していようと、どのように(性を)自認していようと、尊厳と平等をもって扱われる権利がある」とのメッセージを発している。

社会はこれまで婚姻は男性と女性の異性婚を前提にしている。しかし、ここにきて先進国を中心に同性婚を異性婚と同様に認知する国が増えてきた。寛容と多様性という魔法の言葉が闊歩し、性的少数派に理解を示さない人は逆に差別される、といった風潮が支配的となってきている(「『LGBT月間』に思う」2022年6月20日参考)。

オランダが2001年4月1日、同性婚を最初に合法化して以来、欧州を中心に同性婚を認知する国が増え、2024年現在で36カ国が同性婚を認めている。

欧米社会では生物学的性と性自認が一致しないことで悩む人が出てきた。男性、女性のどの性にも属さない性自認(ノンバイナリー)を主張する人も出てきている。人間は男性、女性の2性ではなく、その混合性を含んで3性が存在すると主張する知識人がいる。「女性は女性として生まれたのではなく、女性となるのだ」といったジェンダー問題での社会的条件を強調する学者もいる。

ドイツでは17日、自己決定法案(Das deutsche Selbstbestimmungsgesetz)が発効することになった。連邦参議院が調停委員会にこれを付託しないことを決定し、法案を通過させた。この法律により、今後は性別登録と名前の変更が官庁で大幅に容易になる。これまで必要とされていた裁判所の決定と2つの専門家の鑑定書は、今後は必要ではない。これまで性別登録を変更するために高いハードルと費用のかかる手続きを経なければならなかったトランスジェンダー、インターセックス、ノンバイナリーの人々にとって朗報となる。

ちなみに欧州国別対抗の音楽祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」の決勝が11日、スウェーデンのマルメで行われ、スイス代表のNemo(24)が優勝したが、彼はノンバイナリーだ。スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォによると、ラッパーで歌手のNemoは、ドラムンベース、オペラ、ラップ、ロックを織り交ぜた楽曲「The Code」で、性自認を男女の枠に当てはめない「ノンバイナリー」としての自分を受け入れるまでの道のりを歌い上げたという。

日本でも2023年6月16日、「LGBT理解増進法」を国会で可決、成立した。この法律の目的は、LGBTへの理解を広めつつ、不当な差別を抑止することだ。今後は基本計画の策定や啓発活動などを実施し、性的少数派への理解を促進し、差別などをなくしていくという。

欧米諸国を中心に同性婚が次第に市民権を得てきている。リベラルなメディアや世論がそれを後押ししている。LGBT+運動を批判すれば、メディアからバッシングを受ける世の中となってきた。それだけに、イタリア家族相の勇気ある主張を評価したい。

特定のテーマでメディアが大合唱して応援し、批判する時、私たちは用心深くならなければならないことを学んできた。同性婚の公認は、国家の土台にも大きな影響を与える問題だ、それだけに、時流や世論に流されることなく、冷静に慎重に対応すべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。