ニューカレドニアで何故暴動が起きたのか?

南太平洋に浮かぶニューカレドニアは人口25万人のフランス領で日本からの観光客も多く、美しい南海の楽園というイメージがありますが、一方でニッケルの世界生産量では第3位で市場の6%を供給するなど資源産業もしっかりしているところです。

その一見平和で安定しているように見られる島で暴動が起きており、非常事態が発令され、フランスのマクロン大統領がわざわざ現地まで足を運ぶ事態になっています。いったい何が起きているのでしょうか?そしてその後ろに隠れるフランスをめぐる複雑な外交問題が介在している点についてみてみたいと思います。かなりややっこしい話なのでご注意を。

Zarnell/iStock

まずニューカレドニアの暴動のきっかけは同地に10年以上滞在するフランス人を含む「外人」に選挙権を付与する憲法改正案に現地の人が反対する中、フランス議会がそれを可決したのがきっかけです。

もともとはニューカレドニアは独立運動を何度も起こしており、フランスの手から逃れたいと考えている住民も多い中で今回の憲法改正は真逆の方向に展開したのでこれは確かに現地の人からすれば心穏やかではありません。

ここで暗躍しているとされるのが南コーカサス地方のアゼルバイジャン。多くの方には無縁の国名だと思います。ロシアの南、トルコの東、イランの北のところにある知る人ぞ知る国ですが、「21世紀の弾薬庫」の可能性すら秘めるのがアゼルバイジャン、アルバニア、ジョージアという3つの国です。この3か国の関係があまりにも複雑なのですが、端的に言えばアゼルバイジャンとフランスは敵対関係です。

そのフランスをいじめる為にニューカレドニアの独立を支援しフランスを追い詰めるための妨害工作をした、というのが今回のシナリオです。

ここが「21世紀の弾薬庫」になれば20年後の教科書に出てくるかもしれないので教科書並みに端的にこの背景を述べておきます。

アゼルバイジャンは対ロでは中立国。テュルク系民族のためトルコとは一心同体、イスラム教シーア派が主流で権威主義。ナゴルノ カラバフというアゼルバイジャン国内にあるアルメニア系住民の独立運動を契機とした戦争を経ており、隣国アルメニアとは犬猿の関係です。

アルメニアは親ロシアでしたが、ウクライナ問題やナゴルノ カラバフ問題をめぐるロシアの態度もあり、最近親ロシアから離脱の方向にみえます。キリスト教が国教でトルコとは敵対関係。アルメニア人大虐殺を聞いたことがあるかもしれませんが、ユダヤ人大虐殺と並び、オスマントルコがアルメニア人に行った蛮行で歴史的なジュノサイドとされます。

ジョージアは従来は親欧米でロシアからすればウクライナの次の標的はジョージアともいわれてきました。しかし、近年は親欧米路線の大統領と議会の不和が発生、現在の与党がロシア寄りでロシアに似たスパイ法案を可決させようと画策、大統領は拒否権を行使していますが、大統領の権限が限定されるため、事の成り行きは予断を許しません。実態としてはジョージアは対ロシアは中立的です。

つまりこれら3つの小国がロシアと欧米諸国、さらにはトルコとの綱引きの渦中にあり、先行きが見通せない状況にあります。

その中で今回のニューカレドニア問題はアゼルバイジャンは表面上、関与を否定していますが、フランスへの報復とみています。上述のナゴルノ カラバフ戦争はアゼルバイジャンが勝ち、停戦し、多くのアゼルバイジャン領にあるアルメニア人はアルメニアに移住しています。ただ、その戦争の際、アルメニアに肩を持ったフランスはアゼルバイジャンにとってはムカつくわけで、今回のニューカレドニア問題の暗躍理由とされます。

ニューカレドニアについては以前から中国も独立支援派とされ、今後世論のみならず世界のボイスを巻き込んだ国家の大争奪戦が起きているとしてもよいでしょう。

中国はニッケルなどの資源のほか、外交上、太平洋上の島嶼国との関係強化を図っているのでその一環かと思います。現在のフランス領のままだと中国は面白くないわけです。確かに南太平洋の小島をいまだフランスが領土としているのは時代錯誤的な印象もあります。もちろん、それを言うとグアムやサイパンはどうなのかとご指摘を受けるかもしれませんが、世の中の趨勢としては独立させていくのが筋道なのでしょう。ただ、中国がウザいですが。

今回、マクロン大統領は「本件は自分がやる」といってニューカレドニアに緊急事態宣言を発令し空港などを封鎖している中での訪問となります。マクロン大統領の命を懸けた説得工作遠征ともいえるでしょう。ちなみにニューカレドニアの独立派は左派で与党は右派でフランス依存を維持したいという派閥です。

世界は思った以上に紛争だらけである意味、戦争前夜的な空気がないとも限りません。なぜ紛争がこれほど増えたのか、これは今日、この項では書ききれませんのでまたの機会に譲りますが、テクノロジーが人間を不和にしたという可能性は無きにしも非ずのような気がします。テクノロジーがなければアゼルバイジャンがニューカレドニアにチャチャを入れる方法もなかったわけですから。

そういう意味では世界の不和は必ずしも国境を接している国々の外交関係から遠隔国への影響力行使といったとび技すら可能になってきたと言わざるを得ません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月23日の記事より転載させていただきました。