私が東京で展開している不動産賃貸事業は基本的に自社で集客し、運営しています。ただ、2年半ほど前に完成したアパート一棟だけは土地買収の際の経緯もあり、初めて不動産屋に集客を任せる実験をしました。
ところが埋まらないのです。不動産屋に「なぜ埋まらない?」と再三聞いても「反応ないですね」の一言。私はそういう点は短気なので自分でも集客を始めてパタパタと客付けをしてしまったのです。その後、不動産屋も頑張り、半分が不動産屋仲介、半分が自社集客で満室となりました。
さて、不動産の一般的な賃借契約は2年ですので、現在、その更新期を迎えています。そこで気がついたことは不動産屋が客付けしたテナントさんに、当方から「更新如何しましょうか?」と連絡をしてもなしのつぶて。何度もメールしても電話してもスルー。
おかしいなと思ったらある日、不動産屋から「〇〇室のお客様は解約になります」と。まぁ、それは致し方ないのですが、「では、次の方を探して頂けますか?」と不動産屋に聞くと数日後に「誠に申し訳ありません、当店では賃貸物件の契約率が落ちていて貸物件在庫が多く、埋められません」。「えぇー!」です。
そこで考えたのです。何がまずかったのだろう、と。自社で集客、運営している物件は満室で皆さん気に入ってもらえているし、更新の際には若干ですが値上げさせて頂いても皆さん、苦情もなく受け入れてくださっています。「そうか、大家の顔が見えないのだな」、これが結論です。
仲介とは売り手と買い手をつなぐ役割で接着剤のようなものです。これは双方が求める借りる、貸すという行為に対して山のように書類を作って仲介業者のリスクを回避しながら接着する作業とも言えます。ところが実際にテナントさんが住み始めると様々な問題が起きる可能性があります。それをいちいち不動産屋経由でやり取りすると物事の解決には手間暇がかかるのだと。
つまり、コミュニケーションラインが当初から設定されていないわけです。もちろん、大家さんによっては「そんなの、不動産屋さんが解決してよ」という不介入主義の方もいらっしゃいますが、それはビジネスの本質ではないと思うのです。アパート経営は定期預金の利息を貰うのとは違うのです。
私のテナントさんには学生さんも多いのですが、私が取っているコミュニケーション手段は実は学生さんの親御さんとの直接のやり取りです。借りる時から親御さんに顔を売り、親からすれば遠くに住む子供に何かあった時に話ができるのは大家さん、という関係を作るのです。実際に数多くの問題をそれで解決しました。時には学生さんが4か月ぐらい賃料滞納した挙句、プイと無断退去した時も親御さんと相談し、1年がかりで全額回収しました。
仲介ビジネスは不動産に限らず、あらゆる分野に存在します。会社の買収でも専門業者が言葉巧みに仲介し高額の手数料を抜き去ります。私も何度か会社買収をやってきていますが、仲介業者を雇ったことはありません。小規模の買収では弁護士すら雇いません。それぐらい全部できる武器と知識(契約書や法的付随書類、手順など)は持ち合わせています。
自分でやると何が良いかと言えば、相手と直接やりとりするので聞いた聞かなかったという話を最小限に食い止められるし、気になることを聞き出せるメリットがあるのです。そして双方ウィンウィンで売買するわけですから、取引後も良好な関係が維持しやすくなります。
人材紹介会社は欧米でも非常に発達したビジネス形態で人材仲介事業ともいえます。働きたい人が登録し、会社とマッチングサービスをするわけです。私はかつてこの仲介サービスで5-6人、採用したことがあるのですが、ほぼ全滅でした。理由は雇われた人から見ると「この人に雇われた」という忠誠心が直接雇用の場合と比べ落ちるのです。
雇われる側からすると諸条件と仕事の内容というファクトシートで就職を決めるのですが、会社には雰囲気、社風、同僚との関係、プレッシャー度などファクトシートに出ない事実も多く隠されており、このマッチングが難しいのです。それ以降、人材紹介会社は一切使いません。自分で人材募集を出して書類選考、面接をやります。「手間だろう」と聞かれたら「大事なスタッフを採用する以上の仕事がありますか?」と答えます。
仲介というのは双方にとって便利なツールです。ですが、私から見ると前近代的なビジネスに見えるのです。これだけ情報化が進み、ITに便利なアプリが出来た今、双方が直接探す「相対市場」はオンライン上でいくらでも生み出せる時代になりました。もちろん、大規模な仲介の場合や企業間取引における『中和剤(=仲介)』を要す」といったリスク回避手段を求めるケースはやむを得ませんが、個人的には仲介ビジネスのあり方は変わっていくのだろうなと思います。駅前のべた張り不動産屋が化石となる時代も遠くない気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月24日の記事より転載させていただきました。