「ここだけの話」を聞く技術。そんなものは存在するのか? そう思った方もいることでしょう。よほどのコミュニケーション能力がない限り、そんなものは持てるはずがない、と思っている方も多いのではないでしょうか。
『できる人だけが知っている 「ここだけの話」を聞く技術』(井手隊長著)秀和システム
沈黙が怖い?話題はすぐ目の前にある
会話の中で「沈黙」が怖いというのはよくある話。ひとつの話題が終わると、沈黙の時間ができてしまうというのは、会話が得意な方であっても、誰でも思い当たると思います。
「とくに初対面の『はじめまして』のタイミングで、沈黙時間ゼロで会話を続けろというのは無理な話でしょう。実際に会話の引き出しが無限にあるという人は稀で、どうしても沈黙の時間は出てしまうもの。ただ、その会話の目的が『沈黙を作らないこと』かというと、それもまた違うかなと思います」(井手隊長)
「あくまで、目の前の相手といいコミュニケーションを作ることが会話の目的だとするならば、沈黙があったらダメということにはならないのです。むしろ、沈黙の時間があるのは当然です。沈黙の時間に焦って次の話題が出てこず、さらに焦ってしまい、そのあいだに相手が気まずさから『今日はこの辺で……』となるのは、あまりに残念な話です」(同)
沈黙の時間が訪れたときに、私がよく使うのは「なるほど〜、そうなんですね」と、少し間を作りつつ、目の前にある料理やドリンクについて触れるという手法です。会食なら料理があると思いますし、打ち合わせならドリンクが目の前にあるでしょう。
「取材しているラーメン店主の中でも『しゃべらない人』というのは結構います。ラーメン店主はラーメン作りが得意なわけで、しゃべることには慣れていないことが多いです。店主からお話を伺うときは、こちらがまくしたてることなく、ゆっくりとしたペースを保つようにします」(井手隊長)
「また、なるほどと相槌を打つくらいでも相手は悪い気はしません。沈黙を埋めることよりも、話を一生懸命に聞いてくれている姿勢が見えることが大事なので、無理に話そうとしなくてもいいと思います」(同)
沈黙は怖くはない
「話しはじめる前から、われわれはすでに値踏みされているのだ」。この一節はデール・カーネギーの言葉です。カーネギーは話しているときの重要なポイントとして、話の前後に沈黙を置くことを推奨しています。
そして、アメリカ合衆国の大統領だったリンカーンの演説を引用し、「リンカーンは重要な話をする前はしばらく沈黙してから、重要な話をして、人々を引きつけた」ということを解説しています。
話している途中で、相手が突然沈黙をすると、「なんだろう?」と思います。そして、いっそう相手に注意を向けることになります。注意を向けた結果、「次に相手が話すことはとても重要なことではないか」意識するようになります。
話している途中で、特に相手に注意してもらいたいときには、その前にいったん間を置くことによって相手の注意を引きつけ、あとで重要なことを話し出すのが有効です。これは、スピーチやセミナーにも応用できます。
スピーチやセミナーでは、必ず重要なポイント、相手に覚えておいてもらいたいポイントがあるものです。そのポイントを話す前に、少し沈黙を置くことによって、聴衆や受講者の注意を講師に向けることができるのです。
本書では著者が長年培ってきた会話と交渉のテクニックに加えて、心理学の考えとテクニックを盛り込んでいます。ビジネスのさまざまなシチュエーションで活用できると思います。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)