再エネタスクフォースの廃止はエネルギー問題正常化の始まり

池田 信夫

中国国家電網のロゴ問題をきっかけに強い批判を浴びていた内閣府の再エネタスクフォースの廃止が決まった。当然である。根拠法もなく河野太郎氏の集めた「私兵」が他の役所に殴り込み、大林ミカ氏のような活動家がエネルギー基本計画にまで口を出したのは法治国家として異常な状況だった。

これはエネルギー問題を正常化する始まりに過ぎない。国家電網のロゴは氷山の一角である。これを指摘された大林氏がただちに辞任したのも、再エネTFの黒い過去を暴かれたくなかったからだろう。ここで彼らの罪状をおさらいしておこう。

再エネTFのZoom会議

再エネFITは40兆円以上をだまし取る「史上最大の詐欺」

再エネTFのメンバー4人のうち2人(大林氏と高橋洋氏)が自然エネ財団のメンバーであり、河野規制改革担当相と山田正人参事官は再エネ推進派だから、再エネTFは有識者会議ではなく、再エネ業界のロビー団体だった。

そんな活動家が、なぜ内閣府の有識者会議に入ったのか。内閣府は国会で「事務方が人選して河野大臣が了承した」と答弁した。この事務方とは山田参事官である。彼はかつて経済産業省の反原発派で、核燃料サイクルに反対する「19兆円の請求書」という怪文書を書いて左遷された。

そんな日陰者の反原発派が脚光を浴びたのが、2011年の福島第一原発事故だった。孫正義氏は民主党政権に食い込み、ちょうどそのときできた再エネの固定価格買い取り制度(FIT)を最大限に利用した。

このとき孫氏は「太陽光発電は原発より安い」という一方で「単価がキロワット時40円以上でないと採算が取れない」という要望を政府に出した。彼は国会などで「EU(欧州連合)の平均買い取り価格は65円だ」と主張したが、これは嘘だった。

2012年12月に菅直人首相がトップダウンで事業用40円、住宅用42円という買い取り価格を決めた。日本でもメガソーラーなら当時でも20円以下だったが、それが2倍以上の価格で全量買い取り保証され、20年間リスクゼロなのだから、外資が大量に参入して数兆円の投資がおこなわれた。

バカ高い買い取り価格がつけられた結果、2030年までに累計44兆円の再エネ賦課金を電力利用者は払わなければならない。これは国家を巻き込んで再エネ業者に巨額の利益を与えた史上最大の詐欺といってよい。そして自然エネ財団が行政に介入する窓口になったのが、2020年にできた再エネTFだった。

大停電寸前でも「原発再稼動するな」と提言した再エネTF

2022年の3月22日、東京電力の管内は大停電(ブラックアウト)の一歩手前だった。その最大の原因は、3月17日の地震で東電と東北電力の火力発電所が停止し、出力が335万キロワット低下したことだが、もう一つの原因は地震が3月に起こったことだった。

これについて、再エネTFは「電力は足りるから原発再稼動は必要ない」という提言を出し、業界を驚かせた。これに対して資源エネルギー庁がくわしく反論した。3月は約1000万キロワットが定期補修に入っており、最大に稼働しても4500万キロワット程度が限度だった。合計270万キロワットの柏崎刈羽6・7号機が動いていれば予備率は5%以上あり、大停電のリスクはなかった。

なぜ再エネTFは原発再稼動に反対するのか。その理由は、原発が動くと再エネが送電線にただ乗りできなくなるからだ。送電線は大手電力(旧一般電気事業者)が建設した私有財産だが、今は原発が動かせない大手電力の送電線を再エネ業者が借りて使っている。

しかし原発が再稼動すると、大手電力の送電が優先になるので、再エネ業者は自前の送電線を建設しないといけない。だから原発再稼動に反対するのだ。こういう再エネ業者のエゴイズムを提言と称して役所で発表し「電力は足りている」などデマを流す利益誘導が再エネTFの仕事だった。

電力自由化でエネルギー産業は崩壊した

3・11以降、民主党政権が国際相場の2倍で全国民に買い取らせたFITと、違法に止めた原発によって日本経済は数十兆円のダメージを受け、今なお立ち直れない。その原因は、民主党政権のエネルギー政策を経済産業省が利用し、電力自由化の懸案だった発送電分離を強行したからだ。

発送電分離は、電力会社の発電部門と送電部門を分離して競争させる改革で、英米では1990年代におこなわれたが、日本では東電の政治力が強いため分離できなかった。ところが原発事故の処理で経営の破綻した東電が、原子力損害賠償支援機構の傘下に入って実質的に国有化された。

これは「親会社」になった経産省にとって千載一遇のチャンスだった。原発がすべて止まり、再エネの価格が世界最高になった状況で、エネ庁は無知な民主党政権を利用して火事場泥棒的に電力自由化を強行したのだ。

反原発・再エネ派にとっても、これは大勝利だった。発送電分離のもとでは、発電会社は供給責任を負わない。燃料費のかからない再エネ業者は安い限界費用で卸電力市場(JEPX)に卸し、固定費を負担しない新電力はそれを仕入れて高い小売値で売って大もうけした。

その結果、何が起こったか。1日のうち、太陽光発電が使えるのは3時間程度である。残りの21時間は、火力や原子力でバックアップしないといけないが、条件のいい昼間には再エネの電力を全量買い取るので、火力は止めないといけない。これによって火力の稼働率が落ちるので採算が悪化し、古い石炭火力が廃止された結果、毎年のように電力不足が繰り返されるようになった。

エネルギー安定供給に反対する河野太郎氏

このような電力不足を防ぐために、経産省が導入したのが容量市場である。これは簡単にいうと、古い火力が採算に合わなくなっても、それを廃止しないで温存する制度である。具体的には電力広域的運営推進機関(広域機関)が4年後に必要な発電容量を公募し、オークションで発電会社から買い取る。

ところが再エネTFはこの容量市場に反対し、総合資源エネルギー調査会で執拗に反対意見を繰り返した。これをけしかけたのは河野氏で、2021年の第6次エネルギー基本計画が決まるとき、エネ庁の責任者を内閣府に呼びつけて「容量市場を凍結しろ」とどなり上げた。頭に来たエネ庁がこの音声データを週刊文春に売り込んで話題を呼んだ。

これほど彼が容量市場にこだわるのは、新電力が競争で不利になるからだ。容量市場は古い火力の発電容量を買う制度だから、大手電力は自社の発電所の容量を売り、広域機関からそれを買うので、ほとんど純負担が発生しない。

それに対して発電設備をもっていない新電力は広域機関に拠出金を払うので、1~2割コスト増になる。このため大手電力との競争に負けるというのだが、これは身勝手な理屈である。容量市場は再エネのバックアップなのだから、そのコスト負担がいやなら自前で発電や蓄電設備をもてばいいのだ。

脱炭素化はエネルギー安定供給を実現してから

私は規制改革に反対しているのではない。内閣府の規制改革推進会議に協力したこともある。しかし河野氏と再エネTFがやっているのは、規制改革の私物化である。たとえば2023年12月に規制改革推進会議の出した中間答申には、なぜか(参考)として再エネタスクフォースの実績が書かれている。

規制改革推進会議は内閣府が正式に設置した会議だが、再エネTFは法的根拠のない河野氏の私兵である。その報告がなぜ推進会議の答申の中にまぎれこんでいるのか。これについて国会で追及された内閣府は答えられなかった。おそらく河野氏が押し込んだのだろう。

エネルギーは経済安全保障のコアである。河野氏(再エネTF)と孫正義氏(自然エネ財団)は、再エネを全国に拡大して火力を廃止に追い込み、日本のエネルギーを脆弱化して中国の支配下に置くことに貢献している。彼らが中国の工作員かどうかはわからないが、結果的に中国の国益に奉仕していることは間違いない。

再エネTFの解散を機に、政府は河野氏のエネルギー問題への影響力を断ち切り、自然エネルギー財団の公益認定を取り消し、エネルギー基本計画は安定供給を第一に考えて審議すべきだ。河野氏は再エネ拡大を至上命令と考えているようだが、それは脱炭素化の手段にすぎず、脱炭素化は緊急でも最優先でもない。安価なエネルギーが安定供給できてから考えればいい。