上下院とも休会を終えて、ワシントンに戻ってくる。下院は週の前半のみ。上院は1週間の開催となる。
総選挙が近くなり、上下院はますます党派色が強くなっており、上下院で可決して立法化しそうな議案は極めて少ない(っていうかほぼない)。2021年からはじまった118会期は上下院の足並みがそろわずに終わりそうだ。
5/20-24の米議会の振り返り、今週の投票予定
今期(118会期)のねじれ議会において上院で可決する見込みはないと考えている。一方で、2024年総選挙後の来年から議会構成は変わり、連邦議会選挙では共和党が多数党になると私は予測している。そのため、下院で可決している法案は来年以降に可決する可能性があるので書き留めておくことにする。
①【下院で可決】Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act (H. RES. 1243)
5月22日に279対136の賛成多数で可決した。共和党は反対が3名、投票棄権が6名。それ以外はすべて賛成に投票した。民主党からも71名がこの法案を支持した。
下院金融サービス委員会の民主党ランキングメンバーであるウォーターズ議員は反対票を投じた。この法案では、デジタル資産に対する規制の枠組みを定義する。デジタル資産が機能的かつ分散化されたブロックチェーン上にある場合は、CFTC(商品先物取引委員会)が商品として規制し、分散化されていない場合、SECが有価証券として規制することになる。
この区分けにより、ビットコインを含むほとんどの暗号資産を、証券ではなく商品として分類することにより、CFTCの監督下に置くことになる。これは業界団体や暗号資産を保有する投資家にとっては勝利ともいえる。
要は、デジタル資産に対して規制当局の管轄が明確に定義できていないので、 規制機関であるSECとCFTCの間に規制権限の線引きをするということだ。規制権限の線引きが明確になることで、 SECが数々の仮想通貨企業に対し訴訟を起こしてきた強硬手段はなくなるだろう※1)。
当然ながら、ゲンスラーSEC委員長はこの法案に反発している。
② 【下院で可決】 CBDC Anti-Surveillance State Act(H. R. 5403)
FEDが仲介者を通じてデジタルドルを発行することを禁止する法案。
5月23日に216対192の賛成多数で可決した。共和党からは投票棄権3名を除き、全員が賛成に投票した。民主党からは3名が支持。
リリース文※2)をみると、American Bankers Association(ABA), Blockchain Association, 全米中小企業連盟やヘリテージ財団など共和党の主要支持団体がこぞってこの法案を支持していることがわかる。共和党がどちらかの議会で多数党、あるいは大統領になった場合は、CBDCは進まないだろう。
彼らの主張としては
- 個人のプライバシーについて深刻な懸念がある。
- 選挙で選ばれてもいない連邦政府の官僚にすべての購買行動を監視されることになる。
- CBDCs は徴税や監視のために”weaponization”となる。
③【上院で否決】Border Act of 2024
2月に超党派で作成した国境警備を強化する法案は、再び上院で否決された。
もはやこれはシューマー上院院内総務のアピール法案であって、法案作成に関わったランクフォード議員でさえも否決して「これはメッセージ法案だ」と一蹴した。上院院内幹事のスーン議員もたとえ上院で可決したとしても、下院で可決することはないとしている。もちろんジョンソン下院議長は以前からこの法案を投票に持ち込まないと宣言していた。
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さて、今週の下院予定をみると※3)、郵政公社の施設名変更しか予定が入っていない。ユダヤ人コミュニティが米国建国当時からいかに米国に貢献してきたかを市民社会や選挙で選ばれた代表者に呼びかける決議案くらいだ。
もしかしたら、2025年度予算の歳出法案が動くかもしれない。
上院も粛々と、判事の承認が続いていきそうだ。
④ the Farm, Food, and National Security Act of 2024
今、最も注目されている法案が2024年のfarm bill(正式名称は、the Farm, Food, and National Security Act of 2024)で総額$1.5兆にものぼる。すでに下院農業委員会は33対21の賛成多数で委員会採決はクリアしたが、民主党から支持は得られていない。
この法案は、主に栄養補助プログラム(SNAP)と農家への補助金から成り立っていて、民主党と共和党が協力して進めるためにこの2つを抱き合わせて進めてきた法案だ。 昨年成立できなかったので、これは1年間の延長法案となった。両党で解決できていない法案なのだ。
下院農業委員会で可決した farm billは、SNAP資金を数百億ドル削減することにつながるので民主党は猛反発している。また、気候変動に配慮した農業を行うためのインフレ削減法の予算から130億ドル近くを再配分することも求めている。 さらに、作物価格が下落した場合に農家の所得を下支えする価格支持融資や不足払い(価格変動対応型支払いプログラム)において、米、ピーナッツ、綿花の3品目が基準価格に引き上げられることも盛り込まれた。
期限が9月30日までではあるが、上院での審議は進んでいないし両党の隔たりが激しいだけでなく、共和党内でも意見が分かれていることもあるのでまだ調整に時間がかかるだろう。
【参考資料】
※1:House passes Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act
※2:WTAS: Emmer’s CBDC Anti-Surveillance State Act is ‘a necessary measure to protect Americans’ financial privacy’
※3:https://www.majorityleader.gov/schedule/weekly-schedule.htm
編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。