G7プーリア・サミットと「選挙」

イタリア南部プーリア州で13日、3日間の日程で先進7か国首脳会議(G7サミット)が開幕された。同首脳会談では長期化するロシアとウクライナ間の戦争や中東のイスラエルとパレスチナ自治区ガザでのイスラム過激テロ組織「ハマス」間の戦闘への対応、人工知能(AI)への規制問題などが話し合われる。ウクライナ問題ではゼレンスキー大統領が対面参加して話し合う。なお、スイスで15日から「ウクライナ和平サミット会議」が開催されるが、日本の岸田文雄首相は15日、同サミット会議に参加するためにスイスに向かう。

G7サミット会議参加前に会見する岸田首相(2024年6月12日、首相官邸府公式サイトから)

ところで、「2024年はスーパー選挙イヤー」と言われてきたが、G7の首脳陣の顔ぶれを見ると、国内で選挙を控えている首脳が多いことに気が付く。先ず、バイデン米大統領は11月5日に大統領選を控えている。予想では、共和党からトランプ前大統領がホワイトハウスへのカムバックを目指してバイデン氏と対決を臨む。欧米メディアでは「もしトラ」という表現が飛び交っているが、トランプ氏が勝利する可能性も排除できない状況だ。

バイデン氏は今月6日から9日までフランスを国賓として訪問したばかりだ。そして今、G7サミット会議のために南欧イタリアを訪ねているわけだ。高齢(81歳)のバイデン氏にとってかなりきついスケジュールだ。ただ、15日からスイスで開催される「ウクライナ和平サミット会議」にはハリス副大統領が参加する予定だ。バイデン氏の体は欧州の地にあるが、心は米国内の選挙戦の行方にあるのではないか。次男(ハンター・バイデン氏)が11日、武器不法購入などで有罪判決を受けたばかりだから、猶更だろう。

スナク英首相は今月6日開催された第2次世界大戦でフランスのノルマンディー上陸作戦(Dデー)80周年の記念式典でオマハビーチでのメイン式典を欠席して英国に飛び帰った。このことが明らかになると、英国メディアからバッシングを受けている。英国は当時、Dデーで重要な役割を果たした。その英国の代表が欠席したからだ。あれも、これも、来月4日の総選挙が差し迫っているからだ。選挙の行方はスナク首相の保守党には厳しく、野党の労働党の勝利はほぼ間違いないと予測されているだけに、スナク首相はゆっくりとオマハビーチでスピーチする状況ではなかったのだろう。

フランスのマクロン大統領は今月9日、欧州議会選挙で与党連合が完敗し、大統領候補者の一人、マリーヌ・ルペン氏の国家主義、ポピュリズムを標榜する極右「国民連合」(ジョルダン・バルデラ党首=RN)が得票率約32%を獲得して大勝したことを受け、急遽議会を解散し、今月30日に下院(小選挙区)選挙を実施すると発表したばかりだ。

マクロン氏は大統領だから選挙とは直接関係はないが、RNが下院選で勝利し、政府をRN主導政権とした場合(コアビタシオン)、政権運営が難しくなるうえ、2027年の大統領選でルペン氏が勢いを得て大統領に選出されるチャンスが更に膨らむ。マクロン氏はそれをなんとか阻止したいのだ。果たして、マクロン氏は心落ち着かせてG7サミットの議題を協議できるだろうか、と心配になってくる。

ドイツの場合、ショルツ首相を率いる3党連立政権(社会民主党、緑の党、自由民主党)は欧州議会選で完敗し、3党の得票率を合わせても30%余りだ。一方、中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が断トツでトップを走り、それを極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が東独で高い支持率を得て、第2党に躍進した。ショルツ連立政権の任期は2025年秋まであるが、ドイツ国内では既に議会を早期解散して国民の信任を問うべきだという声が高まっている。9月以降、東独で3州の議会選が実施されるが、ショルツ政権の苦戦は予想され、政権は青息吐息といった状況だ、ショルツ首相の頭は9月以降に実施される東独3州議会選(ザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州)の対策で一杯ではないか(「ドイツで早期総選挙実施の声高まる」2024年6月13日参考)。

イタリアのG7サミット会議ではホスト国イタリアのメローニ首相が一番元気がいい。欧州議会選でもメローニ首相が率いる右派政党「イタリアの同胞(FDI)」が第1党と躍進したばかりだ。欧州委員会のフォンデアライエン委員長の再選の可能性は高まってきているが、同委員長はここにきてメローニ首相と接触し、極右派の支持を得ようと腐心している。メローニ首相の株は急上昇中だ。短命政権が常だったイタリアの政界でメローに首相は異例の政治力を発揮している。

日本の岸田首相にとっても議会選挙は決して遠い先ではないだろう。国内では既に「ポスト岸田は誰か」と囁かれている。得意の外交で支持率をアップするためにG7の檜舞台で活躍したいところだが、ホスト国を務めた広島G7のようにはいかないだろう。欧米リーダーの陰になって、その存在感を発揮できずに終わるのではないか。なお、今回のG7サミットで参加回数が最も多いのはカナダのトルドー首相だ。同首相は来年、首相就任10年目を迎える。

選挙は民主主義の要であり、法治国家の証だ。選挙に勝たなければどんな政治家も即タダの人となる。それだけに、政治家が選挙に邁進するのは当然だろう。その点、世界のメディアの注目が集まるG7サミット会議はいい機会だが、世界の行方、動向を協議する会議で、国内の選挙戦に心が奪われている政治家の目線はどうしても国内の有権者の反応に関心がいくものだ。

参考までに、プーチン氏はウクライナのゼレンスキー大統領に対し、「大統領としての任期が過ぎたのに大統領職を行使している」として、政治家としての正当性に疑いを投じている。プーチン氏は「自分は大統領選の洗礼を受け、通算5選を果たしたばかりだ」と考えているのだろう。ただ、欧米ではプーチン氏の5選に祝電を送った国はほとんどなかったように、ロシアの大統領選は民主選挙とは程遠い。ちなみに、ウクライナではロシア軍の侵攻以来,戒厳令が敷かれており、2024年3月末に予定されていた大統領選は延期されたばかりだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。