サッカーで"不景気風"を吹っ飛ばせ

「早く来い来い、お正月・・」ではないが、14日から7月14日までまる一カ月間、ドイツで欧州サッカー連盟(UEFA)主催の欧州選手権(ユーロ2024)が開催される。ホスト国のドイツでは既にサッカー・フィーバーが吹き荒れ、ウクライナ戦争や中東のガザ戦争のニュースから国民の目はナショナル・チームの一挙手一投足に熱く注がれている。欧州のサッカーファンの熱気に水を差すとすれば、テロの脅威だ。欧州のテロ専門家の間では「多くの関心と観衆が集まる欧州サッカー選手権はイスラム過激テロ組織の襲撃の格好のターゲットだ」と指摘し、主催者側のドイツ当局に警戒を呼び掛けている。

ドイツ開催のユーロ2024(EURO2024公式サイトから)

初日の14日午後9時(日本時間15日午前4時)、ホスト国ドイツとスコットランドの試合がバイエルンの本拠地のミュンヘンのアリアンツ・アレーナで始まる。開催地はミュンヘンのほか、ベルリン、ドルトムント、シュトゥットガルト、ハンブルク、ゲルゼンキルヒェン、フランクフルト・アム・マイン、ケルン、デュッセルドルフ、ライプツィヒの計10か所の競技場で試合が行われる。

ファンはスタジアムだけではなく、ドイツ全土のファンゾーンやパブリックビューイング、バーやビアガーデンでチームを応援できる。UEFAによると、ユーロ2024の期間、計51試合が行われ、チケットは全試合既に完売という。パブリックビューイングだけでドイツ国内から最大1200万人が来場すると予想している。大型スクリーンで試合中継を行う大規模な無料ファンゾーンも設けられている。

ユーロ2024を待ち望んでいるのはファンだけではない。テログループもそうだ。ドイツのフェーザー内相は13日、「治安当局は適切な態勢を敷いている。現時点で具体的な脅威情報は入っていない」と述べた。しかし、治安当局はイスラム過激派のほか、ロシアのウクライナ侵略戦争やガザ地区での戦争などの潜在的な脅威を理由に警戒を緩めていない。例えば、サッカーの試合ではフーリガンが暴れることもある。ドイツ当局は欧州の治安当局とフーリガン関連情報の交換、国境警備の強化に乗り出している。治安当局によると、「スタジアムやその他の会場へのドローン(無人機)による奇襲テロも十分考えられる」として対策を検討している、といった具合だ。

一方、ホスト国ドイツではユーロ2024が国民経済を活性化させることを期待している。ユーロ2024の経済効果だ。同国は昨年リセッション(景気後退)に悩み、今年に入ってようやくプラス成長となったとはいえ、物価の高騰、エネルギー・コストの急騰などで消費者の購買意欲は停滞している。ドイツ連邦統計庁によれば、今年第1四半期の国内総生産(GDP)は前期比(季節調整後)で0.2%増だったが、依然厳しい。2006年のドイツ開催のサッカーワールドカップ(W杯)ほどではないとしても、ユーロ2024は小売、ケータリング、宿泊施設などの消費者関連の経済部門を回復させるチャンスでもあるわけだ。

欧州サッカー選手権はワールドカップ(W杯)に次いでビッグイベントだ。24チームが6グループに分かれ、グループ戦が行われ、グループ上位2位と各組3位のうち成績上位4チームがラウンド16に進出し、欧州最強の座をかけて本戦に入れる。前回2021年のロンドン主催の欧州選手権ではイタリアが決勝戦でイングランドに3対2で勝って2度目の欧州王者となった。

ドイツはかってはサッカー強国と見られ、ブラジル、フランス、イングランドと並ぶサッカー王国だったが、前回のカタールで開始されたW杯ではグループ戦で3位となり、本戦にも行けず早々と帰国した。ドイツチームはビッグイベントの試合では最近は悉くファンの期待を裏切ったため、「サッカー王国」から「世界のサッカー界のBチーム」と酷評されてきた。それだけに、ホスト国となった今回は健闘を期待しているファンが多い。ただし、英国のブックメーカーによると、ドイツの優勝を予想する声は少ない。逆にいえば、期待されていない分、気楽に試合に臨めるというメリットがある。若い選手が多いだけに、思い切ってプレイできれば結果も期待できる(「『サッカー王国』ドイツのW杯予選落ち」2022年12月4日参考)。

なお、優勝有力候補は前回のW杯の覇者フランスを筆頭に、イングランド、スペイン、フランスといったところだろうか。当方が住んでいるオーストリアはDグループでオランダ、ポーランド、フランスといった強豪が相手だけに予選通過は大変だ。ただし、各国チームの実力は拮抗しているので、勢いに乗ったチームが予想外の活躍をするのが欧州選手権だ。参加国の選手の活躍と安全を願う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。