不確実性の高い未来への投資と確実性の高い過去への投資

産業界には、必ず、滅び行くものと新たに創造されるものとの二側面があって、両者は、ともに投資対象になり得る。

例えば、生命保険会社は、既契約の集合体という過去の側面と、新契約の創造という未来の側面をもっていて、理論的には両者は截然と分離され得るわけである。故に、生命保険会社の企業価値は、過去分の価値と未来分の価値の合計として測定可能なのだから、理論的は、両者を分離して、投資対象に構成できるのである。さて、日本の業界の現状として、両者がともに投資価値をもつのか、それとも過去の正の価値を未来の負の価値が食い潰しているのかは極めて興味深い論点である。

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同様に、理論的には、全ての企業について、過去の価値と未来の価値に分割した分析評価は可能である。生命保険の場合、事業の特殊性からして分析の精度が高くなるのだが、例えば電気事業者についても、現に保有している電源の価値と、未来に向けて建設される電源の価値とは、それなりに高い精度で測定され得るはずである。

そして、ここでの問題は、過去分の価値のほうが高い精度で測定されることである。しかも、廃棄される発電所や、生命保険の既契約など、確定されていて、消滅に向かうだけの過去の価値は、より高い精度で測定される。故に、ガソリン自動車の製造も、銀行がなくなるのならば銀行も、煙草が禁止されれば煙草の製造も面白い投資対象になるわけだ。

過去の価値は、高い精度で測定される。これを普通の言葉でいえば、リスクが小さいということである。それに対して、未来の価値の測定には極めて大きな不確実性が伴うわけで、それを投資対象に構成すればリスクは高くなる。

通常、企業は、確度の高い過去の価値を保有し続けることで、未来に賭けていく大きなリスクを吸収している。例えば、不動産会社は、開発済みの収益物件を保有し続けることで、新たな開発のための資金を調達し、同時に、その開発リスクを吸収しているわけである。

しかし、別な経営のあり方としては、収益物件を売却し、その代金を新規開発に充て、開発リスクを自己資本で吸収することもできる。実は、このリスク吸収こそ自己資本の機能であり、株式を発行していることの目的なのだから、株式は、その本来の機能に純化されるとき、最も価値が高くなるはずなのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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