グリコが先月よりプッチンプリンをはじめとする多くの冷蔵食品の出荷停止状態に陥っています。
なんでも大手コンサルに発注した社内システムのトラブルが原因だとのこと。
さらには、それを受けて同社が出した中途採用案件の条件があんまりだと話題になっているようです。
【参考リンク】グリコ、ITの精鋭部隊を年収500万円で募集→「悲劇のトラブル招いた原因」
確かに、その条件を満たす人材は大手ITベンダーにもめったにいない層なので、提示された条件での採用はまず不可能でしょう。
なぜグリコはことここにいたっても渋ちんなんでしょうか。本当にそういう渋ちん体質が一連のトラブルの本質なんでしょうか。
いい機会なのでまとめておきましょう。実はキャリアデザインを考える上で貴重なサンプルが含まれているからです。
やっぱり賃金が上がらないのは終身雇用のせい
「日本の労働市場」と聞くと、すべての労働者に値札が付いている巨大な一つの市場をイメージする人が多いでしょうが、実は日本にはもう一つ市場が存在しています。
それは「それぞれの会社ごとに存在する閉じた市場」です。両者は全く異なるメカニズムで運用されているため、会社員は原則としてそれぞれの市場向けの2つの値札を持っていることになります。
ややこしいので前者を転職市場、後者を社内市場と呼びます。
転職市場は普通の市場なので、他の市場同様にニーズと供給量で値段が決まります。
一方の社内市場は、以下のような特殊なしがらみが存在するため、値札は全然異なったものとなります。
・クビに出来ない
・65歳まで雇用することを前提としないといけない
・一度昇給させるとなかなか下げられない
・社内に年功序列で組みあがったパズルみたいな組織がすでに存在していて、年齢や学歴により中途採用者が当てはまる処遇はだいたい決まってしまっている
それで結果的にどうなるのかというと、凄く大雑把に言って転職市場価格から3割くらい抑えた値札になってしまうものなんです。
「前職の外資では1,500万円貰っていたのに、日系大手から『ぜひうちにきて』って言われて1千万円提示されたんだけどどういうこと?ケンカ売ってるの?」
みたいな人よくいるんですが、それ普通ですね。全然悪気はないと思います。
たとえその人に定年まで1,500万円払う余裕が十分にあったとしても、会社内には「大卒35歳なら基本給〇〇万円~〇〇万円」みたいなレンジが既に存在し、みんな黙々とそれに従って生きているわけですよ。
それを無視して一人にだけ外の市場価格で報酬を払うというのは、まず普通の会社には出来ない話でしょう。
もうだいぶ少なくなりましたけど、いまだに「日本人の給料が上がらないのは終身雇用のせいだ」というと真っ赤になって反論する人がたまにいます。
でも現実を見てください。あのグリコが、看板商品の出荷停止という危機打開のために広く勇者を求めるその対価が年収500+α万円ですよ。
グリコの人事部だってこれじゃ採れないだろうとわかってるでしょうけど、終身雇用だとそれしか提示できないんだからしょうがないんですよ。
「定年まで安定して雇用されるのは十分魅力的だろう」という人もいるんですが、優秀層というのはそもそも「そんな保証なんて必要ないからもっと払え」というような人たちです。
一応フォローしておくと、実際には同社は1千万円くらいは出すつもりなんだと思います。ただ恐らく管理職扱いになるので、中途でいきなり管理職にはしたくない等の事情があって、1年目は500~800レンジにおさめつつ、2年目以降で昇給させるつもりなんでしょう。
まあそれでも求める水準の人材が採れるかは微妙でしょうけど。
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以降、
・2つの労働市場の格差はかつてないほどに拡大している
・労働も単なる一商品にすぎない
Q:「人事組織の能力と専門性を高めていくためには?」
→A:「とりあえず自社の課題と他社の取り組みをレポートしてみるのはどうでしょう」
Q:「262の法則は不可避でしょうか?」
→A:「避けられないため、固定化を回避する工夫が必要です」
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