半減してしまったジャニーズ・タレントのテレビ出演

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2024年6月26日開催の国連人権理事において、「ビジネスと人権」に関する作業部会が、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の性加害問題についての調査結果を同理事会に報告しました[朝日新聞]。ここにジャニーズ性加害問題が国際社会で公式に認識されたのです。

会合では、被害者の元ジャニーズJr.の二本樹顕理さんが出席すると同時にヴィデオメッセージが流されました。二本樹さんは[日本テレビ]のインタヴューで次のように答えています。

二本樹顕理さん:この問題に光を当ててくれたのは、やはり国連人権理事会の作業部会であったり、海外のメディアであると私たちは感じておりまして、今までこの問題を日本は社会問題としてすら扱ってくれなかった。この問題をこうして国際社会の場にもってくることによって光を当て、より大きな取り組みになっていってくれると嬉しいと思っています。

ここで、ジャニーズ問題は、日本社会の問題というよりは、日本最大手の芸能事務所社長による児童性加害の認定という公共性の高い最高裁判決を、事務所に忖度して約20年間にわたって一切報道しなかった日本のテレビ局という報道機関の問題です。

公共の電波を独占するテレビ局が、国民の「知る権利」を侵害する「報道しない自由」を行使することによって、最大手の芸能事務所のスキャンダルは、単なる都市伝説と化してしまいました。

公人をはじめとする著名人のスキャンダルについては、アクロバティックな言葉狩りを行なってまで根掘り葉掘り追及して吊し上げるテレビが、事務所社長の性加害認定を一切報じることなく、事務所の所属タレントを毎日20番組もテレビ出演させていたのです。常識的に考えて、テレビが不正を一切報じない性加害を、独自の調査能力を持たない一般市民が真実と受け止められるはずがありません。

さらに、英BBCの報道によりこの問題が発覚した後においても、日本のテレビ局は極めて不誠実な行動を取り続けました。以下、図1に示す旧ジャニーズ・タレントのテレビ出演番組数の推移を見ながら説明していきたいと思います。

図1 旧ジャニーズ・タレントの出演番組数の推移

図1のデータは、旧ジャニーズ事務所および後継のSTARTO ENTERTAINMENTが公式ウェブサイトで提供する一次情報(2023年9月以降)および、この情報を転載して拡散する複数のSNSによる二次情報(2023年8月以前)から取得したものです。

一般に、所属タレントのテレビ出演番組数は、週末(金土日)に多く、平日(月火水木)に少なくなっています。図においては、この周期性をフィルタリングするため、前方7日間移動平均(その日から7日先までの平均)で番組出演数の推移を示しています。

また、図1をみると、7日周期以外にも周期的なデータの時間変動が認められます、その周期を把握するために、日データの1回階差をとって[スペクトル密度解析]を行い、時系列の卓越周期を求めたものが図2です。

図2 旧ジャニーズ・タレントの出演番組数のスペクトル密度解析結果

この図から、7日周期(1週周期)に加えて2週周期と1カ月周期付近のスペクトル密度にピークの存在が認められます。つまり、テレビ局は、週間の通常プログラムに加えて、2週あるいは1か月ごとに何かしらのプログラム調整を行なっていることがわかります。

なお、スペクトル密度解析ではピークが発生しませんでしたが、年間4回の番組改編期(それぞれ1月、4月、7月、10月第1週開始)にジャニーズ・タレントの出演番組数が減少していることがわかります。これは特別番組の放映により、レギュラー出演を基本とするジャニーズ・タレントの出番が減少することによるものと考えられます。

以上の定常的な波の特性を踏まえた上で、2023年1月から2024年6月までのジャニーズ・タレントの出演番組数の推移を見ていきたいと思います。

まず、ジャニーズ性加害問題の存在を世界に告発した英BBC『JPOPの捕食者』の放映の後に番組数が大きく減少していますが、これは単に4月の番組改編とタイミングが重なったものと考えられ、改編後には再び元の水準に戻っています。

つまりBBCの告発動画は、日本のテレビ局にとっては何の影響もなかったものと推察されます。というか、業界全体でシカトしていたわけですから、何の影響も出るはずがありません。

次に、カウアン・オカモト氏の会見や藤島ジュリー社長のビデオ会見があっても、番組数への影響はほとんど認められませんでした。しかしながら、国連人権理事会の作業グループの会見やジャニーズ再発防止特別チームの会見があった頃から番組数は微妙に減少しました。テレビ局は、日頃から人権を振りかざしている以上、国連や法律家の調査には敏感なのです。

さらに、この直後に開かれた1回目のジャニーズ会見をうけ、経団連会長が所属タレントのCM起用停止を宣言すると、番組数は大きく減少しました。正義よりも金儲けを優先するテレビ局にとって、ジャニーズ事務所は逆らえない存在ですが、広告収入をもたらすお得意様も逆らえない存在なのです。

2回目のジャニーズ会見でNGリストが発覚すると、テレビは一斉に論点そらしを始めました。ここで番組数の減少は止まり、20番組/日のレベルまでリバウンドしました。国民はテレビ局にまんまと騙されたのです。その後、旧ジャニーズ・タレント出演ゼロの紅白を挟んで、年末年始に一時的に番組数が激減するも年明けには定常状態に戻りました。

このまま、20番組/日を継続していくのかと思いきや、2024年4月の改編期にSTARTO ENTERTAINMENTが本格始動すると、旧ジャニーズ・タレントの出演番組数は激減し、5月に一時的に回復したものの、その後は12番組/日程度の低空飛行を続けています。これはBBCの告発報道前の半分程度の値です。おそらく年度が変わったことで、今度はテレビ局が旧ジャニーズ・タレントに見切りをつけた可能性があります。

図3は、図1の時系列プロットに3カ月トレンドを加えたものです。

図3 旧ジャニーズ・タレントの出演番組数の推移

このトレンドを見る限り、結果的には藤島ジュリー社長のビデオ謝罪が終わりの始まりであったことがわかります。

ところで、一部テレビは、現在、性加害を隠蔽した加害者であることを棚に上げ、ジャニーズ被害者に対する一部の誹謗中傷行為を利用して社会批判を展開し始めています。例えば、2024年6月23日放送のTBS『サンデーモーニング』では、次のようなスタジオ・トークが展開されました。

膳場貴子氏:旧ジャニーズの性加害問題をめぐっては、当事者にとっては当たり前のことですが、今もまだ問題は続いている。金銭保証を受けたところで心の回復はまだまだ続いていく問題だということをあらためて突きつけられたと思いますけど。

浜田敬子氏:人権意識が未熟な日本という指摘があったが、そういった人権意識の薄さの現状を少しでも変えようとしてくださっているのが声を上げた人たちだ。その人たちによって少しずつ状況が良くなっていく。ジャニーズの被害者の方もそうだし、伊藤詩織さんも声を上げることによって日本版のMeToo運動に繋がって行く、そして自衛隊でセクハラに遭った五ノ井さんもそうだ。こういう人たちの勇気ある行動によって問題が可視化されて現状が改善されて行っている。でもそれに対してあまりにも代償が大きい。やっぱり2次被害と言われるネット上の誹謗中傷。実生活でもかなり怖い思いをして詩織さんなんか日本に住めないと。

驚くべきことに、『サンデーモーニング』は、被害者を誹謗中傷する一部の不届き者の存在を根拠に、日本社会を人権意識が未熟として叩きました。

ジャニーズ性加害問題において事務所に忖度して被害者に一切手を差し伸べなかったテレビ局は、未必の故意による加害者と言えますが、今度は勝手に被害者の味方につき、誹謗中傷の連帯責任を日本国民に負わせて説教しているのです。

もちろん、被害者に対する誹謗中傷は卑劣な行為です。しかしながらその加害者は一部の不届き者であって日本国民ではありません。これは、加害の反省など微塵も見られない欺瞞に溢れた放送です。被害者を不届き者に誹謗中傷させる原因を作った責任はテレビ局にあります。

さて、現在の旧ジャニーズ・タレントのテレビ出演状況が、その実力に見合った自然状態かどうかは不明ですが、その自然状態こそ、競争原理が働く健全な状態であると言えます。旧ジャニーズ・タレントがエンタメ業界でどのような存在になっていくかは実力次第です。STARTO ENTERTAINMENTには、現在の状況をネガティヴに捉えることなく、フェアに実力で勝負していただきたく思います。

今後の日本のエンタメ業界に必要なのは、日本市場に特化した子供騙しのschool performanceではなく、世界市場に受け入れられるprofessional performanceです。エージェント契約による事務所経営によって、日本のエンタメの実力が向上することを切に願う次第です。