投機を呼ぶのは政府・日銀側
1㌦=160円が防衛ラインだと思っていたら、あれよあれよと、161円台まで円安が進みました。市場関係者から「1㌦=200円もありうる」という声まで聞かれます。プラザ合意(1985年)の時の235円のレベルに言及する人もおります。
林官房長官は1日、「為替市場はしっかり注視し、過度な変動には適切な対応をとる」と発言しました。財務官は「投機による激しい異常ともいえる変動が国民経済にもたらす悪影響は看過しがたいのものがある」と、繰り返し発言してきました。
新聞社説までが政府の考えていることの本質を探らず、「投機的な動きは容認できない。投機的な動きと判断したならば、毅然とした措置で対応してもらいたい」と、右へならえの指摘しています。
政府、日銀のトップが「看過しがたい動き」というのは、本音と違うと私はずっと思ってきました。新聞は表層的な分析、解説を載せるだだけで、政府、日銀は本当のところ、何をしようとしているのかまで考えようとしていません。
年初からじりじりと20円以上も円安が進みました。アベノミクス(2013年)直前の1㌦=75円からは、円は下がる一方で、半値以下の価値しかなくなりました。急激な円安なら「投機的動き」と呼んでいいでしょう。「円は38年ぶりの低水準」と言われると、もう投機ではなく、日本経済の構造的な原因が背景にある。
生産性の低下、人口減少、企業の海外展開、長期にわたりすぎた異次元金融緩和・財政拡張政策など、多角的な要因分析をして、政府企業も対応しないと、円安はじりじりと進む。今の動きは決して投機ではない。投機筋に便乗されているだけです。問題は日本側にあるのです。
しかも、政府は本音では「アベノミクスの巨大な負の遺産で、金融財政政策の本格的な方向転換は難しい。インフレ税のような円安下では、税収が増えるからいい。円安は心地よい」と、思っているに違いない。
161円まで進んだタイミングで、財務省は1日、「23年度の国税収入は過去最高の72.1兆円程度となる」ことを明らかにしました。4年連続で税収は過去最高更新し、22年度の71.1兆円を上回ります。24年度の税収見通しは69.6兆円で、岸田内閣が人気取りのための行う定額減税(3.4兆円)をなどを止めておけば、史上最高を更新することになったかもしれません。
税収増の原因は「円安の進行や値上げの浸透で企業業績が伸び、法人税が増えている。企業の賃上げが広がり、給与所得が伸び、所得税が増加した。そのほかに大きいのは、消費者物価の上昇(前年比で2、3%)より、消費税収の24年度見通しは23兆8200億円となる」などでしょう。
岸田首相は就任時に「10年間は消費税を引き上げない」など約束しました。消費税率(10%)を引き上げなくても、何年間も2、3%ずつ消費者物価が上昇すれば、消費税率の引き上げと同じ効果(税収増)を持ちます。
消費税収の伸びは明らかに円安が起因となったインフレ税です。法人税収、所得税収の伸びも円安が根っこにあります。ですから、先進国で最悪の財政状態の日本の政府・日銀にとっては「円安は歓迎する。国民が物価高に不満を持っているので、財務省などは円安投機は看過しがたく、毅然とした態度をとる」を、毎度くりかえすことにはしていると、私は思います。
金融財政に巨大な負の遺産をもたらしたアベノミクスの検証結果を早く公表し、財政独立機関を設立し、ポピュリズムを主目的としたような政治の介入を防ぐ仕組みを作る必要があります。国債は日銀でなく、民間金融機関が購入するように誘導し、金利機能が復活するようにする。次の総裁選に立候補したい政治家が最低限、取り組むべき任務です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。