大学入試における「女性枠」を考える

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1. 理工系学部における「女性枠」

近年、性別や固定概念に捉われることなく、誰もが活躍できる社会の実現に向けた取組が強化されている。

そのような中で、大学入学試験における理工系学部での「女性枠」が論議を呼んでいる。直近では、京都大学が2026年度入学の試験から特色入試(女性募集枠)を新設することを発表した注1)。対象となるのは、理学部31人、工学部24人で、大学入学共通テストや口頭試問などで合否を判断するとのことだ。

周知のように、日本の理工系進学者の女性割合はOECD加盟国の中で最下位である。女性枠を設置することで、女性比率が低い理工系学部の女性学生数が増え、学生の多様性の向上に繋がる。しかし、不平等との声もあがっている。

2. 大学における女性比率

現状把握のために文部科学省『令和5年度学校基本調査』で報告された大学における女性比率の状況を記す。大学における女性比率は44.6%(内訳:学部45.7%、大学院32.8%)、女性教員比率は27.2%である注2)。ちなみに、学生と比較して、教員の女性比率はさらに低い結果である。

このような背景から大学教員の公募においても「女性限定公募」が存在し、女性教員の持続的な増加を目指している。

本題の学生に話を戻す。以下は、1988~2023年までの『学校基本調査』 関係学科別学生数の結果を5年毎に整理した結果を示す。

表1に学部別女性比率を示す。

表1 学部別女性比率

直近、2023年の結果より理学・工学・商船は、人文科学・社会科学・保健・教育等の他学部と比較して、女性比率が30%を下回ることが確認できる。2023年の工学系の女性比率は16.1%と最下位であるが、1983年と比較すると女性比率は約7倍となっている。

理学系の女性比率は1983年の時点において17.4%であり、社会科学系を上回る結果であった。これは、旧女子師範学校の流れを汲むお茶の水女子大学や奈良女子大学には理学部が設置されており、理科や数学の教員を目指す女性が一定数理学部に進学していたためと考えられる。

表2 理工系学部別女性比率の詳細を示す。

表2 理工系学部別女性比率の詳細

学科毎のばらつきはあるが、理学、工学ともに1983年から40年間で女性比率が大幅に上昇していることが確認できる。特に、工学系の機械、土木建築、船舶の3学科では40年間で女性比率が10倍以上になっている。

理系に進学する女性が少ない中で、現在、工学系学科に約16%の女性が進学していることをどのように捉えるかは人それぞれであろう。

3. 女性枠は不平等を生み出しているのか?

私たちが所属する最大規模の集団は地球である。地球上の人口の男女比が1:1であれば、国、地域、会社・学校など細分化された集団の男女比も1:1となることが理想的である。しかし、現実社会で小さな集団の男女比が1:1になることは難しい。

理想的な状態に近づけるために女性が極端に少ない集団を対象として、女性の比率を増やすことを目的に女性枠の設置を進めている。

しかし、現在の日本の大学入試制度では、性別に関係なく受験の機会は平等である。女性枠を設けることにより受験の機会を不平等にしていると捉えることもでき、男女平等を目指すための手段や過程が、逆に男女不平等を招いているとの解釈もできる。

4. 大学入試は「入口」でしかない

女性枠による不平等感を性別や女性枠の使用有無といった観点から議論していては一向に埒が明かない。そこで、女性枠だけではなく、大学入学試験に対象を広げて考えてみる。

今や多くの大学が総合型選抜や推薦入試を導入し、募集定員に占める一般入試以外の定員の割合は国立大学20.0%、公立大学31.3%、私立大学46.6%となっている注3)。大学区分に関係なく学生数でみると、学力主体の一般入試を経て大学に入学する学生は全体の6割を切る状況である注3)。年々一般入試定員の割合が低下していることから大学への「入口」も多様化している。

では、「出口」はどうなっているのか。日本の大学は入学が難しく、卒業が簡単と言われており、大学生活は人生における余暇や遊びの期間と捉える学生も居るようだ。

就職活動では「ガクチカ」が問われるようだが、新卒一括採用が定着している日本において、大学での学びの内容や専攻に関係するスキルはそれほど求められていないようにも感じる。また、「学歴フィルター」が存在すると言われており、「出口」においても大学名が重視される傾向である。

大学は本来、学ぶための場である。しかし、入口をくぐれば大卒資格が与えられ、学んだ内容や習得したスキルを問われないまま出口に辿り着き、社会へ放たれる。入口における評価基準は、大学入学前までに身に付けた学力や経験であるが、出口における評価基準が大学名と大卒資格であれば大学での学びの優先順位が低くなってしまうのは致し方ない。

これを改善するためには、大学は入口以降の学修の到達点を細かく設定し、進級・卒業要件を厳しくすることで、大学を学びの場として機能させることができるのではないか。そして、卒業した学生を受け入れる社会は、学生の学びを評価し、習得したスキルが活かせる環境を整備することが求められる。

大学における出口の評価基準に学びを考慮することで、学生にとって学びの優先順位が高くなるのではないか。

5. 入口以降を厳しくすることが不平等解消につながる訳

入口を広げることで、学生の異質性を高めることができ、価値観やバックグランドが異なる仲間と切磋琢磨することができる。学生時代のこういった経験はかけがえのない時間となるだろう。このように考えれば、女性枠は、学生の多様性を確保するための一般入試以外の入試方法の1つである。

しかし、先に述べたように日本では「入学さえしてしまえば」と言う状況だからこそ、入口の1つである女性枠において不平等という論議が起きてしまう。

女性枠に対する不平等感の解消は、大学を学びの場として機能させ、大学における学修成果を重視する制度への変換が鍵となる。そうすることで、多様性を確保しつつ、公平性と納得性を担保した学生生活が実現できる。

もし、女性枠で入学した学生が成績不振、素行不良により規定年数で進級・卒業できず、出口における評価が低くなってしまった場合、実力不足や努力不足であることは彼女自身の自己責任となる。そして、女性枠に対する周囲の目も厳しくなるだろう。

その一方で、女性枠で入学した学生が他学生に見劣りすることなく大学生活を過ごせば、多様化する入口の1つというように女性枠に対する不平等との意見は少なくなるのではないか。

※ 補足:女性枠について
女性枠の先駆けとなったのは名古屋工業大学である。産業界からの理工系女性人材育成の要請を受けて、30年前に女性枠を設けたという背景がある注4)。1994年から機械系学科で女性を対象とした学校推薦制度を導入しており、2024年度入学の試験から対象学科を拡大している。

【参考文献】

注1)京都大学HP:特色入試(女性募集枠)の新設について(参照2024-04-29)
注2)文部科学省:令和5年度学校基本調査(参照日2024-05-01)
注3)文部科学省:令和5年度国公私立大学入学者選抜実施状況(参照日2024-05-01)
注4)名古屋工業大学HP:2024年度(令和6年度)以降の入学者選抜における女子特別推薦の実施について(2023年2月1日掲載)(参照日2024-04-29)