6月1日、神戸で建築を見て歩くイベントに参加しました。今回はその建築散歩の後編です。
歩いているのは旧居留地と呼ばれる地区。神戸の中華街・南京町の東側、大丸本店を中心にしたエリア一帯がそう呼ばれています。
シップ神戸海岸ビル
前回紹介した商船三井神戸ビルの向かいに建つシップ神戸海岸ビル。1918年に三井物産神戸支店として建築されました。当時は鉄筋コンクリート造の4階建でしたが1995年の阪神・淡路大震災で全壊してしまいます。
1998年に鉄筋鉄骨コンクリート造15階建のビルが建てられた後に、周囲を旧建物の外壁を再構築しています。その結果現代的な建築とレトロな旧建築の融合体という他にはなかなかない風貌の建物となっています。
設計者の河合浩蔵氏は明治期に日本の近代建築の礎を築いたジョサイア・コンドル氏に師事したあとドイツに留学しバロック建築を学びました。その際に幾何学的建築も学び、外観が今も古さを感じさせない幾何学的なデザインで飾られているのが特徴です。先述した商船三井神戸ビルよりも建築年は古いのにそれを全く感じさせません。
神戸メリケンビル
海岸通りとメリケンロードが交差する場所に位置するのが神戸メリケンビル。もとは日本郵船の前身である神戸郵船の所有するビルでした。かつては屋上にドームを擁していましたが戦争で焼失しています。建物も焼失しましたが復旧してかつての姿をとどめています。
商船三井神戸ビルがすぐそばにあるように、海岸通りには日本有数の海運会社が軒を連ねます。神戸港が日本の海運にとって極めて重要な地位を占めていたことを意味しています。
商船三井神戸ビルとは異なりこちらはトラディショナルなデザイン。どんなデザインを選ぶかで企業の性格も窺い知ることができます。伝統を重んじる姿勢を前面に打ち出して安心感を与えるデザインです。
FISH DANCE
旅の終着点はメリケンパーク内にある芸術作品「フィッシュダンス」。神戸開港120年を記念して1984年に建築家フランクゲーリーが設計し、日本を代表する建築家、安藤忠雄氏が監修して作りあげた22メートルもの鯉のオブジェです。世界に名だたる建築家により手掛けられた作品であり、建築散歩としては無視することができません。
この作品はチェーリング・メッシュを繋ぎ合わせて作られていますが、ゲーリー氏はこのような金属の破片や合板などといった身の回りにあるものを組み合わせて作品を作ることが多いです。
ウォルトディズニーコンサートホールなどをはじめ曲線を使った奇抜なデザインの作品が多いゲーリー建築。型にはまらない自由奔放なデザインのインスピレーションを魚から得ていたとも言われています。ゲーリー建築の原点をここに見ることができるといっても過言ではないでしょう。
ちなみにこの作品、金網でできているので当然錆が出るのですが、それを防止するために管理者である神戸港振興協会が色を塗ったところ芸術に対する侮辱と批判が殺到しもとの色に戻されました。錆が出ることで味わいも増す。それも見越しての作品であることが理解できていなかったのではないかと思います。
おわりに
旧居留地の旧建築をめぐって歩いた3時間の建築旅。建築の一つ一つに個性がありそして物語があり、非常に楽しい散歩になりました。
旧居留地にはこれだけではなくまだまだ多くの物語を隠した建物が数多くあります。近いうちに他の建物も廻ってその歴史を、物語を紐解きに行ってみたいと強く感じました。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。