「キドニトチカケ」の極意とファーストクラス伝説

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仕事相手や会社の上司・同僚・あるいは後輩、ご近所の方、ママ友、友人や恋人、家族であっても、「言いにくいこと」を言わなければならない場合があります。

そんなとき、どう言えば、誰もイヤな気持ちにさせず、自分の希望どおりに動いてもらえるのでしょうか?

心を動かす魔法の話し方」(加藤アカネ著)サンマーク出版

ひと言添えるテクニック

ANAでは挨拶のひと言に添えるテクニックが存在する。それが”キドニトチカケ”というもの。加藤さんは、ANAでは代々〝キドニトチカケ”を引き継いできたと解説する。

  1. 「キ」は「気候」です。「いいお天気になりましたね」「少し底冷えのする朝でしたね」「今日も暑いですね」と使用します。
  2. 「ド」は「道楽(趣味)」です。「ステキな時計ですね」「カメラはよくお持ちになるのですか」「ワインにお詳しいのですね」と使用します。
  3. 「ニ」は「ニュース」です。「昨日のニュースには、本当に驚かされましたね」と使用します。
  4. 「ト」は「土地」です。「到着地の○○では、ちょうど○○というお祭りが始まるそうです」「今年は旬の○○が特においしいようです」と使用します。
  5. 「チ」は「知人」です。「○○さん、お元気ですか?」「○○さんが、ご結婚されたそうですね」と使用します。
  6. 「カ」は「家族」です。「奥様はお元気ですか?」「お子さんは、おいくつになられたのでしょう?」と使用します。
  7. 「ケ」は「健康」です。「いつも姿勢がシャンとされていますね」「今日もステキですね」と使用します。

気候や趣味、ニュースの話は年齢や性別、仕事に関係なく通じるキッカケのひと言になるということである。なお、このような場面で「私語り」はふさわしくないと加藤さんは言う。

「今日はこんなことがありました」
「昨日、私は失敗してしまって」

「場を和ませようとして自分の話を切り出してしまう感覚はよくわかりますが、相手が話しやすい質問をしたほうが、 相手が会話の主役になれます。雑談は、あくまでもお客さまの興味を汲み取って、サービスにいかしていくためのキッカケに過ぎません」(加藤さん)

空の階級論とは

座席コンフィギュレーション(configuration)は、航空機の客室や座席配列のことを指すが、乗客の人格やアイデンティティーを計るための物差しでは無い。日本では、いつの間にか、CAと乗客との間に生じた、歪曲された特殊な空間が一層の勘違いを生じさせているようにも感じている。ファーストクラス伝説などは最たるものだろう。

よく知られた話だが、イギリスのキャメロン元首相は、公務はレガシーを使いプライベートはLCCを使用する。キャメロン元首相はイギリス政府の長、元連合王国内閣総理大臣のエグゼクティブである。華やかさばかりが先行するCAの仕事だが、その実態を理解すべきではないか。

CA出身のマナー講師は、ファーストクラスの価値をことさらにプッシュするが、乗客としての優劣などは存在しない。また、本物のエグゼクティブであれば、ファーストクラスに乗って、これ見よがしに自慢することなど有り得ない。

人々の安全を守り、ハイレベルなサービスを提供する航空業界のノウハウは奥が深いようである。気付きの多い一冊として紹介しておきたい。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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