ブックオフ・ハードオフで従業員不正が発生する理由

関谷 信之

ブックオフとハードオフ、古物商大手2社で従業員不正が起こっている。

ブックオフ疑惑調査で臨時休業 ハードオフも架空買い取りか 同時に発覚も関連なし?

ブックオフ疑惑調査で臨時休業 ハードオフも架空買い取りか 同時に発覚も関連なし?
 従業員が架空の買い取りをした疑いがあるとして、ブックオフが27日から全国の店舗で臨時休業などをして調査にあたります。一方、同じく中古品を扱うハードオフも調査報告書を公表し、店長による不正が明らかになりました。

顧客から商品を買い取ったように偽装し、買取代金を着服する「架空取引」や、買い取った商品を無断で持ち帰る「内引き」などが行われていたという。

ハードオフのフランチャイズ店を運営する「株式会社エコノス」の被害額は、およそ2千9百万円。同社は、これを特別損失(不正関連損失)に計上し、当期を無配とした。一方、ブックオフを運営する「ブックオフコーポレーション株式会社」も、調査委員会を設置し、全国400の直営店を一時休業させ緊急棚卸を実施している。

不正の発生要因は何か。本稿では、ブックオフとハードオフの関係について整理したうえで、ブックオフを中心に要因を探っていく。

運営は別会社

(少々ややこしいが)ブックオフとハードオフを運営するのは同じ会社ではない。

ブックオフは「ブックオフコーポレーション株式会社」が、ハードオフは「株式会社ハードオフコーポレーション」が、それぞれ事業運営している。

※上述の「株式会社エコノス」は株式会社ハードオフコーポレーションとフランチャイズ契約を結ぶフランチャイジー(フランチャイズ店舗を運営する会社)である。

両社に、ロゴなどの共通点が多いのは「創業者同士が親しかったから」だ。そもそもハードオフは、ブックオフのビジネスモデルに着想を得て生まれたと言われる。ブックオフのビジネスモデルとはどのようなものか。これを解き明かし、不正発生の要因を推測してみよう。

ブックオフとは

ブックオフの特徴は、独特の買取(仕入)判断基準にある。

一般的な古書店の買取(仕入)の判断基準は「本の価値」だ。店主が知識・経験を活用し、持ち込まれた本の価値を見極め、買い取るか・買取価格をいくらにするかを決める。

一方、ブックオフの判断基準は「鮮度」だ。具体的には、「見た目がきれいか」「発刊されて日が浅いか」の2点で買取を決める。稀覯本(まれにしか流布しない本)・古典の名著といった価値は考慮しない。

「稀観本だとか初版本だとかのプレミアムは一切無視します。きれいで、発行されて から時間のたっていない本、それだけが商売の判断基準です」
(だれが「本」を殺すのか 佐野 真一/著 新潮文庫)

買い取るかどうかは「鮮度」。買取価格は定価の1割。販売価格は定価の半額(※1)。

「知識・経験不要」の判断基準を採用したことにより、従業員の育成期間は大幅に短くなった。結果、ブックオフは多店舗展開が可能となり、いまや店舗数は832(24年2月時点)、売上高は1018億円(23年5月期)と、「古本屋」のイメージとは程遠い規模にまで成長している。

では、その巨大な規模に見合うだけの管理体制は構築できていたのだろうか?

ブックオフ店内の様子

「消費者(C) to 店舗(B) to 消費者(C)」ビジネス

ブックオフは、消費者(C)から商品を仕入れ、店舗(B)に並べ、消費者(C)に販売する、「C to B to C」ビジネスである。当然だが、問屋(取次)は介在しない。

小売業者が問屋を介在させるのは、取引数を少なくするためだ。多数の生産者と個別に取引するよりも、多数の生産者の商品を取り扱う問屋と取引したほうが、取引数が減り効率的になる。これを「取引数量最小化の原理」という。

一方、問屋を介在させないブックオフの年間の買取利用者は1430万人、買取件数は4億714万点にのぼる。取引数量が「最大化」しているのだ。

シンプルな判断基準導入による店舗数増。問屋を介在させない「古物商の」ビジネスモデル。これらが、取引数量を最大化させた。だが、「最大化」した取引数量に対応できる管理体制を、ブックオフは構築してこなかった。これが、今回の従業員不正の発生要因である。

ブックオフが、これまで強化してきたのは「B to C」部分、主に売価設定だった。定価の半額としていた売価を、ネットの実勢価格に合わせ価格を決める「単品管理」制度を2014年から導入している。

一方、「C to B」部分、すなわち販売前の工程はあまり改善されてなかったのではないか。買取代金の着服・商品の内引きなど、今回の不正内容を見る限り、現金管理や現品調査といった基本的な対策ができていなかったのではないか、と推測される。

調査対象に穴はないか

今回の、両社の調査対象にもやや不安がある。

報道によると、ハードオフで棚卸調査をしたのは、「株式会社エコノス」傘下のフランチャイズ15店だけだ。運営本部である「ハードオフコーポレーション」直営の152店や、他社フランチャイズの226店に問題は無いのか。

ブックオフが調査するのも、ブックオフコーポレーション傘下の直営店400店だけだ。フランチャイズ368店に調査の必要は無いのか(※2)。

米国のある企業では、従業員が店の商品を盗んだとしても「もうやるな」で済ます、と聞いたことがある。「盗む方も悪いが、盗めるような仕組み(システム)で運用している店も悪い」という思想があるらしい。

ブックオフ・ハードオフという巨大化した古物商たちは、今回の調査で「不正させない仕組み」を構築できるのか。両社の本気度が問われている。

ブックオフの展望

単品管理制度の導入以降、ブックオフに以前ほどのお得感はなくなった。にもかかわらず、客足は衰えていない。なぜか? 面白いからだ。

面白さの理由は、先に述べた、「買い取るかどうかは鮮度で決める」という判断基準にある。

「この本を売りたい(売るべきではない)」

という店主(経営者)の思想の入る余地が、ブックオフにはほとんどない。ブックオフは仕入れを選べないのだ。品揃えは、周辺住民の持ち寄る本次第。結果、一般書店や古書店に並ばないような本が、ランダムに並ぶ。目的の本を効率的に探せるAmazonとは対極だが、思いもよらない本に巡り合えることもある。そんなブックオフを面白がるファンがいる。

「ブックオフファン」が離れる前に信頼回復に努めていただきたい。

BOOKOFF 八王子堀之内店
ブックオフグループホールディングス株式会社より提供

【注釈】
※1 単品管理制度導入以降は異なる
※2 検査実施店舗数等は、執筆時2024年7月3日までのプレスリリース等に基づいている

【参考】
『ブックオフ大学ぶらぶら学部』(出版者/武蔵野 夏葉社)
『ブックオフから考える-「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(著者 谷頭 和希/タニガシラ カズキ 出版社 東京 青弓社)
ブックオフグループホールディングス株式会社、株式会社ハードオフコーポレーション、株式会社エコノス、決算資料