4つの選挙結果にみる有権者の分断化

選挙の話が続いて申し訳ないですが、もう一日お付き合いいただければと思います。

この週末にかけて都知事選だけではなく、イランの大統領選とフランスの下院議会の選挙結果も大きく報じられました。またその数日前には英国でも総選挙で政権交代が実現しています。それら4つの選挙に共通してみられるメディアのヘッドラインは「誤算」であります。

フランスの場合、そもそもなぜ、マクロン大統領は総選挙を実施したのか、その理由が未だに不明瞭であります。年金支給年齢引き上げやウクライナ派兵をほのめかすなど国内人気が今一つだったマクロン氏に対する批判を受けてヤケクソ解散ではないかという気もしないでもありません。

選挙結果はますます混迷を深める左派第一党という想定外が起きました。これはフランスの選挙の仕組みが複雑なこともあるのですが、第一回目の党投票を受けて極右政党のRNが第一党をとるはずだったのに左派とマクロン氏の与党が手を結んだことでRNの票を抑えたのが理由で恣意的で党利党略が前面に出ています。それでも冷静にこの選挙結果を見れば極右のRNが最大の躍進(90議席⇒143議席)であります。

さて、フランスは個人主義の国であり、移民も多く、イスラム系のみならず、フランスがかつて影響力を持ったアフリカ系の住民も多く、国内を一つの色で染めるのはそもそも無理な国です。今回の左派連合180議席、与党連合163議席、極右143議席という結果は過半数を獲得した政党がなく、与党は第二党となり、政権運営は首相指名から組閣に至るまでいばらの道のように見えます。ただ、それ以上にフランスの今回の選挙結果は世界の新たな潮流を暗示している、そういう風にも見えるのです。

実は英国の選挙でもメディアは労働党の大勝を大きく取り上げていますが、最大の勝者は右派のリフォームUK党だったとされます。小選挙区制の導入により同党が得た議席数はわずか4議席にとどまりますが、政党支持率は労働党33.7%、保守党23.7%に次いで14.3%もゲットしているのです。リフォームUKもフランスのRNと同様移民制限を訴える政党であります。

また最も誤算だった選挙はイランの大統領選挙でした。意図的に保守強硬派の候補者を優位にし、穏健派からはたった一人、ペゼシュキアン氏だけが立候補していました。当然、国家指導部はペゼシュキアン氏を泡沫候補だと考えていたはずです。ただ、第一回目の選挙では保守強硬派候補同士の票の奪い合いとなり同氏が残り、決選投票では53%の得票で保守強硬派の対戦相手を44%に抑え、想定外が生じました。

これはイランの国民層と国家主導部との温度差を明白に表しています。ヘジャブ(スカーフ)問題で揺れたのは厳格なイスラムの考え方を取り込もうとする政権の圧迫政治であり、西側諸国からの経済制裁も一般国民にとってはちっとも面白くない事態ともいえるわけです。

この1週間に行われた4つの選挙を見ると有権者の分断化が明白に表れたとみています。現代の民主主義の具現化方法は市民の代表者たる政治家が一定の信頼と権限をもって政治を行う、ということでした。それが政党政治であり、国民の声を反映しているともされたわけです。

多数決は正か、という議論は延々と行われています。フランスのルソーは多数決は一般意思の結果であるとし、少数派は「自分が間違っている」とまで言ったわけです。ところがそんな馬鹿なことがあるか、と文句を言ったのがプラトンです。「イデア」と称する物事の本質や価値基準のことで正(善)はその世界に精通している哲人によって行われるべきであるとしました。アメリカでは共和政という名の下、多数決でもない「公共の利益」という考え方を持ち、第三代大統領のトーマス ジェファーソンが就任演説で「少数派でも多数派でも同じ権利を持ち、法の下の平等はその権利を保障する」と述べています。

日本の選挙において選挙妨害が見られるようになったのは個人の主義主張を他者に強要しようとする動きであり、世界で広がる有権者の分断化の流れに即しているとみています。

Eakkawatna/iStock

数十年前までは社会構造はシンプルだったのです。雇用者か被雇用者かの二択だったといってもよいでしょう。ところが平均余命が伸び、リタイアした人の声が大きくなり、女性の社会進出で女性の声も大きくなり、LGBTQで生き方が多様化し、被雇用者も正規か非正規かといった細かい区分ができてきました。正に萌芽の時代とも言ってよいでしょう。日本でもそのうち増える外国人労働者反対の声がより大きくなるでしょう。

このような社会になれば誰が政治をやってもポピュリズムになるし、支持率は選挙当選時に対して時間と共に下落していくことは自明であるとも言えます。なぜならポピュリズムによる上乗せ人気が剥離し、政治が期待通りにならず、政党間の力関係で折衷を繰り返すからです。かつてはそれでも妥協できたのですが、今は我慢できなくなった、これが有権者の立場です。

私は哲学者でもないし、この答を引き出すのは極めて困難だと思います。地球規模で我々は壮大なる実験場にいる、そう思ってよいでしょう。そしてこの実験は古代ギリシャ時代からずっと続く実験であり、結論は何百年待っても出ないのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月9日の記事より転載させていただきました。