超過死亡の原因に関するドイツからの報告

コロナ禍の4年間におけるわが国の超過死亡数は、欧州連合やOECD統計局の計算法に従えば60万人に達する。

これまで、その原因について日本政府からは公式な見解は発表されていなかったが、6月25日の記者会見で、武見厚労大臣は記者からの質問に対して以下のような答弁を行った。

【質問】
2022年と23年にみられた謎の大量死の原因をどのように考えたらよいか?

【答弁】
高齢者の増加が大きな原因であることは明らかであるので、これ以上、詳細に解明する必要はないと考える。

年齢調整死亡数は、年齢構成の異なる集団においても比較ができるように、年齢構成を調整した死亡数で、高齢化の影響を除外できる。図1はわが国における過去9年間の年齢調整死亡数を示す。2020年まで減少していた死亡数が2021年から反転して増加している。高齢化以外に死亡数が増加する原因があることは明白である。

図1 日本における年齢調整死亡数の推移
厚労省発表の人口動態の概況をもとに筆者作成

最近、ドイツのレーゲンスブルク大学の研究者が、2020年4月から2023年3月までの3年間に観察されたドイツの超過死亡の原因に関する研究結果を報告した。

Differential Increases in Excess Mortality in the German Federal States During the COVID-19 Pandemic

なおこの報告は、査読前の論文である。

themotioncloud/iStock

ドイツの超過死亡は(1)2020年度が22,405人、(2)2021年度が26,973人、(3)2022年度が77,782人と、コロナの流行期よりもコロナの流行が終息に向かった2022年度の方が多い。

ドイツには16の州があるが、州によって超過死亡率に差があることから、各州における超過死亡とそれに関連する要因との相関を検討した。

検討した要因には、1)コロナ死亡者数、2)コロナ感染者数、3)学校閉鎖や職場閉鎖、公共イベントの中止などの封じ込め政策の厳格さを示す指標、4)ワクチン接種率、5)GDP、6)貧困率、7)平均年齢、8)要介護者の占める割合が含まれる。

結果は表1に相関行列で示す。相関行列とは異なる変数の相関係数を行と列に並べたものである。2つ以上の変数がお互いにどのように関連しているのか、または依存しているかを判断するのに使われる。

表1 2020年度〜2022年度に観察された超過死亡と関連する要因との相関行列

その結果、2020年度と2021年度の超過死亡はコロナ死亡者数とコロナ感染者数とに強い正の相関があるとともに、ワクチンの接種回数とには強い負の相関がみられた。

一方、2022年度には、超過死亡とコロナ感染者数とには正の相関は見られるも、死亡数との相関は見られない。さらに、ワクチンの接種回数とは正の相関がみられた。平均年齢は、2021年度には超過死亡と正の相関は見られたものの、2022年度には、相関は見られていない。

図2にはワクチン接種率と超過死亡、コロナ死亡率、コロナ感染率の相関を示す。コロナの流行した2020年度、2021年度には、ワクチン接種によってコロナ死亡率、コロナ感染率は減少し、その結果超過死亡も減少したが、コロナの流行が終息に向かった2022年度はワクチン接種によって、かえってコロナ感染率は増加し、超過死亡も増加した。

図2 ワクチン接種率と超過死亡、コロナ死亡者数、コロナ感染者数との相関

以前、筆者は、ドイツを含むヨーロッパ諸国における、コロナワクチンの3回目追加接種前(2020年10月〜2021年3月)と追加接種後(2022年7月〜2022年9月)の超過死亡(A)、コロナ感染死(B)、超過死亡からコロナ感染死を除いた死亡数(A-B)との関連を検討した。

追加接種前には、各国とも、超過死亡と比較して、1.5〜1.7倍のコロナ感染死が生じていたが、追加接種後には、超過死亡はコロナ感染死を上回った。さらに、コロナ感染死以外の超過死亡(A-B)と追加接種率の相関を検討した結果、超過死亡の原因として、追加接種の可能性を指摘した。

2022年夏に世界で観察されたコロナ感染死以外が原因の超過死亡

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わが国は、ヨーロッパ諸国と比較して、パンデミックの初期においてもコロナ感染死は少なかった。実際、2021年の超過死亡は97,902人であったのにコロナ感染死は16,756人と0.2倍程度であった。

ワクチンの追加接種が始まった2022年以降は、超過死亡数がコロナ感染死を上回るのは世界的傾向で、2022年10月〜2023年1月に検討した33か国のうち、超過死亡がコロナ感染死よりも少ない国は、3カ国(9%)のみであった。ほとんどの国では、超過死亡がコロナ感染死を上回っており、共通の要因があると考えられた。

超過死亡のように、いくつかの要因の関与が考えられる場合に、重回帰分析によってそれぞれの要因がどれくらい超過死亡に影響しているかを分析することができる。すなわち、重回帰分析で超過死亡を目的変数、ワクチンの追加接種回数やコロナ死亡者数、コロナ感染者数を説明変数とすれば、ワクチンの追加接種が超過死亡に関与しているかを明らかにすることができる。

そこで、Our World in Dataから以下のデータを抽出し、重回帰分析を行った。

  • 目的変数Y :2022年10月〜2023年1月の人口100万人あたりの超過死亡
  • 説明変数X1:2022年12月初旬の人口100人あたりの追加接種回数
  • 説明変数X2:2022年10月〜2023年1月の人口100万人あたりのコロナ死亡者数
  • 説明変数X3:2020年1月〜2022年9月までの人口100万人あたりのコロナ死亡者数
  • 説明変数X4:2022年10月〜2023年1月までの人口100万人あたりのコロナ感染者数

表2に結果を示す。

表2 超過死亡に関わる要因を重回帰分析で検討した結果

4つの説明変数のうち、ワクチンの追加接種回数を示す説明変数X1のみがP値が0.04と有意な値であった。また、説明変数の影響度をみるにはt値で判断するが、追加接種回数のt値が2以上であることより、追加接種回数が超過死亡に影響したと考えることができる。他の変数は、P値、t値ともに有意な値は得られなかった。

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わが国で観察された超過死亡の原因を明らかにすることは、政府にとって、最優先事項であろう。コロナワクチンの接種の継続を決定しているわが国においては、ドイツの報告を無視することはできないと思われる。

武見厚労大臣は公の席で発言する以上、「超過死亡の原因は高齢化にあり、これ以上の原因追及を行う必要はない」とする根拠を述べるべきである。