仕事も人生も勝てない勝負をしてはいけない

黒坂岳央です。

孫子は、「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。況んや算無きに於いてをや」といった。端的に言えば「勝てない勝負はするな」といいたいのである。

これは仕事、いや人生そのものについても同じことが言える。自分が勝てない勝負はするべきではないのだ。

Andreyuu/iStock

一流校で落ちこぼれる辛さ

地元の学校では神童扱いされていた秀才が東京の一流校に行くと、落ちこぼれて自己肯定感がなくなるという話がある。自分の場合、親戚の子にまさにこれに当てはまる人物がいる。

彼の父親は一流大の博士号を持っており、彼自身がその優秀な遺伝子を花開かせて、幼い頃から勉強が得意だった。周囲からは「末は博士か大臣か」と言われ、そんな周囲の期待を裏切らず、地元のトップ校を出て誰もが知る一流大学の博士号を取得した。まさしく絵に書いたようなエリート街道を進んでいた彼を自分は尊敬しており、趣味も同じゲームだったので仲も良くよく話をした。彼は自分に大学や就職した研究機関での苦労を話してくれた。

確かに世間一般的に見てこの人物はエリートそのものである。しかし、彼いわく「大学にも職場にも、努力だけではまったく叶わない天才がいて自信を失うこともある」といっていた。高校では数学オリンピックに出場したり、プロの棋士を負かすクラスメートがいた。大学ではさらにレベルが上がり、本気でノーベル賞を取れるような研究者がいたりしたという話だ。

彼は留年せず、平均以上の論文を出して博士号を取得して現在も研究者として名前をあげている。落ちこぼれというより明らかに優秀なのだが、周囲にいる自分より上のレベルが遥か雲の上であることに劣等感を覚える瞬間はあると言っていた。実態は落ちこぼれでなくても、心情的に落ちこぼれ「感」があるということだ。一流の世界も大変なのだ。

一流企業も入ってからが大変

自分自身、大学を出て東京で働いていた。転職でコツを掴み、ポテンシャルを認められたことで東証一部上場の大手企業に入り、本来の実力より上の世界に行くことができた。世間的には「うまくいった」と言われるかもしれないが、一流企業は入ってからが大変だということを後で知ることになる。

優秀な東大卒、海外有名MBA大卒に囲まれて働くと、自分は「場違い」と感じる瞬間が何度もあった。完全に頭の回転速度が違うし、同じ情報に触れてもそこから引き出すデータ量がケタ違いだ。さらに体力もあり多少の残業でもびくともせず、逆境でも腐ることなく猛烈に仕事をする人を見て「これはどうやっても勝てない」と悟った。

優秀な人達の中で大したパフォーマンスを出せないと、自分がポンコツであることを突きつけられ、自信がなくなってしまうのだ。周囲からは「君は十分パフォーマンスを出している。自信を持て」と言われたこともあったが、エリートたちを見るとどう逆立ちしても叶わないパフォーマンスを出し続けていて、「自分はできる!」と考えることは難しかった。

しかし、ある日転機が訪れた。海外の大掛かりなITシステム統合を進めるプロジェクトがやってきたのだ。ITには元々関心が高かったし、英語は周囲より得意だったことで周囲が苦慮するこの仕事に自分はガッツリとハマった。結果、このプロジェクトでは自分は大きく活躍することができたのだ。普段、自分に対してかなり厳しくものいう先輩社員からも「君にはこの分野の才能があるね」とすごく褒めてくれて天にも昇る気持ちになった。

勝てる勝負しかしない

現在は独立して色々と仕事をしている。独立後はできそうな仕事は何でもやった。しかし、やってみてパフォーマンスが出せないものは全部やめて、周囲からの評価はどうあれ、自分自身が納得の行く結果が得られるものだけが手元に残っている。

「逃げるなんて情けない」と言われそうだが、人生経験を経て、「勝てない勝負はしない」というマイルールを持つに至った。負け続ける戦いを長期的に続けられるほど、人間は強くできていないのだ。頑張って自己満足的でも楽しい結果が得られることだけを仕事にするのである。だから、今やっている仕事も自分の望む結果が出せなくなったら、しがみつかずにスパッと即やめてすぐさま新しい仕事をする覚悟を持ってやっている。

勝てない勝負をしない、響きはなんとも悪いが人生も仕事も長く続く。どうせ頑張るなら、勝てる場所で勝てる勝負だけをして自己満足に浸る方が仕事は楽しい。つまり、適職とは数多ある仕事の中で勝てる勝負ということなのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。