アメリカ大統領選は実質終了?

アメリカの共和党大会でトランプ氏を大統領候補に決定し、トランプ氏は副大統領候補にJDバンス(James David Vance)氏を指名しました。トランプ氏は大統領候補の受諾の表明をするばかりとなっています。

トランプ前大統領インスタグラムより

銃撃事件で耳に負傷を受け、血を流しながらもガッツポーズをするドラマの一シーンの様なトランプ氏の画像は長く多くの人の記憶にとどめることになるでしょう。もちろん、あの決定的写真のインパクトも素晴らしく、写真を撮ったカメラマンはピューリツァー賞確実ともいわれています。多くの民主党支持者にとってみれば「この瞬間、民主党の芽は無くなった」と感じたことでしょう。老いが目立つバイデン氏が頑なに大統領のポジションにしがみつきネガティブなイメージが先行する民主党とは偶然とはいえ、あまりにも好対照な結果となりました。

トランプ氏が好き嫌いという話ではなく、敵に向かって挑む強さが一部のアメリカ人を熱狂させているともいえ、忘れかけていたあの時のアメリカが戻ってきた感すらあります。代弁するならもやもやが吹っ飛んだ、そんな感じでしょうか。

ご承知の通り、私はトランプ氏支持者ではありません。かといって民主党が良いとも思っていません。もちろんアメリカに住んでいない者にとって支持も何もあったものではありませんが、逆に言えば中立的なものの見方ができるともいえるでしょう。その私でも今の情勢とトランプ氏の尽きない幸運の数々、襲撃されても銃弾が耳を貫通するにとどまる奇跡、その事件の余韻が冷めやらぬ中での共和党大会、抱える裁判もトランプ氏有利な判断が次々と出て挙句の果てに機密書類持ち出し事件では連邦地裁が棄却し、少なくとも11月の大統領選まで裁判らしきものはないところにこぎつけました。ここまで駒が揃ってしまえば想定外の事態が起きない限り、大統領選は実質終了とみてよいでしょう。

さて、副大統領候補に挙がったJDバンス氏です。オハイオ州育ちで両親は離婚、親権があった母親は薬物中毒となり、祖父母に姉と共に育てられました。高卒後、海兵隊でイラク、除隊後オハイオ州立大学卒業、イェール大学の法学のPhD(博士号)。実業界に入りあのピーターティール(Paypal, Open AIなどの創業メンバー)の関連会社で社長、作家としては自伝の「ヒルビリーエレジー」がベストセラーとなり、トランプ氏の推挙があり23年1月に上院議員になったばかりであります。政治家になるためのもって生まれた才能が開花したともいえるでしょう。

話はそれますが、先週の金曜日、私はBC州の秋の選挙に向け、ある政党の公認候補の寄付集めの決起集会に出席していました。韓国系カナダ人。38歳。両親はカナダでグローサリー店を営むごく普通の家庭。卒業後、消防士になり、そのあと勉強したのでしょう、弁護士になります。そして今回の選挙においては党代表がぞっこんほれ込んだともされ、決起集会には地元周辺選出の同党の議員がほぼ全員顔をそろえ圧倒的な盛り上がりを見せました。私は初めてお会いし、話をしましたが、甘いマスクの上にトークも上手で才能のかけらを感じました。有力候補だと思います。このように才能を持つ人材はそれまで長く活動してきた人をあっさり押しのけ、圧倒的なフレッシュさ、斬新さ、若さ、心地よさを打ち出します。これも才能と戦略です。

トランプ氏がまだ39歳のバンス氏を選んだのはその将来性を見たのかもしれません。もちろん第一印象としてはバンス氏は要領がよい男、今は耐えてトランプ氏の擁護をするもチャンスを虎視眈々と狙う男という感じを見て取っています。それ以上に幼少時代に家庭の問題を抱えながらも努力し、海兵隊で海外に出て国への忠誠を示した点において彼は明らかに評価基準が高いともいえます。

こうなるとトランプ氏と氏よりも強硬派ともされるバンス氏のコンビが声を揃えるMake America Great Again (MAGA)は強烈なメッセージになりそうです。政策的にはほぼ開示されているので民主党政権時代に恩恵を受けた環境保護関係の産業には逆風です。またミーイズムの国家版であるモンロー主義の踏襲は確実でしょう。オープンなアメリカから仲間を選択するアメリカに、そして儲かるアメリカを標榜するはずです。「Great Again」の対象は誰か、私は陽が当たることがなかった白人層から中間層に対して「チャンスはある、君たちがgreat になるのだ」というメッセージを感じます。

日本のアメリカとの歩調の併せ方はたやすくはないです。トランプ氏にこびへつらうのではなく、対等な立場で話ができてトランプ氏のハートをつかむテイストの政治家はいるでしょうか?当然ながら自民党の総裁選はトランプ氏のアメリカを前提に考慮する必要があるとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月17日の記事より転載させていただきました。