米共和党は選挙戦のペース奪われるな

バイデン大統領とトランプ前大統領間のこれまでの大統領選では高齢問題が焦点になってきたが感がある。81歳のバイデン氏も78歳のトランプ氏も高齢者だ。現在の世代の問題を扱う政治家ではないということから、「どちらの候補者にも投票しない」という“ダブルヘイターズ”(Double Haters)が米国の有権者の約30%になると受け取られてきた。

米ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれた共和党大会で大統領候補指名受諾演説を行うトランプ前大統領。モニターには13日の銃撃事件の場面が映しだされた(2024年7月18日、桑原孝仁撮影)

それが今月21日、現職のバイデン大統領が大統領選から撤退すると表明したことから、戦いはバイデン大統領から全面的支持を得たハリス副大統領とトランプ氏の戦いとなった。

その結果、ダブルヘイターズの反応にも変化が見られるかもしれない。ドイツの民間ニュース専門局ntvのウォルフラム・ワイマー記者は23日、「ダブルヘイターズはハリス副大統領の出馬を歓迎するかもしれない。ピューリサーチのデータによると、アメリカ人の4分の1がバイデンもトランプも悪い候補者だと考えており、過去10回の選挙で最も高いダブルヘイターズの割合であった」という。その「悪い候補者」の一方、バイデン大統領が大統領選から撤退したことで、59歳のハリス副大統領に「ダブルヘイターズの票が流れる可能性が出てきた」と分析しているわけだ。

米大統領選は民主党と共和党の2大政党の争いだ。世界観、国家観、経済政策などが問われることになるが、これまでの大統領選では81歳のバイデン氏の大統領職務履行能力に関心が集中し、共和党と民主党の政策論争はほとんど話題とならなかった印象を受ける。

バイデン氏が民主党内の撤退要求に押されたこともあって大統領選レースから離脱したことを受け、米大統領はようやく大統領の高齢問題から解放され、民主党・共和党の政策論争が展開できるチャンスが到来したわけだ。

大統領選のレースの顔ぶれが代わったことから、メディアの関心はハリス副大統領のプロフィールに集まってきている。ハリス副大統領は多くの米国民から民主党内では左寄りと受け取られ、中絶、性的少数派(LGBT)の権利問題では過激な立場を主張してきた政治家として知られてきた。副大統領時代はバイデン氏の影に隠れ、存在感を発揮する機会は少なかった。バイデン氏から移民対策を任されたが、その政治対策への評価は低く、共和党から攻撃を受けてきた。

ハリス氏は59歳とまだ若い。そして米国の歴史で初の南米系及び南アジア系アメリカ人の女性副大統領となった。その前には2010年にカリフォルニア州司法長官に選出されている。母親はインド出身の生物学者シャマラ・ゴパラン、父親はジャマイカ出身の経済学者ドナルド・ハリス氏だ。本人はハワード大学で政治学と経済学を専攻し、カリフォルニア大学のイスティングズ法科大学院で法務博士(J.D.)を取得している。ちなみに、ハリス氏は選挙戦では、①中絶の権利、②厳しい銃規制、③中産階級の強化の3点に重点を置くと述べている。短期間で自身のプロフィールを米国全土に広げていくことを願っているわけだ。

米国の有権者は民主党と共和党の経済政策、社会政策の違いは基本的には理解している。小さな政府で国家の干渉を最低限に抑え、国民の自主性を最大限に発揮できる社会を主張する共和党に対し、民主党は国家の役割を重視、政府の国民への社会的福祉を重視、公正な社会の建設を訴えてきた。そして移民政策、中絶問題への対応等、民主党と共和党では明らかにポジションが異なる(「トランプ氏は2期目で何をしたいのか」2024年7月18日参考)。

世界の指導国家として外交、安保に関心がある有権者にとって、ウクライナ支援問題、イスラエルとハマスのガザ紛争の行方、それに中国共産党の覇権主義の動向など外交・安保問題がテーマとなる。

トランプ氏はハリス副大統領の左寄りの社会政策、移民対策などに焦点を絞り、問題点を指摘していくはずだ。トランプ氏暗殺未遂事件で国民の関心が共和党に集中してきたが、バイデン氏の離脱表明、ハリス副大統領の大統領選への参戦で国民やメディアの関心は共和党から民主党に移動してきた。それだけに、共和党は選挙戦のペースを民主党に握られないように政策のリーダーシップを発揮すべきだろう。

ちなみに、「欧州の盟主」ドイツではハリス副大統領が米大統領選に出馬することを歓迎している。ハリス氏は今年ミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で、米国のウクライナ支援の継続、北大西洋条約機構(NATO)への米国の関与など主張したこともあって、ショルツ独政権は次期大統領選ではハリス支持に傾いている。

参考までに、ハリス氏が大統領選で勝利すれば、ハリス氏の夫、ダグラス・エムホフ氏(弁護士)が初のユダヤ人の「ファースト・ジェントルマン」としてホワイトハウスに入ることになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。