日本で「一人で過ごしたい」が多数派になった理由

黒坂岳央です。

博報堂が行った発表によると、1993年と2023年を比較した調査で「一人で過ごす方が好き」と回答した人が半数を超えて56.3%になったという。

驚くべきは特定の年代や既婚、未婚に限らずすべての年代で一人好きが増加したというのだ。この変化の背景を考えたい。

ChayTee/iStock

最大のインパクトはインターネット

30年前の1993年と2023年とで起きた最大の環境変化の一つはインターネットの存在で間違いない。

30年前といえばパソコン(Windows3.1の時代、ほとんどの人は持っていない)もスマホもない。ガラケーもレンタルの時代であり実質的にインターネット端末はなかったのだ。この時代の娯楽はテレビ、映画、ゲーム、旅行といったものであり、友達や家族と一緒に同じコンテンツを消費するというスタイルだった。自分自身、4人兄弟と人数が多かったので家族でゲームや映画を見て過ごしていた。

だが、時代は代わりインターネットが登場したことで、現代人は多くの時間をインターネット空間で過ごすように変化した。こども家庭庁の調査によると、平日一日あたりのインターネットの利用時間は高校生で6時間14分、中学生で4時間42分で動画視聴が90%以上となっている。また、兄弟がいても同じコンテンツを一緒に楽しむのではなく、それぞれ別々のコンテンツを消費する。

さらにSNSも登場したことで旅行や外食も実質的に「投稿のネタ」になっている人も少なくない。旅行で外食をすると、友達同士で来ていているのに全員黙々とスマホをいじっている集団を目にすることも少なくない。これは実質的に一人旅を集団で来ているのと同じだ。

コミュニティの変化

また、同調査によると「会社のお昼休みの行動」という項目でも、同僚ではなく一人で食べたいという人が急増している。このことから分かるのはコミュニティの変化である。1993年頃は会社で働く社員は戦友、とか家族と言われた。自分は大学卒業後、複数の会社でサラリーマンをしていたがその一つの会社で「オレ達は一日の内で家族よりも長い時間を過ごすので、家族みたいなもんだ」と言われたことがある。

しかし、最近はこの感覚にも変化が起きている。会社はあくまで仕事をする場に過ぎず、仕事中は人間関係をうまくこなしつつも昼休みや退社後はプライベートに干渉しない、という感じだ。昔は上司に飲み会に誘われて若者が否定的、という構図をよく見てきたが最近ではプライベートを守りたい価値観の人が上司に持ち上がったことで、飲み会自体減っているところもあるだろう。パワハラに抵触するのが怖くて、下手に部下に干渉することを恐れる人も増加した。

だが彼らは社外や家庭外で、自分と気の合うコミュニティを持っている。リアルでは一人で過ごすのが好きな人も、インターネット上でワイワイ楽しんで過ごす人は少なくないと感じる。

この一人好きが増えたという調査を見て感じたのは、「人生が楽しくなった」ということだ。娯楽が少なく、一人で過ごしても楽しくなかった時代に比べれば、今は一人でも無限大に楽しめる娯楽で溢れている。筆者も日中は事務所を借りて一人で過ごしているが、仕事や学ぶことが多くて大変忙しく、このまま一生飽きない遊園地にいるような感覚である。1993年にタイムスリップしても本があるので一人で楽しめる自信はあるが、それでも現代の方が楽しい娯楽に溢れているのは間違いない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。