上席コンサルタント 営業部 仲 悠将
幕末に突如として現れた治安部隊『新選組』。
彼らは、幼い頃から訓練を受けてきたエリート兵団ではありません。なかでも中枢を担った近藤勇、土方歳三、沖田総司等は現在の日野市で育った田舎侍(正確には武士ではない)でした。
彼らがどのように幕末の主役の一端を担う組織となったのか、識学目線で解説いたします。
鉄の掟、『局中法度』~強い組織で有るためのルール~
筆者の好きな歴史上の人物は、織田信長、土方歳三です。高校生の頃、祖父から司馬遼太郎氏の書籍を借り、何度も読み返していました。
特に好きだったのが、「燃えよ剣」と「新選組血風録」。両作の舞台は幕末、物語の主役は新選組です。その新選組の代表的な人物といえば、土方歳三を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
新選組は幕末に突如として登場し、京の治安維持のために反幕府派の志士を取締っていたのですが、なぜそれほどに強かったのでしょうか?
新選組の母体は「壬生浪士組」だとされており、出自を見ると脱藩浪人、または農民や商人に出自を持つ人物が多くいたようです。土方歳三も、由緒正しい武士の家系ではなく、薬師を営んでいたと言われています。
このように、新選組の構成員はもともと浪人や農民だった人物が多いとは言え、なかには強い人もいたかもしれません。しかし、商人や脱藩した浪人に、最大でおよそ230人もいた組織の統率が取れるかと考えると、疑問が残ります。
そこで、血の気の多い侍たちに規律を守らせるため、新選組の創設時に局長の近藤勇と芹沢鴨が考案し、土方歳三が徹底した鉄の掟が『局中法度(禁令)』です。中身の詳細は割愛しますが、土方歳三はこの局中法度を徹底しました。
隊員だけでなく、山南敬助や伊東甲子太郎といった組幹部までも、隊律違反を理由に切腹、暗殺されています。このような徹底的なルールを設けることで、隊員の意識は、
- 『規則を守らないとやばい』
- 『従うしかない』
というように変化していきました。
土方歳三は、この局中法度を徹底することにより、組織をコントロールし、トップの意思通りに動ける『意思決定から組織が動くまでにロスタイムが少ない組織』を構築していったのです。
とにかく『突き』!!~勝つためのロジックが明確~
統率が取れた組織になると、次に必要なものは勝つための作戦です。
作戦とはいえ相手がどこに隠れているかは不明です。戦国時代の戦のように、武将が現場を率いて指示を逐一出しながら戦うということは、現実的に出来ません。
そこで土方歳三をはじめ、天然理心流メンバーによって考案された戦術が『突き』だとされています・(※実際に土方歳三が考案したかどうか真偽は不明ですが、『突き』が多用されたのは事実のようです。)
繰り返しになりますが、隊員たちの出自は様々であるため、剣の流派も異なります。このような状況で敵に勝つために徹底された作戦が、とにかく『突き』だったのです。
なぜ『突き』だったのでしょうか?
理由は当時の建物が関係しています。復元された池田屋等でも確認できますが、当時の建物は天井が低いことが特徴です。そして反幕府派の武士との戦いは、その建物の中で行われます。
このとき土方歳三は、天井が低い屋内で戦えば、天井に刀が引っかかってしまい刀が振れないことに気付きました。そして、『現場には行けない。しかし、突きを徹底すれば、勝つ確率が上がる』と、考えたのです。
上記で解説した局中法度の徹底により、隊員は指示に従います。そのなかで『突きを徹底する』と指示が出るため、隊員は必死に『突き』を修得し、実践します。この繰り返しにより、新選組は個人の才能に依存するのではなく、組織全体として戦力を向上させていきました。
リーダーは常に一人!共同経営の危険性
組織が大きくなり、成長してきた際に気をつけておくべきポイントがあります。
それは、人員が増えることで組織内に派閥が形成され、内輪揉めが発生することです。今回のテーマからは逸れてしまいますが、筆者は識学社以外に国内最大手の人材系会社や、ベンチャーコンサルにも所属してきましたが、規模の大小問わず、一定の人数が集まるとほぼ確実に派閥が生まれます。
この派閥が争い始めると、組織の成長を阻害し、組織の競争力を著しく低下させるため、このような状況に陥らないような環境や仕組みの構築が必須です。
さて、話を土方歳三と新選組に戻しましょう。
土方歳三が『鬼の副長』と恐れられた所以は、局中法度を徹底したことと、違反者には大きな罰を与えたことにあります。大きな罰とは切腹、または暗殺という手段でした。
暗殺のエピソードはいくつかあるのですが、筆者の印象に強く残っているのは『局長芹沢鴨の暗殺』です。「所長」というと近藤勇をイメージするかもしれませんが、新選組初期は芹沢鴨と近藤勇の2枚看板だったのです。しかし、これが大きな問題となってしまいます。
土方歳三と近藤勇は「局中法度を徹底したい」と考え、芹沢鴨は「そこまで厳しくしたくない」と考えました。この結果、組織が二分してしまったのです。
最高権力者が二人いて、双方の方針が異なれば、組織が混乱しないはずがありません。これは、現代の組織においても同様です。組織の成長を最大化させるのであれば、責任者は常に一人、トップは一人で在るべきなのです。
トップが二人いる時点で必ず派閥が生まれ、組織の成長速度は鈍化する一方となります。この時期、新選組も混乱を極め、狼藉に近いような事件も起きてしまう状態でした。その結果、局長芹沢鴨は土方歳三、近藤勇両名の主導で暗殺されてしまったのです。
当然ですが、現代の組織では暗殺はできません。
ただ、歴史を鑑みれば、
- 新選組上杉家(景虎、景勝の跡目問題)
- 南北朝時代(応仁の乱まで)
といった事例に学べることは「責任の範囲がはっきりせず、トップが複数居て、同等に近い権力を持ち合うことはデメリットしかない」ということです。
これからスタートアップを考えている、もしくは事業承継を考えている方々は、必ずこの点に注意しましょう。
強い組織の共通点~スポーツ強豪校も一緒~
今回は土方歳三を中心に据え、新選組という組織を識学の観点から解説しました。
総括するならば『なるべくして、強い組織になった』という結論になるでしょう。強い組織には必ず共通項があり、なかでも今回は下記のようなポイントを解説できました。
- ルール遵守
- 結果が明確
- 責任が明確
これらは、スポーツの強豪にも同じ事が言えます。例えば、甲子園の常連校を想像して下さい。もちろんスター選手もいますが、メンバー全員がスター選手というわけではありません。また年によっては『今年は地味だな』というタイミングもあるはずです。
しかし、強豪校はいつも強い。なぜでしょうか?
強豪校が強豪校たりえるわけ
もちろんやる気に満ちた選手が多いことも理由の1つですが、最も大きな理由は『育つ環境』が既に作られているからです。言い換えると『育たざるを得ない環境』が既に備わっている、と言えます。
人のセンスだけでチーム力(組織力)を上げるのであれば、毎年毎年が博打のような組織作りになってしまいます。もしそれが事実ならば、甲子園の常連組は固定化されることはないはずです。
土方歳三が作り上げた新選組も、スポーツの強豪校も、現代の成長企業(組織)にも、共通して『強い組織の条件』というものがあります。今回はそのさわりの部分を解説させて頂きました。
ご興味が有る方は、一度、㈱識学までお問い合わせください。
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仲 悠将(Yusuke Naka)
上席コンサルタント 営業部。南山大学経済学部を卒業後、新卒で大手人材コンサルに入社。その後、地元・名古屋のベンチャー企業に転職。運送業界や産業廃棄物業界に特化した組織改善のコンサルティングを10年ほど経験。最年少役職者として早期にマネジメントも担当。その後識学に入社。