「ふるさと納税ポイント禁止」に賛同・反対する理由

関谷 信之

「ふるさと納税のポイント付与を禁止する」

総務省のふるさと納税見直しが波紋を呼んでいる。

総務省|報道資料|ふるさと納税の指定基準の見直し等

猛反対したのが楽天だ。これは当然だろう。楽天のお得意様は、「楽天(ポイント)経済圏の“住人”たち」。モバイル事業に参入し、1兆円以上の借金を抱えたのは経済圏を広げるためだ。狭める施策など許せるものか。「公衆に訴えてやる」。怒りにまかせて配信したかのような「反対署名のお願い」メールを受け取った方も多いのでは。

一方、賛同したのはふるさとチョイス(トラストバンク)だ。これも当然だろう。彼らは政府(行政機関)に抗わない。なぜか? 政府は「お得意様」だからだ。2019年にリリースしたコミュニケーションツール「Logoチャット」は行政機関専用だ。いまや利用自治体は1,400を超える。継続利用の可能性が高く、貸し倒れリスクも無い。こんな「良客」の意向に異を唱える? ありえない。よって、対応は楽天と逆になる。トラストバンクの親会社チェンジホールディングスは、総務省発表と同日、

「今後も制度趣旨に沿った方針をさらに強化いたします」

と声明を発表し、トラストバンクの川村憲一社長は

「制度をゆがめるような形になってきてしまっているのであれば、政府として変えていくのはありなのではないか」

と述べた。“優等生発言”は、したたかさの表れでもある。

株式会社トラストバンクプレスリリースより

立ち回りがうまいふるさとチョイス

トラストバンクは、自治体との関係性強化も怠らない。

今年は、神奈川県の川崎市・平塚市の花火大会運営費のクラウドファンディングを請け負い、北海道広尾町・島根県浜田市とは、商品開発や販路開拓の連携協定を結ぶ。

ふるさと納税反対派に対しても懐柔策を講じている。

23年12月には「ふるさと納税をやめよう。」と題した一面広告を新聞に掲載した。タイトルとは裏腹に、ふるさと納税の意義を訴えるものだ。以下は、同広告のウェブサイト版である。

ふるさと納税をやめよう。
なんて言いたくないから、ふるさとチョイスは改めて、
「ふるさとを応援する」意義を伝えたい。
(中略)
いま、ふるさと納税を通じて約1兆円のお金がふるさとに届いています。

ふるさと納税を考えよう|ふるさとチョイス – ふるさと納税サイト

「約1兆円がふるさとに届く」と言う――うち約1000億円が「ふるさと納税サイト事業社に届く」とは言わない――うまい広告文である。

自治体との関係性強化。反対派向けの懐柔広告。これらの目的はふるさと納税の「延命」だろう。

今後、政府の制度変更により利幅は縮小する。反対論の広がりによっては制度廃止もありうる。広告を通じて「理解」が広がれば、ふるさと納税の延命に繋がる。延命で得た時間を何に使うか? ふるさと納税からの離脱準備だ。具体的には、第2の柱「Logoチャット(Logoシリーズ)」のさらなる浸透である。

第2の柱「Logoチャット」事業

Logoチャットは、行政機関専用のチャットツールだ。

従来、行政機関は「LINE」のようなチャットツールを使うことができなかった。セキュリティ強化のため、ネットワークをインターネットから切り離した「閉域ネットワーク」(LGWANと呼ばれる)で構成しているからだ。よって、ネット環境を前提とした一般的なチャットツールは使えない。

この状況を変えつつあるのが「Logoチャット」である。

「Logoチャット」は、LGWANとインターネット両方の環境で使うことができる。自治体間のコミュニケーションはもちろん、外勤職員・外部機関、アカウントを発行した民間企業とのやりとりも可能となる。

その普及速度は凄まじく、19年のリリースから3年足らずで全国1,788の自治体のうち1,039が導入、直近(24年5月)では1,405自治体にまで普及している。自治体は、他自治体の導入実績を重視するので、さらに普及が進むはずだ。

今回の「ポイント禁止」のようなふるさと納税縮小策にあわせ、トラストバンクは、行政業務をサポートする「B to G(Business to Government)」に、シフトしていくことだろう。

株式会社トラストバンクプレスリリースより

ポイントとは。ふるさと納税とは

一方、楽天のポイントへの執着は弱まる気配がない。

「ポイント禁止とかいうやり方に憤りを感じる」
「断固反対する。傲慢すぎる」

楽天の三木谷社長は、SNSに感情的なメッセージを投稿している。

楽天ふるさと納税ウェブサイトより

だが、そもそもポイント制度とは何だろうか? 顧客囲い込みの手法である。自店のリピーターを増やしたい、という経済的な動機にもとづく「私益」のためのものだ。

では、ふるさと納税とは何か。ふるさとへの恩返しである。道徳的な動機にもとづく「公益」のためのものだ。だからこそ寄付制度の転用という「法的テクニック」を用いることが可能だったのだ。

だが、その転用が歪みを生じさせている。払った税金の一部を返礼品で――加えてポイントまで――取り戻している時点で「寄付」の体をなしていない。

ふるさと納税は、税収を増やすわけではない。それどころか、国全体としての税収をおよそ「半分(=5割)」減らしてしまう。「半分」の内訳は、返礼品そのものがおよそ3割。返礼品の発送などが1割、そして、ふるさと納税サイトの手数料(掲載・広告)が1割とされる。

昨年のふるさと納税受入額は「1兆1,175億円」だった(※1)。うち「5,429億円」が返礼品等に費やされ、「1,100億円程度」が、ふるさと納税サイトを運営する「東京の」企業に流れている。

これが、「ふるさとへの恩返し」のコストだ。制度趣旨を遵守するのであれば、このコストを削減し、ふるさとの「手取り」を増やすことが最優先課題だ。ポイント禁止などという微調整で済む話ではない。

その微調整にすら異論を唱える事業者がいる。そこまで、この「歪んだ制度」が定着してしまったのだろうか。脅威を感じるばかりである。

【脚注】
※1 令和5年度 2024年8月2日総務省発表
【参考】
ふるさと納税に関する現況調査結果 (令和6年度実施)
ふるさと納税”ポイント禁止”に大手が賛同。ふるさとチョイス「変えていくのはあり」 | Business Insider Japan