金融市場を襲った8月の「お化け」:過剰反応する人々のマインド

昨日のブログでは専門家の理由は後付け、問題の本質を極めよ、と申し上げました。それでも世界はこの8月のお化けに縮み上がっています。お前が考える本質について述べよ、と仰る方もいるでしょう。私なりの考えを述べたいと思います。

今日現在、世界ベースで抱えている大きな関心事とは何でしょうか?

  • ウクライナとイスラエルの2つの戦争の行方
  • アメリカ大統領選挙の行方
  • 物価高の行方
  • 日本の政局の行方
  • 為替相場の行方

場合によっては中国経済の行方も不安材料になるかもしれません。

kurosuke/iStock

7-8月は夏休みで経済や社会、政治の動きは緩慢になります。ところが日々生活している我々にとってはこの2か月間の緩慢で判断が起きにくい時期の不満、不安、懸念などが時として膨張しやすくなります。不安の振幅です。歴史的に株式相場が荒れるのはこの2か月間の空白時期に生じたクラックが秋に具現化する、これが問題だったとみています。

では今回はなぜ、秋まで持ちこたえられなかったのでしょうか?トリガーは日銀の利上げかもしれません。私は植田総裁の利上げの判断は今でも悪くなかったと思っているのです。問題は為替相場にあったと思います。利上げにより為替が円安から円高に反転するのは予見できたのですが、その動きが異様な勢いだったのです。なぜ、ここまで為替が動くか、もちろん過剰反応であり、論理性はほとんどなく、モメンタムでしかないと思います。

FRBの判断ミス、これも後付的に言われていますが、私は以前から一つ指摘していたことがあります。それはFRBが重視にする統計には遅行性がある点です。統計資料として挙がってくる数字は概ね実体経済の変調後、数カ月から時としては半年、1年近くたってから数字に表れることもあります。

例えば企業の売り上げが下がり始めたとしても企業は一定期間は数字の動きを見て慎重姿勢を取ります。その上で数字が改善しない場合、手段の一つとしてレイオフの判断を下します。経営側が判断をしても実務的にはそれが行われるにはまた数週間からひと月は準備に追われるし、レイオフをしてから統計の数字に出るにはまたひと月かかるのです。つまりFRBが金科玉条としている統計は企業経営にインパクトが見えてから我慢期間を経て相当時間が経ったある一つの判断事象を捉えているのであり「とにかく古い」のであります。

経済が平常時、つまり一定高度で安定飛行している場合は一定のタイムラグは吸収できます。ところがコロナ禍で始まった利下げ、その後の激しいインフレと利上げ、そしてインフレの鎮静化とビジネスの実態は渦潮のような状態でこの4年間、何一つ安定ということがなく、新しい水準が次々と生まれてきました。FRBが判断ミスをしたとすれば乱気流下における経済活動について実態面から相当遅れた判断をした、ここに痛恨のエラーがあったとみています。

もう一つ、私の考える8月の「お化け」とは見えない不安です。個人的にはイスラエルを取り巻く問題が大きな懸念で何が起きるのか、歴史の教科書になるような事態になるのか、であります。もう1つは日本とアメリカの政局であり、共に何らかの変化が起きそうな気配がある、だけど誰もその先がわからないという不安であります。

昨日申し上げたように社会は99.9%のフォロワーにより成り立っていますが、そのフォロワーはフォローする際にいろいろ色付けするのです。今、英国で起こっている少女3人の殺害事件について事実と全く関係ないのに移民が事件を巻き起こしたと勝手なストーリーが作られ、嘘だと分かっているのに移民反対派が暴動を起こしています。つまり彼らは移民反対運動をするための理由付けが欲しかったのであり、社会への不満とストレスを爆発、発散させたかったのです。

同じような問題はアメリカの大統領選挙でも起きるかもしれないし、その点はおとなしい日本でも荒れた政局になるかもしれません。要は明日のことが分かりにくい中、人々のマインドが異様に繊細になっており、全てに過剰反応する、そういうことだと思います。

「8月のお化け」はお盆を過ぎると出ないのが通例です。私はそれを信じたいと思います。日本の株価は過剰反応ですが、為替がトリガーであり、強烈な巻き返しと個人投資家がその大きな波にのまれてしまいました。ただ、日本の株価乱高下を為替原因説だとすれば私が先週申し上げた対米ドルで140円というラインは一時期、見えそうなところまで行きました。そこを超えてまで円高が進むにはかなりハードルが高いかもしれません。

ということで私の頭にはフランクシナトラのマイウェイの歌詞にある「And now, the end is near …」がふとよぎるのです。歌詞とは全然違う意味ですけれど。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月7日の記事より転載させていただきました。