海外資本による土地の買収は陸の侵略なのか?

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1.はじめに

島国である日本にとって防衛や安全保障、海上交通の安全確保の観点から「海」の重要性が高い。

しかし、日本政府が尖閣諸島を国有化した2012年以降、尖閣諸島周辺海域における中国船による領海侵入等の回数が増えている。2024年4月の接続水域入域が118隻、領海侵入が18隻との報告があった注1)

また、北方領土周辺海域においてもロシアとの問題が発生している。2024年4月にロシア政府は、4/11~4/17にかけて北方領周辺海域においてロシア船籍を除く船舶の航行を認めない措置を発令した。これにより、日本政府は、北方領土は日本固有の領土であるとロシアに抗議した注2)

以上のように、日本の領海は中国やロシアによって脅かさており、その背景には「領土」の問題が影響している。他国からの脅威は南西や北方における島部だけの問題なのか。本レポートでは、外国資本による土地買収を取り上げ、「陸」における脅威についてまとめる。

2.日本と土地

まず、日本における土地注3)の考え方について整理する。

土地の所有は時代における権力の象徴である。日本において土地所有権の在り方が最初に示されたのは、大和政権時代の『改新の詔』と言われている。大化の改新以前は、豪族が土地と住民を支配する「私地私民」であった。改新の詔により、土地は天皇が所有する公地となり、国民に解放された。その後、天皇、貴族、武家といった時の権力者が実質的に土地を支配する形となった。

ただし、開墾意欲向上のため農民に継続的な私有制が与えられたこと、各地の国司や地頭が本領安堵したこと等、この期間内においても土地の支配の形が「公から私」、「私から公」と変遷している。

室町時代、戦国時代になると権力者達による領土争いが繰り広げられた。徳川家康による天下統一により領土争いは終焉し、その後、幕府が土地を支配する流れとなった。

そして、現在の土地所有制度の根本的な考え方は近代国家が成立した明治維新以降から続いている。1889年に制定された大日本帝国憲法では、二十七条一項に「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ」、同二項に「公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」とあり、この頃から個人による土地所有権の自由が前提となった。

現代において、土地所有権の自由が空き家、空き地、耕作放棄地などさまざまな問題を引き起こしている。また、日本では土地の権利が「自由」かつ「私」が前提であることから外国人や外国資本が自由に土地の売買をすることが可能である。

3.海外資本による土地の買収

毎年多くの外国人が北海道ニセコ町を訪れ、スノースポーツを楽しんでいる。かつて、日本企業によって開発されたニセコのリゾート施設は、日本経済の停滞期に次々と外国人や外国法人の手に渡り、今では外国資本のホテルが立ち並ぶようになった。

既に開発されたリゾート地や温泉地だけではなく、未開発の森林の取得も活発化している。このような動きに対して、林野庁や農林水産省が森林や農地の取得状況に関して毎年調査を実施している。

表1に2006~2022年までの外国資本による森林取得状況を示す注4)。この表は、参考文献に基づき、著者が整理したものである。この他にも、国内の外資系企業と思われる者による森林買収も行われており、同期間の累計では302件、6,734haと報告がある注4)。外国資本による全森林取得面積の約7割が北海道である。先のニセコ町では、森林の153ha(東京ディズニーランドの約3倍の面積)を外国法人または外国人が取得している。

次に農地について述べる。2017~2022年までの外国資本による農地取得状況は1社、0.1haである注5)。また、外国法人又は居住地が海外にある外国人と思われる者が議決権を有する法人又は役員となっている法人による農地取得は、同期間の累計で6社、67.6ha(売渡面積5.2haを除く。)である注5)。このように、農地においては外国資本により農地取得はそれほど進んでいないことが確認できる。

森林、農地ともに土地取得時に、居住地や資本の国籍を区別する法律は存在しない。しかし、農地に関しては、法人が農地を所有するための要件の1つに「農業関係者が総議決権の過半を占めること」があり、外国資本の出資比率が50%を下回らないと、農地が取得できない制度となっている。森林と農地の比較より、農地のように国籍に関する厳しい取得要件を求めることで、外資の取得規制として機能することが確認できた。

また、森林はそのものが森林資源であり、水源地を育む役割も担っている。「水」の重要性が高まる中、外資による森林取得や開発が進むことの不利益は誰が被るのか。売却する側も短期的な利益を追求するだけではなく、長期的な影響を考えるべきではないか。そして、上流側の水源地の森林を守るためには、上流下流が一体となった水源地保全の制度等を整備する必要もあるのではないか。

4.重要土地等調査法の成立

2021年6月には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(重要土地等調査法)」が成立し、自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制することが可能となった。

政府が規制対象とするのは、①防衛施設(レーダーサイトや陸海空自隊の司令部など)、②重要インフラ(原発、自衛隊と民間の共同空港)、③国境やその周辺の離島である注6)。施設の周囲およそ1km内や国境近くの離島を「注視区域」に定め、この区域内で日本の安全保障を脅かす土地利用を確認した場合、所有者に利用中止勧告・命令や刑事罰を科すことができる注6)

特に重要な自衛隊司令部などの施設周辺は「特別注視区域」と定め、土地売買に事前の届け出を義務付けることになった注6)。この背景には、外国資本による不適切な日本の土地取得や利用するリスクを減らす目的がある。

5.これからどうする

土地の需給バランスの崩れが招いた現代の日本の荒廃を見る限り、欲しい人、使いたい人の手に土地が渡ることは望ましい。しかし、需要がなく、市場原理が働かない状態が現実である。現時点では、森林や農地は重要土地等調査法の対象範囲に含まれておらず、外国資本による森林の取得が進んでいるのが現実である。

安全保障を強化するのであれば、今後重要土地等調査法の適用地域の拡大を検討するべきである。もちろん、土地利用の規制は私権制限につながる恐れもあるが、他国の状況を鑑みると、日本だけが悠長なことは言っていられない。自国を守るためには外資規制の強化を本格的に行わなければ数年後、取り返しのつかない状況になるだろう。

【参考文献】

注1)海上保安庁:尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶等の動向と我が国の対処(参照日2024-05-18)
注2)NHKオンラインニュース:ロシア 北方領土周辺海域の航行停止措置を発令 日本政府は抗議(2024-04-13)(参照日2024-05-18)
注3)五十嵐敬喜:土地は誰のものか,岩波新書,2022.2
注4)林野庁:居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林取得の事例の集計(平成18~令和4年における森林取得の事例),2023.7
注5)農林水産省:外国法人等による農地取得に関する調査の結果について,2023.8
注6)内閣府:重要土地等調査法(参照日2024-07-02)