今日は後講釈をします。
7月11日以降、日経平均は下落を開始しました。そして月曜日の崩落はリーマンショックとかコロナの時のような明白な理由がないとされました。私は為替主犯説をとったのですが、そうであれば世界中の株価に激震が走る理由はありません。しかし対日本円と為替と株価の連動性が非常に高かったのも事実。
その間、私は北米市場を見ていたわけですが、7月以降見えたのはマグニフィセントセブンの株価の動きが今一つだったことです。正直なところ、エヌビディア祭りが派手過ぎて私がいつかは「宴のあと」と申し上げた通り、半導体がらみでネガティブな報道が出始めるとそれまでの買い一方が売りに転じます。ここで私はちょっとした見落としをしたのかもしれません。エヌビディア個別銘柄の調整局面を妥当だとみたことです。しかしどうもそれだけではなかったのです。この時期、株価は全般さえない動きとなっており、4-6月の各社決算がネガティブに反応していたのです。
お化けの正体はキャリートレードか?
キャリートレードという言葉を聞いたことがある人は案外多いと思いますが実際にどういう動きをしているのかを見ることはなかなかないでしょう。非常に簡単な例です。ドル円が160円の時1億円を借ります。借りるので為替はありません。これを全部円を売り米ドルに換え、例えばマグニフィセントセブンの株を買います。625000㌦分です。日本円の借入金利はただみたいなものですから無視します。あとはマグ7の株価が上がればよいわけです。仮に株価が上がりドル建て価値が650000㌦になり決済をするとします。ところが円が150円になっていると9750万円にしかなりません。つまりこの人は本来1億円借りてマグ7の株で25000㌦儲けたはずなのに為替で結局250万円損をするのです。
少なくともこのキャリートレードの巻き返しが雪崩のきっかけを作った可能性は大いにあるとみています。
為替主犯説
私が為替主犯説と申し上げたのはまさにこの点なのですが、では誰がこのような取引を行っているか、といえば高いアメリカの金利と低い日本の金利を利用するプロの投資家たちが好んで使う手法であります。これがキャリートレードと称するものです。1-2か月前、円は世界主要通貨で最も売られすぎているとこのブログで指摘しました。なぜ円だけが売られたかといえばこのいびつな為替取引で円を売ってドルを買うことでドルは必要以上に押し上げられ、円の価値が下がりすぎるのです。
では一体いくらぐらいの規模だったのでしょうか?ブルームバーグの調べによると7月初めのキャリートレードとみられる残高は140億ドルだったものが暴落直前で60億ドルぐらいに減っているとされます。今の為替で見れば9000億円相当の残高まで減少したということです。これを巻き返しと称するのですが、キャリートレーダーは
日銀や財務省が円相場の行き過ぎに懸念を示してる⇒円が動くぞ、ヤバい。早く持ち株を売れ⇒ドルを売って円を買いキャリーの解消⇒急激な円高を演出⇒株安
というシナリオは確かにあり得ます。もちろん、キャリートレードの巻き返しだけでは日本の株価全体をそこまで動かすほどではないのですが、「お化け」は正体がわからないところに意味がある、ということではないでしょうか?
日銀はチキン(弱虫)か?
8月7日に日銀の内田副総裁が「市場が不安定な状況で利上げはしない」と講演の一環で発言し、これが好感を呼び日経平均は目が覚めるような反転をしました。この原稿は内田副総裁が用意したとみられ、個人的発言でリップサービスだろうと考えています。市場が不安定な時に利上げは当然できないのですが、日銀としてはもう数段の利上げはしたいはずだし、事実、8日に公開された政策決定会合の主な意見を見ると段階的継続的引上げとなっており、中立金利を1%程度とみている節があります。ただ市場の極端な反応にビビったというのが正解でしょう。チキンというのはそういう意味です。海外では「永遠のハト(=弱気)、日本銀行」とも呼ばれています。
ただし、私は問題の本質は日本の金利が低すぎてしばしばキャリートレードの道具となっていることに不満があるのです。キャリートレードは今世紀に入るまではマイナーなオタクの領域だったものが日本の金融政策があまりに低位安定の金利水準を提示し続けるのでプロの投資家の間でキャリートレードがビジネスとして確立したのです。もしも日米でこれほどの金利差がなければ為替水準の大幅な変位も少なく、キャリーもしにくいはずです。当然ながら健全な投資家が慌てふためくこともなかったのです。
キャリーの残高が60億ドルというのは一面の統計で多分、その何倍もの残高があるはずです。これをより積極的に解消させるにはアメリカが断続的な利下げサイクルに入り、日本があと数段利上げすればほぼ解消するでしょう。よって日銀は市場との対話を上手にしながらも利上げ姿勢は崩さない方がよいと考えています。
お化けは消えるか?
お盆までにお化けは消えないかもしれませんが、秋にかけて更に漸減していくとみています。日本株は為替に踊らされています。それと半導体関連業種が今年前半のテーマだったこともあり、指針をなくした状態にあります。ただ、多くの輸出企業は現地化が進んでいるし、為替は先物でヘッジをしているので1-2年先まではさほど大きなリスクは出ないはずです。現地化している日系企業の場合は現地の儲けを日本に送金しないことが円安の原因の一つとされたこともあります。ただ、それも昔と今の比較であって円転しない日本企業が持つ海外の流動資産は常態化してきているのでこれが今後も影響するとは考えにくいです。
今回の世界規模の株式市場の大混乱は日銀の利上げがきっかけだった可能性はあります。そして夏休みで市場に参加するトレーダーが少なかったことも事実でしょう。「俺の夏休みを返せ」とぼやいている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
ただ、アメリカの景気の行方という別の課題もありますので引きつづきデータや経済事象には留意が必要かと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月9日の記事より転載させていただきました。