地方議会の権力と腐敗②:賛否独占による絶対権力の構造

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前回は、市が予算を使って行うすべての事業の「やる or やらない」の決定権限を市議会が握っていることとあわせ、市議会議員はなぜ複数人いるのか?という基本的な説明をしました。

(前回:地方議会の権力と腐敗①:地方議会の決定権とその威力

今回は、市議会が握る権力の構造についてみていきましょう。

Q3. 市長が一人、議員が複数人いれば、健全な市政は実現できるのですか?

必ずしもそうではありません。

というより、私の経験や、私のもとに集まってきている情報を前提にすれば、日本のほとんどの地方自治体の議会は多かれ少なかれ機能不全を起こしていると考えられます。機能不全の形態は様々ですが、典型的な一例を紹介しましょう。

その議会では、「過半数議員団」が「常に同じ賛否」で固定され、かつ「なぜその議案に対して賛成(反対)するのか」の理由を十分に市民に説明しません。

また、議案に対する議論を深める最重要の審議体である「委員会」の動画を公開せず、自分たちの議会での振る舞いを極力秘匿しようと努めています。その結果、市民の「知る権利」は阻害され、権力は「過半数議員団」によって固定化されています。

行政は、権力が固定化された「過半数議員団」を懐柔するために、例えば当該議員団の中にいる議員の頼みを優先的に処理したり、当該議員団が書くべき議会内の原稿を「書いてさしあげ」たり、議案説明を「過半数議員団」へは詳細な資料とあわせ丁寧に報告する一方、「それ以外」の議員には間引いた情報しか提供しなかったり、「過半数議員団」が主催する飲み会に行政の役員が頻繁に参加し、お互いに忖度し合う関係性の醸成に務めたりします。

Q4. 先ほどから出てきた「過半数議員団」とはどんな集団ですか?

ここでいう過半数議員団とは、複数の会派や政党からなる「賛否を独占する議員の集団」を指しています。

つまり、佐倉市の場合、年間552億4,300万円の使い道を決定できる権力をもっている集団、と言い換えることもできます。

議員数28名の佐倉市議会の場合、さくら会、公明党、自由民主さくらという3つの会派(合計18人)が多数派集団、つまり「過半数議員団」をつくり、過去5年間予算の使い道に関する決定権のすべてを独占しています。年間約500億円ですから、5年間で2,500億円、なかなかな数字です。

それにより、例えば税金を使って佐倉市職員の住宅保有者に手当を出す「持ち家手当(これは、国の指導によりほぼすべての市町村が廃止している制度であり、千葉県内で実施しているのは佐倉市のみ)」について「可決」したり、正式な入札プロセスを経た指定管理事業者の決定を、意味不明な理由で「否決」したり、度重なる一般質問による圧力で、ある自然公園の民有地買収予算を「議案化させ可決」したり等、市民の利益を最大限にするという前提でいえば考えられないような議会運営が行われていると考えています。

Q5. 議会の権力が「過半数議員団」に固定化されてしまったら、「提案権」を持つ市長より、「拒否権」をもつ「過半数議員団」のほうが強い権力をもつことになりませんか?

そのような議会であれば、もちろんそうなります。その場合もっともやっかいなのは、「過半数議員団」のトップに君臨する、いわゆる「議会のドン」が存在する場合です。

「議会のドン」は、議会における実質的な賛否の権限を掌握しているため、市長も「議会のドン」に従わざるを得なくなります。

そうなると、「議会のドン」は

  1. 市長の専権事項であるはずの「行政の人事」について、配置や昇給などの事実上の決定権を握る
  2. 重要議案を市長より早いタイミングで行政職員から説明を受け、必要に応じて議案を操作する

等の権力を持つにいたる場合もあります。

「2.」をもう少し具体的に説明すると、通常議案化しようとする案件がある場合、まず市役所の担当部署で練り上げ、部長決済がおりたものが市長に提出され、市長が了解したものが議案として議会に上程されます。

しかし、「議会のドン」は、重要案件について市長より前に部長や課長から相談を受け、「議会のドン」により操作をうけた内容で市長にあげられる案件が発生します。もちろん、「議会のドン」の目が通った案件は、市長は「触ることすらできず」議会に上程されることになります。

議会を知る者からすれば、それは完全なる異常事態なのですが、悪しき慣例のように行われる。そのため、市の職員は重要案件がある議会の前には足しげく「議会のドン」の家に通うことになるのです。

また、そのようにして「議会のドン」のために働いた職員は必ず出世できますから、市の職員はますます市長を軽んじることになります。

次回は最終稿です。