人びとは脱炭素の費用対効果を考えているのか?:『脱炭素化は地球を救うか』

地球温暖化が進行しているのは事実だが、それが本当に「人間の活動」によるものか、また温暖化がどれだけ「悪いこと」なのかという疑問が残っている。科学的データもそれらの影響を明言していない。

いま最も必要なのは、温暖化問題をイデオロギーや感情論で論じるのではなく、現実的な対応策を考えることだ。

池田信夫著『脱炭素化は地球を救うか』では、現在は「気候危機」に直面しているのか、仮にそれがしんこうしていたとして影響はどれだけあるのかという総論から始まり、脱炭素化に関する費用対効果の問題がとてもわかりやすく論じられている。特に、気候変動対策が各国の経済に与える影響や、その政策の実効性について批判的に検討している点が、他の理想主義的な脱炭素化推進論と一線を画している。

脱炭素化にかかるコストは現時点ですら甚大なものとなっている。ノーベル経済学賞受賞者であるウィリアム・ノードハウスが提唱するモデルによれば、2100年までに2.6°Cの気温上昇を抑制することが最も経済的に合理的であり、現状の1.5°C目標や2050年ネットゼロの目標は過剰であり、コストがかかり過ぎると指摘している。

2050年のネットゼロ目標を達成するためには、2030年までにCO2排出量を大幅に削減する必要がある。そのためには再生可能エネルギーの設備容量を現在の約3倍に拡大する必要があるとされている。しかし、IEA(国際エネルギー機関)によれば、この目標を達成するために、毎年4.5兆ドルもの巨額の投資が必要だという。これは世界のGDPの約5%に相当する。このような莫大な費用をかけても、1.5°Cの温暖化抑制目標を達成する効果は限定的である。驚くべきことに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は費用対効果にはまったく言及していない。

また、日本におけるCO2削減のコストが非常に高いことも問題視している。日本ではCO2排出を1トン削減するのに378ドルもの費用がかかり、これは世界でも最高水準の負担となってしまう。一方、多くの途上国では1トンあたりの削減費用が1ドル以下であるため、日本がCO2を削減するよりも、途上国に対して削減技術を支援する方がはるかに効率的であるのは明らかだ。

有象無象の施策の中では「炭素税」が比較的有力であるが、その「炭素税」にしても、炭素税が国際競争力に与える影響や、政治的な実行可能性についての懸念が大きい。「環境先進国」スイスでさえ、その大きな負担のために2050年ネットゼロを目指す「二酸化炭素法」が国民投票で否決されている。

一方、気候工学(ジオエンジニアリング)として提案されている成層圏エアロゾル注入(SAI)についても触れている。SAIは、飛行機を使って成層圏にエアロゾルを散布し、太陽光を遮断して地表の気温を下げる方法であり、火山の噴火によって気温が一時的に下がる現象を模倣している。この手法は緊急時に迅速に効果を発揮できるとされ、そのコストは脱炭素化に比べて非常に低く、効果も確実であるため、より合理的な選択肢のひとつとなる。このように人間の快適な生活を維持できればいいわけで、選択肢は多様にあるわけで、CO2にこだわる必要はない。

脱炭素は、経済発展を通じて環境問題に対処する方が現実的で、とくに途上国に対しては、ODAなどで経済的な発展を支援することで、環境問題への対応を促進することが望ましい。

本書『脱炭素化は地球を救うか』は、脱炭素化に関する技術や提言――ESG投資、電気自動車、再生可能エネルギー、電力自由化、原子力など――の有用性の是非や費用対効果を多角的な視点から分析し、気候変動対策の課題とその解決策について冷静な筆致で論じている。

序章 地球は「気候危機」なのか
第1章 人間は地球に住めなくなるのか
第2章 「グリーン成長」は幻想である
第3章 環境社会主義の脅威
第4章 電気自動車は 「革命」 か
第5章 再生可能エネルギーは主役になれない
第6章 電力自由化の失敗
第7章 原子力は最強の脱炭素エネルギー
第8章 脱炭素化の費用対効果
終章 環境社会主義の終わり

EyeEm Mobile GmbH/iStock