五輪後の日仏関係 --- 半場 憲二

東日本大震災以降、環境省は、「原発事故後の廃棄物が多すぎて処理できない」という理由から、基準を緩和し、放射性濃度の低いものは、全国の公共工事などで使用する方針を示しました。高度成長期に建設された公共の建物は修繕や改築をしてもなお、建て替える時期にあります。これから公共施設等の大量更新があり、全国的な使用拡大が見込まれます。

前もって言えば、私は反原発派ではありません。昔も今も、原子力発電の存在を否定していません。経済産業省の推計によれば、原発を稼働停止すると日本の電気料金は20%上昇し、ピーク時間に10%程度の電力不足が発生する可能性があるといわれています。そうなれば経済を回すどころではなく、製造業や医療現場をはじめ、私たちの生活は大混乱です。

原子力発電や放射線は、利用の仕方と使用の頻度さえ間違わなければ、人類に貢献するものです。ところが、原子力発電の恩恵にあずかり、この夏も涼しく快適な生活をしながら、政治運動体として反原発論者だという人が少なくないのが現状です。CO2削減が急務です。

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さて、オリンピック・パラリンピック終了後の日仏関係について想像しています。

フランスのマクロン大統領が「国内で稼働している原子炉58基のうち14基を2035年までに閉鎖する」と発表したのは2018年11月でした。しかし、世界的なCO2の削減が言われ、異常気象の不安やガス電気料金の高騰への不満から、大統領選挙前の2021年、脱炭素の切り札として「欧州加圧水型炉」を複数新設する方針に転じました。高出力、安全性、経済性、環境への負荷が少ないという理由で、フランス以外でも推進されています。

オリンピック・パラリンピックがおわり、日本の自民党総裁選も終われば、日本とフランスの二国間の新たな関係もはじまります。というのは、在日フランス大使館のホームページにあるように、両国は「日仏協力のロードマップ(2023年-2027年)」を採択しているのです。

とりわけ、「新技術、宇宙、防衛、民生原子力、高等教育、文化など、あらゆる分野で交流を強化するとともに、国際危機ならびに気候変動との闘いや生物多様性の保全をはじめとする地球規模課題に緊密に連携して取り組むことを目的とします。フランスはサプライチェーンの安全性という共通の課題に対応するため、日仏企業間の連携を加速させる」といいます。

確認しますが、すでに動いている「日仏企業間の連携を加速させる」そうなのです。フランスの多国籍企業ヴァオリア・エンバイロメントの水処理事業部門ヴァオリア・ウォーターは66の国で水事業を展開しています。2002年に日本法人を設立し、日本政府への働きかけが功を奏し、規制緩和会議に社員を送ることに成功します。

2018年12月に水道法が改正されました。表向きは、「水道施設の老朽化、深刻化する人材不足等の水道の直面する課題に対応し、水道の基盤強化を図る」とありますが、水道運営権を企業が買えるようになりました。

非常時や大規模災害が発生したときは「自治体の責任」となります。同年の西日本豪雨では風呂に入れず、トイレを流せず、水も飲めません。水なしでは生きられないと多くの国民が泣きを見ましたが、この場合、企業に一切の責任はないのです。海外企業がわたしたちの生活と直結している水道を管理することが懸念されています。

民間企業の出番に異を唱えるものではありません。ただ、ヴァオリア・エンバイロメントは2016年にアメリカの放射性廃棄物処理会社「キュリオン(kurion)」を買収し、日本の子会社が福島第一で技術的に関与しています。

水でも放射性廃棄物でもそうですが、海外企業が日夜管理運営するものを、緊急時に遅滞なく国や自治体の責任で稼働させるにはコミュニケーション・ギャップは許されません。ヴァオリア・エンバイロメントは2021年に同業2位だった「スエズ」を買収し、世界最大の水処理・核廃棄物ビジネス企業となりました。

今では岸田首相の置き土産となった「日仏協力のロードマップ」ですが、それ以前の2020年10月、菅義偉前首相が2050年にカーボンニュートラルを実現すると公言しており、日本は脱炭素にむけた動きを確かに加速してきているのです。

生首での演出、汚れすぎる川、粗雑な選手村、メダルの劣化、誤審の数々・・・。こう揶揄もされるなか7月31日、男子柔道90キロ級、村尾選手VSラシャベカウリの決勝戦のとき。

日本の柔道とフランスのJUDOは違うという。今や「JUDO人口を誇るフランスが本場だ」ともいわれています。本家の日本は伝統や技術の継承とは程遠いフランスJUDOに負けました。世界が注目するなかフランスが有利な審判を仰ぐことを厭わなかったのです。それが国際舞台の現実でした。日本は「ルールが世界共通ではない」ことを学びました。

世界は主張するだけでなく、ルールを都合よく解釈します。フランス芸術界・音楽界のジャポニズムにみられるように、異文化を受け入れる器量をもちながら、柔らの道より、何が何でも勝つ道を選びました。その時、日本の柔道界にどれだけの味方がいたでしょうか。

そうこう考えていると、やはり心配になってきます。フランスが日本に近づいてくるときは前進しない日本の原子力政策・核燃料サイクルを逆手にとり、自国の新旧原発から発生した放射性廃棄物を「規制の緩い日本」「全国の公共工事などで使用」する可能性も否定できません。

日本が無為に過ごし、フランスの主張に押され続けていけば、あれもこれもフランス企業が陣取り、日本の国土が廃棄物だらけに。五輪後の日仏関係にも注意が必要です。

【参考】

環境省放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト
日本原子力産業協会
・堤未果『「平和な国」日本の裏側』(経営科学出版、2024年)

半場 憲二(はんば けんじ)
メンタル心理ヘルスカウンセラー 福祉心理カウンセラー 日本語教師