企業版ふるさと納税は官製談合を誘発する

福島県国見町が官製談合疑惑で揺れている。「企業版ふるさと納税」が関連しているという。

ふるさと納税を巡っては、今年に入って、佐賀県神埼市発注のふるさと納税事業の業務委託の入札に際して、前市長が秘密情報を特定の企業に漏洩したとして入札妨害などの罪で立件されたが、国見町のケースはそうではない。町に寄付した企業のグループ会社が、その寄付金を利用した事業の(再委託)業者となるという「還流問題」だ。

問題となったのは、同町が手がけた救急車の研究開発事業である(詳細は下記同町百条委員会報告書を参照のこと)。4億を超える事業費は、匿名の3社が企業版ふるさと納税の手続きを使って町に寄付した金銭が原資となっている。ここまでならばその同町の事業としての是非はともかく、制度の趣旨に沿ったものだ。

町が立ち上げた「官民共創コンソーシアム」が救急車の開発事業を立案した。その事務局は宮城県のある食品会社だったが、この開発事業の実施主体を町が公募したところ同社だけの応募となった。同社は開発事業を東京の業者に発注するが、その業者は寄付した3社のグループ会社だったという。その事業の発注に当たって町が定めた救急車の納期は契約の4ヶ月後と短く、町作成の仕様書も寸法等においてこの業者に有利となるような特殊なものになっていたとされる。

要するに、疑惑のポイントは、この一連の契約過程が当初から寄付者への資金の還流を意図したものであり、契約者選定手続きが恣意的に歪められたのではないか、ということにある。

町議会はこの一連の発注手続きに重大な問題があるとして、調査特別委員会(百条委員会)を立ち上げ、7月に報告書を作成した。

その結論は、(1)幅広く企業参加を求めた公募型プロポーザルの体裁をとっているが、特定の業者しか事実上でき得ない仕組みになっている、(2)入札に見せかけた随意契約であったと考えるのが相当、(3)公平公正な入札であったとの評価判断をすることはできないという、町の契約手続きの歪みを断罪するものであった。

2024年8月28日配信の「日経グローカル」WEB記事で日本経済新聞編集委員の谷隆徳氏は「寄付企業がその自治体の事業を受注することを規制するかどうか」を論点の一つとして挙げつつ、「禁止すればすっきりするが、将来的な事業活動を制約するので、寄付額が落ち込むのは避けられない。ただし、寄付する際に使い道を細かく指定することは見直すべきではないか。」と指摘している(「福島県国見町にみる「企業版ふるさと納税」の課題」)。

例えば、スポーツ用品メーカーが「スポーツによる健康づくり」を求めることは許容範囲だろうが、自社が競争力をもつ特定のスポーツ用品の購入に使い道を制限した場合、寄付金の還流を期待していると誤解されかねない。(同氏)

本件の場合、上記寄附の目的は「災害・救急車両の研究開発・製造を通じた地域の防災力向上に向けた取り組みに関すること」と指定されていた。これを原資に救急車両の研究開発事業が組まれ、上記業者に発注されたというのであれば、結果論でいえば特定され過ぎていた、ということになる。

この問題を巡る事実関係は上記百条委員会報告書を参照頂きたいが、ここで自治体の契約問題を長く観察してきた立場として、以下の2点を指摘しておきたい。

第一に、自治体が事業を推進するとき、特に国肝いりの補助事業に見られるような、その自治体の規模に比して高額な事業を展開しようとするとき、特定の民間業者が「業務提携」と称してその企画段階から関与し、その支出の段階において、その業者あるいはその関連業者が契約の相手方なりその委託先となる(なろうとする)ケースは少なくない、ということだ。首長やその関係者に「売り込む」コンサルタントのような人物がお膳立てをして、具体化した段階でその仲間たちを引き連れてくるというケースも見聞きする。

もちろん、(手続きの公正さが担保されている限りでは)それ自体は行政としてもビジネスとしても許容されるべきことではある。住民の利益になるものであるならば、自治体も業者もwin-winの関係になるのであるから、これを否定する理由はない。ただ、企業版ふるさと納税制度の出口としてこのようなビジネス展開とリンクさせることが妥当かどうかは別問題である。

第二に、公共契約を通じて事業が実施されるのであれば、その手続きは公正になされなければならない、ということである。国見町のケースは「入札」という言葉も報告書では用いられているが、公募型プロポーザルということなので法形式上は随意契約になるだろう。

いずれにしてもその手続きが情報の漏洩、恣意的な仕様設定や競争参加条件の設定など、競争を歪める形でなされているのであれば法的に問題になる。自治体が直接締結している契約なのであれば、刑法上の公契約関係競売入札妨害罪、あるいは官製談合防止法違反に問われかねない。随意契約であっても契約者選定過程に競争的要素があるのであればこれらの法律は適用され得る(筆者が本サイトに寄稿した「随意契約でも入札妨害?」参照)。

ただ特命随意契約が結ばれた場合には、その射程外に置かれてしまう。事業計画の前に締結された業務提携等を理由に「供給源の唯一性」を理由とした随意契約の判断がなされるかもしれない。そういった「出来レース」のケースには注意が必要である。

このような問題が生じるのは、企業版ふるさと納税制度においては、寄付者である業者と自治体の両方にとって「お金が増える」というインセンティブが発生するからである。自治体からすれば仮に寄付金が寄付者に還元されたとしてもトータルでは構わない。業者からすれば寄附制度を利用した以上のメリットがある。ただポイントは還元が実現する(確実にする)手続上のコミットメントである。それが契約者選定の公正さを害する形で行われ得る点が、問題なのである。

寄付金も公金である。寄付業者に対して自治体が補助金を支給するような見返りを禁止しているが、公共契約の受注者になることは禁止されていない。ただ、契約を通じる以上、地方自治法の手続きに則さなければならない。競争を歪めればその手続きに反することになる。

一連の事業展開や発注業務に関わった関係者は不正の存在を否定している。今後、この問題がどのような展開を見せるのか、注目したい。