黒坂岳央です。
サラリーマン同士、どうしても気になるのが「この人はどのくらい年収があるのだろう?」ではないだろうか。だが「この人はどんな資産状況なのだろう?」とは思うことは多くない。
その一方で、きれいに真逆なのが経営者だ。経営者の場合は相手の年収より、資産状況を気にする傾向にある。
自分自身、両方の立場を経験済でこの違いをよく理解できるつもりだ。両者の真逆の傾向を取り上げたい。
サラリーマンは年収が気になる
なぜサラリーマンは年収を気にするのか?この理由は2つある。
1つ目はサラリーマンの場合、その人の力量はかなりの程度が年収に反映されるためだ。利益率の高い業界を選び出し、東京圏内で働き、その中で高値で買い取ってもらえるスキルを有し、そして勤務先で高収入につながる役職を獲得し、40代以降はマネジメント職でキャリアアップをする。これより、高収入を獲得できる。
あらゆる職業の違いはあれど、会社経営における構造はかなり似通っているため、ビジネスの共通語の一つが「年収」なのである。高収入を獲得できるのは、すなわちこうしたビジネス感覚を持っている人物というシグナリングとして機能する。転職の際にも前職での年収を参考にされるし、男性の婚活においても年収は最大級の考慮パラメータであることは疑いようもない。
そしてもう2つ目の理由は、年収がほぼ完全に近い状態で可視化されているためだ。今どき勤務先名や業務内容、役職がわかれば、検索すればほぼ正確にその人の年収がわかってしまう。「自分より上か?下か?」を気にする人は多いし、時に「あの人、えらそうな割に安月給なんだよね」といったゴシップ消費されてしまうこともある。
以上の理由からサラリーマンは年収を非常に意識するのは、ある意味で当然の環境に身をおいているのだ。
社長は年収を気にしない
翻って経営者はサラリーマンほど年収を意識しない。もちろん、全員ではないし、高額な収入を取っている人は明確に優秀である。だが、サラリーマンと比べて、その比率は明確に落ちる。もちろん、自分自身も年収は全然気にならない。より正確にいえば「あまり当てにならない」と考えている。ここからはその理由を取り上げたい。
まず、経営者は年収を自由にコントロールできる。「利益=給料」に近い人もいれば、高額な利益を出しながら驚くほど低い給料に設定している人もいる。後者の場合、税金を意識していて、たとえば退職金として多く受け取ることで計画的な節税対策にしたり、家族への所得分散目的で資産管理会社を使うために自身への給与コントロールをする社長もいる。自分の年収は安くても、法人にプールする利益を含めれば実際にはお金持ちである。でもその事情は外野からは全く見えず、ブラックボックスである。
加えてサラリーマンは税引き後にお金を使えるが、社長は税引前に経費でお金を使った後に報酬を受け取る。そのため、年収が同じでも使える金額が社長とサラリーマンとでは全く異なる。極端なことをいえば、年収が安い社長が社有車のレクサスやベンツに乗り、社宅マンションに住んで豊かな生活をしているケースなんていくらでもある。
社長は途中からR>Gの世界へいく
ビジネスと資産運用を両方頑張っている社長が直面する現実が、気がつけば「R>G」の世界に身をおいているということだ。これは一体、どういうことか?
エイベックスの松浦氏はメディア記事の中で「社長時代に最も稼げたのは、一流アーティストをプロデュースしたことより、本社ビル売却という資産運用」だという。その額、驚きの300-400億円というからケタが違う。
規模感は違えど、こうした話はまったくめずらしくない。ビジネスで年収3000万、5000万を稼ぐ人も、所有する資産価格の高騰でその10倍、20倍で利益確定するというものだ。資産運用の場合、市況や運が強く影響するので、どこまでその人の実力の範疇に含めるかは判断が難しい。だが、ビジネスは途中から稼げなくなって失速する人が大多数の中、資産運用は現実で統計的に期待値が高い長期投資をすれば、いつの日か「R>G」の世界へお迎えがやってくることは期待できる。一生分、いや二生分、三生分もの資産があれば、もう年収の本来の意味が薄まり、お飾り程度でしかなくなってしまう。
こうなると年収がいくら?ということは自分の生活レベルにほとんど影響しない。そのため、社長によっては高級時計や絵画をコレクションする趣味を作り、半ば強制的に稼ぎ続ける理由を持つ人もいるくらいである。そうしないとビジネスを頑張るモチベーションが保てない!という話だ。しかし、皮肉なことに結局はそうしたお買い物も、資産価値が高いものばかり買っているので、価格高騰の恩恵を受けて「投資」で稼いでしまうのだ。
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たまに「あの社長は意外にも年収が低かった」といったゴシップがあるが、それを見るたびにナンセンスだと感じる。外野からは本人の意図や事情は何1つわからないのだ。
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