「余計なこと」をしない重要性

黒坂岳央です。

ビジネスをする上で最も重要なのは「信用」である。やっかいなことに信用というものは積み上げるのは数年、数十年かかるのに対して、失う時は一瞬という非対称性を持つ。

往々にしてビジネスにおける信用は、自ら「余計なこと」をして自滅しているパターンがほとんどだと感じる。自分自身への戒めも込めて取り上げたい。

gerenme/iStock

顧客が求めていないことをしない

仕事をする上で絶対にやってはいけないこと、それは「顧客が求めていないこと」をやってしまうことだ。その逆に求められることだけを徹底することで、人も仕事もドンドン集まってくる。

自分はYouTube動画発信をしている立場であり、同時にITやビジネスなどの知識、技術を学ぶためにYouTube動画を見ている立場でもある。他のチャンネルから着想を得たりすることもあり、専業視聴者よりさらに細かい点に気がついてしまう。

そんな自分が時々見かけるのは、最初は勢いがあってチャンネル登録者が5万、10万人に達してどの動画もアベレージで数万再生を叩き出していたのに、突然失速して今はどんな動画を出してもほとんど見られなくなってしまうというチャンネルだ。

興味を持ってあれこれ調べていく内に、こうしたチャンネルにはある共通点があることに気づく。それは「途中から余計なことをやりだした」ということだ。

具体的なチャンネル名は出さないが、一時期、破竹の勢いで人気インフルエンサーになった経営者向けのビジネスチャンネルがある。最初は企業経営に関する理論や技術を出していたチャンネルで、視聴者の多くが経営者で盛り上がっていた。しかし、途中から歌や雑談といった動画投稿が続いたことで今は100回前後の再生になってしまった。最盛期から登録者も数万人も減ってしまっている。正直、こうなってしまうともうそのチャンネルの発展性は絶望的であり、新たにゼロからチャンネルを作り直した方がいいだろう。

もっと身近な話もある。自分が気に入って通い詰めていた隠れ家的な小規模の料理店がある。料理はおいしく店長さんも気さくでとても素晴らしい店だった。しかし、ある時から「実はあまり大きな声ではいえませんが…」と前置きをして、店長さんは自分が来店するたびに陰謀論やオカルト話ばかりするようになったのだ。最初は相手に合わせていたが、話をされるのが苦痛に感じてもうその店へ行くのをやめてしまった。

ビジネスは「ありのままの自分」「自分のやりたいこと」を無編集でそのまま出してはいけない。もちろん、自分の流儀や生き方が顧客に支持されるならその部分に限定して出しても構わないだろう。しかし、独りよがりになると一瞬で人は離れてしまうのだ。

「余計な一言」の恐ろしさ

今の世の中は一億総ジャーナリスト社会であり、誰もがカメラやマイク付きのスマホを持っている。それ故に、好ましくない言動をするとたった一発で長年の人間関係も終わらせてしまう怖さがある。

仕事の現場でよく聞く話が、聞きかじった知識をさも正しいかのように出してしまうものである。具体例を出そう。ITソリューションシステムを販売する営業マンが「弊社のサービスで無駄な在庫を大幅に削減できます。今の製造業の在庫管理は時代遅れ、もっと効率的にやるべき」という趣旨の発言をしてしまった。だが、これが相手の社長の癇に障ったのだ。一体、何が問題だったか?

営業を受けていた社長側は製造プロセスの最適化において在庫管理が極めて重要であり、独自の方法で非常に効率よく運用してきた実績がある。そこを考慮せず、「今どき在庫管理は時代遅れ」と全体論的な浅い意見を軽はずみに見せてしまったことが「何もわかってない素人がえらそうに」と社長の逆鱗に触れたという話だ。

営業マンはITシステムは専門家だが、製造業における在庫管理は門外漢、相手の社長を尊重する意識が欠落していたのだ。自分より詳しい専門家を相手にする時は、本当に発言に気をつけるべきだ。「この人は浅知恵で顧客を丸め込み、商品を買わせようとする不誠実なビジネスマンだ」と判断されて一発退場になってしまう。

また、SNSでもたびたび炎上するのが「余計な一言」である。本業の仕事のことだけを発信していれば問題なかったのに、「世の中に物申す!」から炎上、デジタルタトゥーになってビジネスマンとして再起不能になってしまう。

「有益なこと」をする以上に、「余計なことをしない」方がはるかに重要度が高い。ビジネスは無理に画期的なイノベーションを連発しなくても、長期間、誠実に続けるだけでも信用を蓄積できる。大事なのは長年蓄積した信用を自分で潰してしまわないことである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。