海自のミサイル潜水艦導入は画餅

海自の潜水艦が大進化!? 「海中からミサイル垂直発射」実現へ 防衛省が研究本格化

海自の潜水艦が大進化!? 「海中からミサイル垂直発射」実現へ 防衛省が研究本格化(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース
 防衛省は2024年8月30日、来年度予算の概算要求を公表。その中で、潜水艦に搭載可能な「垂直誘導弾発射システム」(VLS)の研究を本格化させる方針を明らかにし、イメージも公開しました。  日本政

日本政府は、2022年12月に発表した「防衛力整備計画」に、垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載した潜水艦を開発することを盛り込んでいます。

防衛省は来年度予算の概算要求に、「水中発射型垂直発射装置の研究」として300億円を計上。発射プラットフォームのさらなる多様化や水中優勢獲得に向け、研究を進める方針を示しています。今後、2025年度から研究に着手し、2029年度までに成果を検証するとしています。

次期潜水艦をめぐっては、既に防衛装備庁がVLSの搭載を視野に入れた構造様式について研究を行っています。また、次期新型潜水艦の船型開発検討作業を防衛省から受注している川崎重工も、2023年12月に次期潜水艦の「コンセプト案」を明らかにしています。

以前からぼくは、抑止力の観点からSLBMを発射できるミサイル潜水艦の装備化を提唱してきました。それはその先に核弾頭の装備というオプションが見えてくるからです。

現在のリチウムイオン電池を搭載した潜水艦ならば、以前の通常動力潜水艦よりは長期にわたって潜水活動が可能です。

無論我が国が核武装をすることはないでしょうが、周辺諸国にその気になればできる、ということを匂わせるという意味では、ミサイル潜水艦は政治的にも意味のある存在でしょう。

ですが、それも画餅でしょう。防衛省と海幕にその能力がないからです。

海上自衛隊 潜水艦隊 ウェブサイトより

まず、そもそも人員が少ないのに安倍政権が16隻の潜水艦を22隻に増やした。で、クルーの確保はどうなっているのでしょう。イージス艦ですら6割しか定員を満たしていないのですから、優先しても9割を超えることは難しいでしょう。何しろ適性持った隊員が少ない。

しかも隻数を増やしても他国のように特殊部隊の輸送に使うなどの用途は無視されています。

仮にミサイル潜水艦を導入するとして、既存の22隻体制をどうするのか? そんな話は全く見えてきません。

ぼくは沿岸用の小型の潜水艦の導入をすべきだと思います。つまり海自潜水艦のポートフォリオを見直さないといない。これまでの海幕の潜水艦巨大化路線を見直す必要がある。

しかも海幕にはウリナラファンタジーがあります。海自の潜水艦能力は通常潜水艦で世界一とかいう根拠のない自信です。それを信じ込んでいる。

月刊軍事研究8月号に文谷数重氏の「海自潜水艦はどこまで大型化するのか」という記事が掲載されています。

1970年代の後半以降、日本国内においては「開示潜水艦は世界一静かである」と言われていた。だめだ。ただ、それは当時の日本技術への過度な評価の影響でしかない。実際には開示潜水艦の静粛性は高くないと評価されていた。自艦振動推定機材の導入や、音響環境防止スタイル等の導入でも遅れていた。

これはソナーやシステムでもそうです。官民ともに海外の動向に興味がなく、身内で俺達スゲーとやってきたからです。

オーストラリアへの輸出失敗の原因の一つはこれですが、その現実を見ようともしない。ソナーやシステムの向上のために沖電気とNECの事業統合、その他の電機メーカーの事業統合もしないと無理でしょう。ですが官民ともにやる気がありません。

文谷氏は大型化には理解を示していますが、小型潜水艦の併用の必要性を謳っています。

この規模(6000トンクラスより大型の潜水艦)の潜水艦は東正面では使いにくい。大陸周辺部の水域は浅く、中国側の警戒も厳しいため、運動性が限定され、探知性能で不利な大型潜水艦は向かない。それからすれば、大型潜水艦を整備する際には、小型潜水艦を併用する話も出てくるだろう。
東シナ海でのゲール・デ・クルース用途、例えば敵軍港正面での待ち伏せや琉球列島戦の通過防止に特化した潜水艦である。

ぶっちゃけた話、今後数十年先まで潜水艦クルー確保をどうするのか。これは少子高齢化もあって厳しいものがあります。現在の22隻体制の維持は不可能でしょう。

更に申せば、苛烈な潜水艦勤務の実態を緩和するためには水上艦以上にクルー制の導入は不可欠です。ですが、クルー制を導入するためにはより多くの人員の確保が必要です。これができないから、本来クルー制を導入して3隻あたり4組のクルーで回すことを予定していたのにできなった。ましてや1隻2クルーは無理でしょう。

結論をいえば潜水艦隊の縮小は不可避です。そしてミサイル潜水艦を導入するのならば、沿海用の小型潜水艦も必要です。これらは乗員数も少なくて済む。

そこから潜水艦のポートフォリオを考える必要があります。

【本日の市ヶ谷の噂】
空自入間病院の自衛隊入間病院長加藤圭空将補は全く診療しない、との噂。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態

月刊軍事研究8月号に防衛省、自衛隊に航空医学の専門医がいないことを書きました。
軍事研究 2024年 8 月号 


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。