牛角の女性割引に疑問の声、アメリカでは既に「違法」 --- 國武 悠人

大手焼き肉チェーン「牛角」(運営:株式会社レインズインターナショナル)が実施を告知した「食べ放題が女性限定で半額」のキャンペーンが「性差別」ではないかという疑問の声が上がっている。

レディースデーなどが日本社会で存在している中、なぜ今回のキャンペーンに疑問の声が寄せられることになったのかの論考については、以下の記事が詳しい。

【SNS発】牛角の”女性半額”キャンペーンは「性差別」? 男性たちから批判が相次いだワケ

本稿では、性別によって価格差を設けることに関して議論を深めるため、アメリカの事例を紹介したい。

FotografiaBasica/iStock

アメリカでは既に「違法」

アメリカにおける女性限定割引の実態を明らかにするため、カリフォルニア州のUnruh公民権法(カリフォルニア州民法第51条)を紹介する。この法律は、カリフォルニア州管轄区域内のすべての事業者に対して、人種や宗教、性別、性的指向などを理由とした差別を行うことを禁止している。

All persons within the jurisdiction of this state are free and equal, and no matter what their sex, race, color, religion, ancestry, national origin, disability, medical condition, genetic information, marital status, or sexual orientation are entitled to the full and equal accommodations, advantages, facilities, privileges, or services in all business establishments of every kind whatsoever.

Unruh Civil Rights Act

そうはいっても、女性限定割引が法律で定められる「差別」に該当するかは議論があるのでは?と考える読者も多いだろう。しかし、その点も判例で明確化されている。

Koire v. Metro Car Wash(1985)を紹介したい。

この事件において、原告である男性は、「レディースデー」に洗車場やナイトクラブに訪れ、女性割引の恩恵を受けられなかったことを理由に、Unruh公民権法違反だとして事業者を訴えた。

事業者の主張は、性別に基づく価格割引は法律に定められる差別には当たらないとするものである。しかし、裁判所は性別による価格差は、有害な固定観念を強化するため、一般的には男性と女性の両方に悪影響を及ぼす可能性がある、と厳しい指摘を行った。被告が差別的な意図を持って割引を行ったかどうかは関係なく、性別による価格差が有害な固定観念を強化する性格を帯びている以上、許容されないとも釘をさしている。

さらに、ナイトクラブは、女性の収入が男性より低い傾向があるために行った「救済措置」であるとの正当化も行ったが、裁判所は、経営上の利益のために行った割引行為に過ぎないと判断し、また、Marina Point, Ltd. v. Wolfson において示された「『経営上の利益のため』は差別を正当化する理由にならない」との判決を引用することで、私企業の販促行為だから違法ではないという事業者の主張も退けた。

代表的な州であるカリフォルニア州の事例を紹介したものの、ニューヨーク州や、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州などにおいても、性別を理由とした価格差を禁止する同様の規定が見られる。

グローバルコンプライアンスに反する可能性

さて、話を日本に戻そう。牛角は「食べ放題での注文量が、女性は男性に比べて肉4皿分少ないといった背景からスタートした」と企画の背景を述べているが、経営上の利益は差別を正当化する理由にはならない。アメリカの事例に当てはめれば、「差別」であるといえるだろう。

牛角は、国際展開されており、アメリカにおいては、カリフォルニア州やニューヨーク州、ペンシルベニア州など15を超える州に約50店舗を展開するなど、人気ブランドを確立している。それだけに、今回の女性限定割引には驚きを隠せない。

人権尊重が求められるグローバルチェーンが、自社ブランドを展開するアメリカにおいては差別として違法である「女性限定割引」という極めて重大なコンプライアンス違反を行ってしまった事実は、牛角の国際的なブランドに傷を付ける大失態とも言えるのではないだろうか。なお、本件について運営会社に見解を求めたが、期日までに回答を得られなかった。

牛角が女性限定割引を再考し、グローバル基準のコンプライアンス意識を持つことに期待したい。

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【参考文献】
L.A. No. 32052. Supreme Court of California. October 17, 1985.
L.A. No. 31199. Supreme Court of California. February 8, 1982.
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國武 悠人
慶應義塾大学在学。消費者庁 令和6年度消費者支援功労者(内閣府特命担当大臣表彰)。統計報告調整審議会や情報公開制度運営審議会、男女共同参画推進委員会など行政附属機関で委員。認知科学、法社会学が専門。