英国アマゾンと従業員のバトル:労組承認、実現せず

私たちの生活に欠かせなくなったのが、ネット通販大手のアマゾンです。クリック一つで、あらゆるものが買える便利なサービスを筆者も長年利用してきました。

以前は書籍を中心に買っていたのですが、2020年以降、新型コロナの発生で自宅待機が義務化されると、食物やそのほかの日用品の注文にもアマゾンを定期的に活用するようになりました。動画視聴でも、アマゾン・プライム・ビデオは選択肢の一つです。今ではアマゾンを使ったことがない人の方が珍しいですよね。

当日配達も含む便利なサービスの裏には、配送センターに積まれた巨大な数の商品を超速で運ぶことを求められる従業員の過酷な労働環境がありました。

これまで、アマゾンは労働組合の結成に対して否定的な態度を示してきました。労組とは、労働者が団結して労働条件の改善を図るための組織です。

アマゾンの従業員は本社がある米国では100万人を超えますが、長い間、労組が結成されてきませんでした。アマゾンは「労組つぶし」を指南するコンサルタントを雇い、巨額の資金を費やして労組結成を阻んできたといわれています。

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米国では

2022年4月、米ニューヨーク市スタテン島の集配所の労働者が労働組合を結成するための投票を行い、アマゾン初の労組(アマゾン労働組合=ALU)を結成したものの、労働条件改善のための契約締結に向けて、いまだにアマゾン側と同意ができていないのが現状です。

英国では

英国では約7万5000人がアマゾンで働いているそうです。

労働環境の改善に向けて立ち上がったのは、英中部コヴェントリーの配送センターで働く約3000人の従業員です。昨年来、10パーセント超のインフレが発生し、英国に住む人は苦しい状況に追い込まれました。

コヴェントリーの従業員たちは公共および民間企業の正規・非正規の労働者約50万人を組織する「GMBユニオン」に加わり、賃金上昇を求めて大規模なストを決行してきました。労組結成には、政府機関の中央仲裁委員会(CAC)の承認が必要となりますが、条件の一つは労働者の50パーセント以上が組合員であることでした。

GMBユニオンによると、アマゾンは多くの労働者を新規に採用することで、「50パーセント以上」が容易に達成できないようにしたそうです。妨害行為ともいえるでしょう。6月18日、労組承認の申請に対し、CACは従業員による投票を求めました。

7月8日、投票が始まりました。

労組結成のためには、結成の賛成票が投票数の過半数で、かつ全従業員の40パーセント以上であることなどの必須事項がありますが、これらを満たして結成が実現すれば、英国初のアマゾン公認の労組になるのです。

アマゾン社は労働条件について労働組合ではなく、従業員個人と直接交渉する立場を取ってきました。

BBCの取材に対し、広報担当者は「従業員には労組に参加するかどうかを決める選択肢がある」とし、賃金についても定期的に見直していると述べています。

また、「最低賃金は時給12.30ポンド(約2500円)から13ポンドに上昇し、これは過去2年では20パーセントの上昇、2018年時点からは50パーセントの上昇だ」と説明。「手当ては厚く、前向きな職場環境や素晴らしいキャリアの機会が与えられている」とも言っています(ちなみに、「時給2500円」と聞いて、日本に住む方は驚かれるかもしれませんが、英国はとても物価が高いのです)。

6月末、米アマゾンの時価総額は2兆ドル(約320兆円)を超えたことが発表されました。世界6社目の2兆ドル企業の仲間入りです。創業者ジェフ・ベゾスの資産は約2010億ドルにも上るといわれています。

便利なサービスを提供するアマゾンですが、労組という形での団体交渉を容易に認めないのであれば、従業員の労働条件の改善に消極的な印象を与えます。

投票の結果、どうなった?

7月17日、投票の結果が出ました。

アマゾン従業員の49.5パーセントが労組結成に賛成票を投じたのですが、50.5パーセントは反対に。

英アマゾン社は声明文で従業員と「直接話し合うことに大きな価値を置いている」、今後もこれを継続していきたいと述べています。

キーワード:Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)
米シアトルに本社を置く、電子通販大手。1993年、ヘッジファンドで働いていたジェフ・ベゾスがCadabra社として登記。翌年Amazonに改名し、95年、オンライン書店としてサービスを開始した。現在までに幅広い商品を扱う国際的な企業に成長。書籍以外の商品、クラウド・サービス、電子書籍、音楽や動画配信サービスなども手掛ける。2013年、ベゾスは個人資産を使って米「ワシントン・ポスト」紙を買収した。

(「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2024年9月2日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。