クビの専門家です。
「解雇規制緩和」と聞いて、もしかしたら「社長の一存で簡単にクビを切られる!」と心配している人がいるかもしれませんが、「解雇を受け入れる代わりに、労働者が金銭を受け取る『金銭解決制度』導入を検討」ってハナシですからね。解雇の金銭解決制度、私は大いに賛成です。
意外に思われるかもしれませんが、現在我が国では、解雇を金銭解決できる制度が存在しません。なので、会社から不当解雇された人が裁判で争う際には、いくら会社に愛想を尽かしていて復職したくなくても、「解雇は無効だから復職したい」と主張するしかないんですね。
会社側としても一旦解雇した人物を復職させる気はなく、解雇の撤回もしたくない。ではどうするかといえば、お互いにとってあまり意味のない「復職」をテーマに裁判し、その妥協点として「退職する代わりに解決金を獲得する」という方向に持っていくしかないんです。実に不毛ですよね。
「解雇の金銭解決」を制度として正式に導入できれば、そんなムダなやりとりをしなくても済みます。しかも、わざわざイチから制度構築する必要もありません。
理論上は、現行の労働契約法16条に追加で「解雇に際し、使用者が対象労働者の賃金○ヵ月分以上に相当する金銭を支払った際は、その解雇は客観的な合理性を有し、社会通念上相当であるとみなす」といった一文を入れるだけでいいんですから。
だいたい「日本は解雇規制が厳しい」なんて言われてますけど、これは「解雇を規制する法律がガチガチに固められていて、解雇したら即ペナルティが課せられる」といった意味じゃありません。「解雇自体はできるが、もしそれが裁判になった場合、解雇無効と判断されるケースが多いため、実質的には解雇が困難」という表現がより正確でしょう。
なので、裁判すれば労働者が有利なのは間違いないんですが、そもそも裁判するにも相当の弁護士費用と肉体的&精神的エネルギーが必要なので、まず裁判にまで至りません(ちなみに令和3年の1年間では、クビにまつわる労働局・労基署の相談件数が約3万3000件あったものの、そこから実際に裁判に至ったのは1000件程度です)。
しかも、裁判にはかなりの時間を要するので、結局判決にまで至らず、和解で終わることも多いです。
解雇の金銭解決制度を導入できれば、そこで要する余計な時間と、弁護士費用と、肉体的&精神的エネルギーを全部省略して、サッサと「解決金」に変えることができるので、実は労働者側にも企業側にもメリットのある制度なんですよね。
不当解雇裁判が減って食えなくなる一部の弁護士さんとかは大反対すると思いますけど。
(編集部より)この記事は、新田 龍@nittaryoのポストを、許可をいただいた上で転載いたしました。