エセホスピス:超高齢化社会の盲目的延命国家に湧いた悪い虫を駆除せよ

最近、訪問看護ステーションやそれ利用したホスピスを名乗る有料老人ホームやサ高住(介護サービス付き高齢者専用住宅)、さらに障害者グループホームのチェーンまで複数業者の不正請求が相次いで報道された、まさに不正炸裂阿鼻叫喚の様相である。

と書いて推敲していたら、さらにまた一つ、新進?のパーキンソン病専用と銘打ったホームが不正請求とまさに本日報道された。

介護保険以後、訪問看護ステーションは順調に増えたが、超高齢化による介護ニーズ増で競争原理淘汰が不十分になったのか、その質は雲泥のようである。看護師が開業できる好きなことやれると訪問看護経験も無く開業する例もあるようで、経営は素人、さしたる得意アドバンテージもなく行き詰まり、廃業や事業譲渡がじわじわ増えているようだ。

そこへ確信犯的悪徳企業が複数発生し不正請求や「ボッタクリ」、それは国民の血税を詐取し病者の弱みに付け込む犯罪まがいではないか。行政はしっかり取り締まるべきだ。訪問看護や在宅医療ケアは「密室の医療・ケア」である。それゆえ不正やハラスメントの温床にもなり得る。自ら律する規範意識、自浄作用が無いなら第三者監査や罰則、通報制度も必要だ。

Kayoko Hayashi/iStock

精神科専門訪問看護ステーションの実態

思い返すと数年前から時々、聞いたこともない会社が例えば横浜市全区に精神科専門訪問看護ステーションの求人を出していた。まるで無差別じゅうたん爆撃、しかし訪問看護ステーションが立ち上がったのはいくつだったか。しかも精神科専門とは精神科と在宅医療ともに経験ある人材がどれだけ居るか集められるか、まず疑問だった。

本来訪問看護ステーションは応召義務があり、原理的制度的に「専門」は有り得ない。ただし対応できない事情状況があれば受け入れないことは可能、例えば職員全員精神科しか経験が無いから他の科の患者は無理とか、がん専門看護師が居るから末期がん看取り歓迎、はあり得るが。

統合失調症は100人に1人発症すると言われる。長期一生入院が人権的に問題視される一方で、治療薬の進歩もあり、通院とデイケアや訪問看護により地域で療養治療し社会復帰を、というのがトレンドで訪問看護ニーズは増加傾向にある。

しかし精神科経験がある看護師は少ない、まして在宅、地域での看護つまり訪問看護経験がある精神科経験者がどれだけ集まるのか? 疑問懸念だった。そこに先頃、筆者が主催するSNS上の在宅医療訪問看護のコミュニティで実態暴露なコメントがあり、さらに続いての暴露報道だった。

訪問看護ステーションと訪問リハビリの現状

在宅医療、在宅ケアの歴史は振り返れば、制度を半ば悪用しての荒稼ぎ事業者と行政指導や報酬減算のいたちごっこだった。新分野が営利悪徳業者の草刈り場にされてきた、とも言える。

訪問看護ステーションは訪問リハビリを包含しているが、それを逆手に取って理学療法士や作業療法士が看護師を名目管理者として開業。これはリハビリ専門職が独立開業できないことにも原因はあるが、次には新卒リハビリ専門職を安く雇い一日10件前後訪問させて荒稼ぎする法人が多数現れた。

筆者もそのような法人に在籍していたことがある。リハビリ訪問が短時間で良いことを逆手に取ったのだが、訪問看護の本義から外れるとして行政の指導がされた。

訪問診療が注目されると、有料老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者専用住宅)の入居者を次々回って荒稼ぎするクリニックが多数現れた。いくつかの先駆的な在宅クリニックを手掛けた開業コンサルが仕掛けたものだが、これは報酬改定で減算。

そして今回不正が明るみに出たのが、サ高住に訪問看護ステーションや訪問介護ステーションを併設しホスピスを名乗るが実態はただの有料老人ホーム、あるいは精神科専門訪問看護ステーションを名乗り精神科グループホームを訪問し、多人数をまとめて血圧測定程度で荒稼ぎするビジネスモデルである。

筆者は15年ほど前、神奈川県西部の当時まだ少なかった複合型施設の立ち上げ期に関わっていた。サ高住にクリニック、訪問看護、ホームヘルプ、ケアマネを併設し看取りまで行う。元々は近隣の大学病院の出口、後方ベッドを想定していた。その施設建物のデベロッパー、地域の中堅不動産業者がその後同様の介護施設を複数展開し大手に売却。その元役員がホスピス老人ホーム業者の一つを立ち上げている。

当時から既に社会的入院は医療経済と本人のQOL両面から不適切とされていたが、介護施設で看取りに対応するところは少なく、問題視され始めていた。いわゆる「看取り難民」問題である。一方でガンが死因一位となり、ホスピス、緩和ケアによる苦痛緩和しての看取りの必要性も知られ始めていた。

この二つのニーズを解決するソリューションが生まれれば、超高齢化多死社会で大いに歓迎されるべき介護そして看取りインフラになるはずだったが、実際には暴利を貪るエセホスピスビジネスに成り下がってしまった。

ちなみにこれまで終の住処とされてきた特養(特別養護老人ホーム、介護保険制度上は介護老人福祉施設)は、営利企業は設立できず、多くは社会福祉法人立である。ところが特養は広い土地と大規模な建物を必要とする。結果、大地主の農家が一族で理事になり社会福祉法人を設立し、多額の補助金で施設を建て高額役員報酬を取りベンツ乗り回す、社福ビジネスとも囁かれた。

しかし広い土地と億単位の補助金を浪費する大型特養は、自治体の財政負担が大きく新設計画は縮小してきた。しかし介護施設需要さらに看取り需要は増えるため、介護施設はやこれまで以上に必要になる。介護保険制度による介護の市場化、エセホスピス問題はそこに端を発する。

看取りの場としての介護施設の現状:不正・不適切請求の手口とは?

さて、では「看取りの場となる介護施設」とは現状どのような場か。

筆者は2年ほど前、「のんびりしようと」とあるチェーンの有料老人ホームに転職した。そこが奇遇にも上記会社の施設を一括買収して大手となった事業者である。正直、悪評があったが、まあ行ってみて自分の目で確かめて、などと呑気に考えていた。10年ほど前にも介護職養成講師となったとき、関連の有料ホーム(別な大手チェーン)を紹介され兼務していたが、忙しくはあったが楽しくもあったからだ。

ところが1フロアに15、6名(室)ほどの利用者に昼間でもスタッフがせいぜい3人、半分は60歳超えた人で経験も多くない、利用者は書類上は要介護1とか2になっていたが、介護認定審査委員を務めた私の眼には良くて要介護3、ほとんどは4か5。

ほとんど自分で動かない、リハビリも実質無いのに食事だけはたっぷり、なので皆ドラム缶のように肥えた体にヒョロヒョロの手足でフラフラ歩くか車椅子。寝たきりばかりの特養一歩手前、であった。「重介護」を余儀なくされあっという間に膝半月板断裂の重傷、しばらくトイレもやっとで急遽退職、ひどい目に遭った。

それでもまだ死期が近くはない、自力で食事を摂れる人たちが大半である。しかしエセホスピスホームは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの体が動かなくなる難病や、死期が近い人、寝たきりで食事すらできず胃瘻など経管栄養で栄養注入し「無理やり生かされている」ような人たちが対象とうたっている。

しかし「外部サービス利用」つまり併設訪問看護ステーション・ヘルパーステーションのケアを利用するので、施設には最低限の事務員程度しかいない、コールボタン押してもすぐに来ることは期待し辛い。

今回問題になった「不正・不適切請求」の手口は、必要が無いのに加算が取れるので二人で訪問する、わざわざ営業時間外に訪問する、必要以上の回数訪問する等で、しかし大したケアはしていなかったようである。

訪問看護は介護保険ではヘルパー同様に30分単位の算定だが、特に難病や末期の訪問看護は医療保険適応となり30分から90分まで一律料金となる。これを悪用し35分で切り上げて90分分の報酬をせしめていたようである。複数名訪問は人工呼吸器を装着している、体が大きい、ケアに抵抗する等で危険がある場合のみが本来算定条件だが、それを誤魔化していたようである。つまりは、詐欺だ。

訪問看護の現状と問題点

そもそも近年の訪問看護の中には、血圧測定して世間話程度で何の専門性も無いものも少なくないとも聞く。一方で人工呼吸器や在宅中心静脈栄養その他、病院のHCU(高度治療室)レベルのケアをしても、報酬は同じである。がん専門看護師や緩和ケア認定看護師がケアしても、ただの看護師でも、報酬は同じである。制度の不備を悪用されてしまったわけである。

訪問看護は介護保険制度以前から制度化された歴史的経緯もあり、医療保険と介護保険の両方にまたがり依頼ルートも主治医とケアマネの二重になっている等、複雑である。きちんとした訪問看護ステーションで学んでいない未経験者を管理者に仕立てれば、その理解など十分ではないだろう。主治医も近年の訪問診療クリニックは有料老人ホームと共依存なので、ホーム側の言うなりに訪問看護指示を出すだろう。入居者と働き手も生きるために運命共同体、ホーム運営会社のやり放題である。

思い返せば筆者が96年に経験2年目で訪問看護に飛び込んだ、それは大学病院でも治せないALS等の難病なら、自宅療養できればQOLが高いだろう、その担い手は訪問看護だと考えた。しかし昨今のエセホスピスホームは病院では長々介護などできない看取れない、自宅で介護できない看取れないからの受け皿である。つまりはバラマキ老人医療での盲目的延命が根源と言える。

超高齢化で弱体化するわが国経済国家財政を食い物にする悪徳業者は、重罰制裁すべきである。しかしその邪悪を呼び寄せた病根、バラマキ盲目的延命医療を蔓延させたままでは、さらに新手の悪徳が現れるだけだろう。

今回の介護保険報酬改定では訪問介護(ホームヘルプ)が減算され問題になったが、その原因はエセホスピスホームで荒稼ぎする事業者が見かけ黒字を押し上げたからだった。そこで改定寸前3月半ば過ぎに、サービス付き高齢者専用住宅の併設型訪問介護の報酬12%カットが発表された。それまで噂も無くまさにステルス潜航からの急浮上、厚労省も見るべきところは見ていたか、と想ったものである。

しかし要も無いのに早朝深夜や無駄に週何度も二人で押しかけるような不適切なケアプランで月に100万円も荒稼ぎするなど、もっとプランそのものからしっかり規制また監視する必要がある。不正が明るみに出た以上、エセホスピスホームのレセプト(報酬請求書)はチェックを強化し厳しく取り締まり、罰則付き法整備も国・厚労省・自治体は考えるべきだ。

老人医療バラマキ政策の成れの果て

そもそもなぜこのような終末期や難病の人に「たかる」悪徳ビジネスが湧いてくるのか。それは老人医療がバラマキ政策でタダ同然、大戦後にアメリカナイズされ古来からの日本人的な死生観を忘れた日本人が、魂の帰結の道標を失い盲目的延命に溺れているから、ではないのか。そのために、年金、老人医療そして介護までも、社会保障制度が破綻しつつあるのではないか。「今だけ金だけ自分だけ」とは、自民党安倍政権下で生まれた?象徴的な言葉だ。

「病根」である盲目的延命、死生観なくただ死を恐れるのみ、その国民の精神思想こそに、実はこの問題がありはしないだろうか。それを正さない限り、悪徳ビジネスは老人を国民を喰い続けるのではないか。

我が会津、武士道の根幹に「什の掟」がある。「卑怯なふるまいをしてはならぬ」「弱いものをいじめてはならぬ」そして「ならぬことは、ならぬ」悪いことは、許してはならない。

【参照】