フリーランスのブロックチェーンエンジニアがバンコクに移住した必然的理由

フリーランスの方々が海外移住するのは「お気楽」のように思われることも少なくありません。しかし、人によっては、移住が切実な理由に基づいていることもあります。

今回は、そうしたタイ移住者の一人、ブロックチェーンエンジニアのAさんに話を聞いてみました。(インタビュー日:2024年8月29日)

Thissatan/iStock

日本企業から米系IT企業へ、さらに海外のクリプト企業のフルリモート勤務へ!

――経歴を教えてください。

Aさん:私は大学を卒業後、日本企業でエンジニアとして働いていました。

日本生まれ日本育ちなのですが、外国で仕事をしたいという憧れがあり、20代終わりころ、米国カリフォルニア州のベイエリアに仕事を探しにいきました。

でも、なかなか仕事を見つけることができず、日本で米系IT企業に転職しました。

転機になったのは、その後、海外のクリプト企業で開発チームの統括をやるようになってからです。この企業では、完全フルリモートで仕事をしていました。

――完全フルリモートの会社員というのも可能なのですね。

Aさん:ITエンジニアだから可能だったのだろうと思います。ITエンジニアの場合、対面でのコミュニケーションがほぼ不要ですから。とはいえ、相当実力がないとできませんし、リスキーです。

フリーランスで海外のクリプト企業向けの仕事をする

Aさん:とはいえ、会社の開発チームの統括という立場上、組織をまとめる必要がありましたが、その組織をまとめる仕事自体に疲れてしまいました。

そこで、そのクリプト企業の開発チームの統括を降り、別の企業でフリーランスとして働くようになりました。ここも、やはり海外のクリプト企業です。

――この会社では、どういう立ち位置で仕事をしているのでしょうか?

Aさん:私はフリーランスですが、チームを束ねる立場です。チームメンバーも皆フリーランスなので、私はフリーランス軍団の長という地位です。会社には正社員がほとんどおらず、こういうフリーランスのチームがいくつもあって、フリーランスのチームを束ねる形で会社が成り立っています。

自社発行トークンで受けた報酬、日本に住んでいると納税もままならない

――どういった経緯で海外移住したのですか?

Aさん:わたしが元々海外に興味があったというのも理由ですが、それ以上に切実な理由もあります。わたしが受け取っている報酬は、現金で受け取っている分もありますが、業務委託先の会社自身が発行しているトークンで受け取っている分が多いのです。

自社発行トークンで受け取っているとはいえ、報酬として金銭的価値のあるものを受け取っている訳ですから、所得税の納税をしなくてはなりません。

しかし、その自社発行トークンを日本国内の暗号資産取引所では現金に換金することもできませんから、納税するための原資を作ることもできないのです。

ですから、日本に住みつつ日本で納税することができないので、海外移住せざるを得ませんでした。

――日本の暗号資産取引所で取り扱う暗号資産は、いわゆる「ホワイトリスト」のトークンに限定されていますから、新規に発行されたトークンを日本国内で換金できるのを待つのは、たしかに現実的ではないですね。日本がブロックチェーン立国を目指すのであれば、政治家に真っ先に動いて欲しいポイントの一つです。

東南アジアの主要都市のなかでも、バンコクは日本人にとって住みやすい

――海外移住が必須だったということですが、どうしてバンコクを選んだのでしょうか?

Aさん:バンコク以外に、シンガポール、マレーシアの首都クアラルンプール、フィリピンの首都マニラも考えました。

でも、シンガポールは、物価が高すぎますよね。コンドミニアムの家賃など、東京の3倍くらいします。それに、国が狭くるしくて楽しみが乏しいように思いました。

マレーシアの首都クアラルンプールは、物価は手頃でしたが、飲みに行く場所も少ないですし、楽しみが無いように思いました。

マニラは、子連れで行くには治安がイマイチですね。

――バンコクでは、どのエリアにお住まいでしょうか?

Aさん:バンコクでは、スクンビット通り界隈に住んでいます。バンコク在住日本人の大多数が住んでいるだけあって、何から何まで揃っていて、便利です。

わたしの場合、妻と子ども1人の3人家族、犬も一緒です。しかも、1部屋は仕事用に使いたいという希望もありました。

そのため、ペット可で、ベッドルームが3つあるコンドミニアムを希望していましたし、バスタブがあること、幼稚園が近いことなど、かなり希望が多めでした。

それでも、これらの条件をすべて満たしたコンドミニアムが見つかって良かったです。

スクンビット通りにあるプロンポン駅直結のショッピングモール内にある紀伊国屋書店には、日本語書籍も揃う
筆者撮影

日本円建てやタイバーツ建てでなく、ビットコイン建てで資産を把握している!

――今後のプランはいかがでしょうか?

Aさん:いつまでバンコクに住むかは分かりません。

ただ、先ほど申し上げた、自社発行トークンで受け取る報酬については日本居住だと納税できないという点が日本の制度上解消されない限りは、日本に戻れないですね。

――その点さえ解消されれば、日本に戻りますか?

Aさん:うーん。以前、税務調査に入られて、ねちねちと嫌味を言われて日本の税金が本当に嫌なんですよね。普通のフリーランス相手に税務調査する暇があったら、裏金議員のところに行けばいいのに、と思いますよね。

――日本にいつ戻るか決まっていないAさんの場合、資産はどの通貨建てで貯めているんですか?米ドル建てでしょうか?それともタイバーツ建てでしょうか?

Aさん:香港法人を設立して、仕事は香港法人名義で受けています。たしかに、香港ドルや米ドルで資産を蓄えていますが、私の意識としては、「何ドル持っている」というよりビットコイン建てで「何BTC持っている」という意識ですね。

インタビューを終えて

国境を越えてフリーランスとして働く、日本居住では納税のしようがなく止むを得ず海外移住、資産はビットコイン建てで把握、というように、弊社のお客様の中でも典型的な新世代の海外移住フリーランスの方です。

わたしもインタビューをしながら刺激を受け、こうした方に有意義なスキームを作ろうというモチベーションが高まりました。