ロシア・ウクライナ戦争の調停者を務めることができるのは誰か

International Crisis Groupという紛争分析の業界では世界で最も信頼されているシンクタンクの一つが、9月末の第79回国連総会(国連創設79年目の会期)の開催にあわせて、「国連が対応しなければならない10の課題」という論説を出した。最も深刻な問題である第1番目の課題として、ガザ危機があげられた。スーダン、ミャンマーの危機が続いた。

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非常に特徴的なことに、ウクライナ情勢は、国連が対応すべき課題から外された。ガザ危機と並んで、あるいはそれ以上に、安全保障理事会を分断している問題だ。国連が取り組まなくていい問題として扱われるのは、奇異であるようにも感じる。

しかし、実際のところ、ロシア・ウクライナ戦争が国連安全保障理事会や総会で議論される機会は少なくなっており、国連が調停に向けた努力をする機運も乏しいように見える。

International Crisis Groupは、この点について、但し書きのような説明を付した。それによれば、国連がトルコとともに調停に入って達成した「黒海穀物イニシアチブ」が破綻した後、国連が果たせる役割はなくなってしまった、とのことである。

もちろん将来にわたり永遠に国連には何もできない、と断定できるわけではない。しかし安全保障理事会で孤立しがちなロシアは、拒否権発動を繰り返す。ウクライナも、スイスで開催した「平和サミット」において国連に何も目に見えた役割を与えなかったように、国連には何も期待していないようだ。

加盟国193カ国が加入している国連憲章体制において、「国際の平和と安全の維持」(憲章1条1項で明記されている目的)に関して国連組織に与えられている特別な役割を考えると、これは非常に残念な事態である。あるいはブリュッセルに本部事務所を置くInternational Crisis Groupの「二重基準」を示す事態かもしれない(他の地域での紛争に関しては国連が介入して果たすべき役割を説く一方で、欧州での紛争では国連の介入を拒絶する態度をとっているかのように見える)。

だがいずれにせよ、これは一つの冷静な現実の観察の結果ではあるだろう。ロシア・ウクライナ戦争で、国連は蚊帳の外に置かれている。

それでは他の国際機関には何か特別な役割が期待されているか。ドンバス戦争の際には、OSCE(欧州安全保障協力機構)の関与が求められた。ウクライナもロシアも、その他の関心を持つ主要国も、全て加入しているのが、OSCEだからだ。

しかしドンバス戦争の調停の結果であった「ミンスク合意」が崩壊し、ロシアによるウクライナ全面侵攻を開始してOSCEの監視団が撤退したときから、OSCEは蚊帳の外の存在となった。特にウクライナの人々の間でのOSCEに対する不信感は根深い。ロシア・ウクライナ戦争の文脈でOSCEが言及される機会は全くなくなってしまい、代わってウクライナ政府によってNATOとEUへの期待が強く表明されるようになった。

しかしウクライナにとってNATOやEUへの期待は、自国を支援する諸国のグループへの期待である。必ずしも調停の期待ではない。したがってロシアにとっては、NATOやEUは敵側の勢力である。将来にわたって、ロシアはこれらの地域機構が主導する調停を信用しないだろう。

だが、そうなると国際機関(地域機構)の中には、ロシア・ウクライナ戦争の調停にあたることができる候補が存在していないことになる。国連とともに「黒海穀物イニシアチブ」合意の調停にあたったトルコは、引き続き重要な国だ。ロシアとウクライナの双方に対して比較的良好な外交関係を維持している。しかし調停者としてのトルコへの期待は、しぼんでいる。エルドアン大統領が、ロシア・ウクライナ戦争や黒海情勢について発言する機会も、目に見えて減ってきているように思われる。

ウクライナは、第二回「平和サミット」を開催して、できる限り自国の意向にそった停戦の枠組みを国際的に確立していきたいと考えている。そのため、仮にウクライナを支援している国でなくても、「平和サミット」共同宣言の署名国でなければ、調停者としての役割を与えることにも反対だ、という態度である。

ゼレンスキー大統領は、BRICS構成国である中国とブラジルが共同で打ち出したウクライナ危機の和平構想を「破壊的な提案で、単なる政治的な声明だ」と非難し、両国がロシアに近すぎることを批判的に示唆した。

ウクライナ大統領、中国とブラジルの和平構想を「破壊的な提案」と非難
ウクライナのゼレンスキー大統領は、中国とブラジルが共同で打ち出したウクライナ危機の和平構想を「破壊的な提案で、単なる政治的な声明だ」と非難した。この過程にウクライナは関与していないとも述べた。

ゼレンスキー大統領は、国連総会にあわせてニューヨークを訪問する予定だが、その際にラテンアメリカ諸国と会合を持つことを画策していたという。しかし出席見込みの国の数が少なすぎるためキャンセルになった、と報道されている。

東南アジアにおいても、マルコス政権下で際立った親米路線をとっているフィリピンを除けば、ウクライナとの関係の発展に関心を示している国は見られない。マレーシアやタイはBRICS加盟申請中だ。当初は調停に関心を持っているように見えたインドネシアも、その実現可能性を見限って、関心を失っているように見える。

調停者がいれば調停ができるというものではないが、調停者がいないままでは調停の可能性が著しく乏しいままであることは間違いない。

恐らくは政策の刷新を掲げる大統領としてトランプ氏がアメリカの大統領に選出されると、新たな機運がもたらされるかもしれない。しかしウクライナに一方的に譲歩を求める内容であれば、ウクライナが拒絶して、欧州諸国にだけ期待する姿勢に転ずる可能性はある(賢明とは思われないが)。トランプ氏がロシアの譲歩を求めるのであれば、ロシアは少なくとも中国などが同等の地位で調停者として関与する仕組みを求めるだろう。

第三者性がある国際機関のような調停者の候補が見つからない場合には、「四者協議」的な仕組みをとって、それぞれの当事国の有力な支援国、つまりアメリカと中国が入るような仕組みを考えていくしかないだろう。

ロシア・ウクライナ戦争はいつ終わるか不明だ。当事者は、停戦の機運そのものに反対しているような素振りがある。

しかし停戦ではなく勝利を、といったかけ声は、実は修辞的なものでしかない。たとえばウクライナがロシアの占領地を全て奪還する「勝利」を収めたとしても、ロシア軍の侵攻が止まらなければ、なお戦争は続いていく。

ロシアかウクライナのどちらかの国の国家としての存在の消滅を視野に入れるのでなければ、必ず停戦の際の調停は必要である。そのためのイメージづくりは、怠ることができない。

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