今、北京を訪問する意義は薄かった
9月に北京を訪問したスペインのサンチェス首相。この時期に中国を訪問する意義は薄い。国内の種々問題から一時的に逃避するためであろう。国内では彼の夫人と弟がそれぞれ別の事件から起訴されて公判中だ。しかし、この二つの起訴の根底にあるのは、サンチェス氏の首相としての地位を利用した事件であることから逃れることはできない。
また今年の国家予算が議会で可決する見込みはない。大量の不法移民の侵入で解決手段を見つけられないでいる。カタルーニャの独立を主導したプッチェモン元州知事らを恩赦にさせる為の恩赦法を成立させた。が、それが最終的に施行できる可能性は次第に遠ざかっている。失業率はEUでナンバーワンの国になってしまい、貧困層が次第に増えている。
現在、総選挙をすれば野党が政権に就くことは明らかとなっている。私利私欲に走って自ら首相であり続けようとするサンチェス首相には、議会の運営が困難となっても解散する意向はない。
独立派政党は彼の弱い立場を利用して、カタルーニャそしてバスクの利益になるような要求を彼に飲み込ませている。それに対して、彼らはサンチェス氏に国会での議席を貸している。そのお陰で、彼は野党から仮に内閣不信任案が提出されても、それを乗り切れる算段になっている。
このような混乱した国内事情の中で、北京を訪問する意義がどれだけあるのであろうか。
EUの結束を損なうサンチェス首相の失言
サンチェス首相が北京を訪問して発言したのは、EUが中国からのEVに高関税を適用しようとする姿勢に対し、「それを再度熟慮する必要がある」と発言したのである。
EU委員会は彼のこの発言に深い憤りを表明した。しかも、スペインはフランスとイタリアと同調して高関税の適用にこれまで賛成していたのである。それがサンチェス氏が北京訪問した途端に、ドイツやスウェーデンと同じように高い税率適用に反対を仄めかす姿勢に変化したのである。
彼のこの180度転換した姿勢には筆者は驚かない。彼はこれまでも常にこれを繰り返し来た常習犯であるからだ。
また今年6月には中国のWang Wentao商業相がスペインを訪問してEU内で中国の為に圧力をかけて欲しいと依頼した。イタリアが中国離れをした現在、中国はスペインが地中海諸国の中でのEUへの玄関と見做すようになっているのだ。
サンチェス首相の姿勢の変化の背後にあるもの
サンチェス氏のこの変化の理由というのは明白だ。仮に高関税を適用するようになると、EUから豚肉の中国への輸出でNo.1のスペインがその影響を受けて中国からの輸入量が減される可能性があるからである。更に、サンチェス氏は中国からEVのMG社のスペイン進出を誘う意向もある。チェリー社は今年4月にバルセロナの日産の工場跡地に進出することが決まった。
1979年に日産がバルセロナで日本車の生産を開始した。それから30年余りが経過した今、日本に代わって中国がその跡地を利用して進出する。ここでも日本が中国に代わられる。皮肉な時代の趨勢である。
しかし、中国は南米やアフリカに生産工場を建設しても、中国から労働者を連れて来る傾向がある。ヨーロッパでそのようなことをすることは許されないであろうと筆者は想像するが、中国企業がスペイン人労働者を雇っての経営は容易ではないと考えている。
スペイン以外でもベルギーやハンガリーにも中国車が現地生産されるようになる。それを基盤にして、中国はEU内でEV市場を占有する可能性があることも警戒する必要がある。何しろ、ソーラーパネルではEUのメーカーは中国の襲来の前に完全に生産市場を失ったという二の舞を踏む事態になるかもしれないからだ。
10月末に、EUは高関税の適用について最終の決定を下すことになっている。