歴史を紐解けば、国際情勢の真相や、今後の行方が見えてくることが多々あります。世界で最も多大な影響力を与える政治家は、間違いなくアメリカ合衆国の大統領です。アメリカ大統領選挙の歴史を知ることで、世界の動向を知ることができるのです。
「教養としてのアメリカ大統領選挙」(神野正史 著)秀和システム
[本書の評価]★★★(80点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
ルシタニア号撃沈事件
この事件は、第一次世界大戦中の1915年5月7日にニューヨークからリヴァプールへと向かっていた客船ルシタニア号が、ドイツのUボートによって無警告で魚雷攻撃を受け沈没した事件です。ウィルソン大統領は何かと運がいいと、神野さんは言います。
「開戦の大義名分を模索するウィルソン大統領の下に、機会が転がり込んできます。それがドイツによる『(第1次)無制限潜水艦作戦』です。これは『ドイツが認めた海域以外で艦を発見したら、軍艦・商船・客船を問わず、敵船・中立船の区別なく、無警告・無条件で潜水艦を以もって撃沈する』というものです」(神野さん)
「ドイツはこれを当時、米英間を往復していた客船『ルシタニア号』の新聞広告のすぐ下で広告を打ちました。『無警告で撃沈する!』と大々的に広告を打って〝警告〞しているのですから、なんとも滑稽な感じがしますが、ドイツにしてみれば合衆国に〝参戦口実〞を与えたくない一心からの苦肉の策でした」(同)
ウィルソン大統領がほんとうに世評通りの「真に平和を愛する大統領」であったならば、「国民の身の安全」を第一に考えてルシタニア号に出航を控えるよう勧告しただろうと、神野さんは言います。実際にはそうすることはありませんでした。
「彼は出航を黙認したどころか、ルシタニア号に武器・弾薬を満載させて出航させます。ルシタニア号が無事にイギリスに着けば兵器をイギリスに送ることができる。もし撃沈されればアメリカ市民を殺したという〝戦争口実〞を得られる。どちらに転んでも痛くも痒くもない。〝戦争口実〞を得るために自国民の命を犧牲にしたわけです」(神野さん)
「大統領の思惑は現実のものとなってルシタニア号は撃沈され、多数のアメリカ国民の命は海の藻屑となって消えていきました。ただ、このときは合衆国の介入を恐れたドイツがただちに『無制限潜水艦作戦を中止』したこと、また、ドイツは事前に新聞広告で警告していたことが明らかになったことで輿論はほどなく沈静化します」(同)
この事件を以ってただちに開戦とはならなかったのです。
トランプ事件から学ぶこと
トランプ候補、狙撃の1週間後にバイデン大統領は撤退表明をしました。党から正式に指名を受けた大統領候補が選挙途中で撤退するのは前代未聞です。
ですが、似たような構図は、ウィリアム・タフト大統領の2期目の大統領選でも起きています。しかし、投票間近になって指名を替えるというのは、同じ致命的失態と言えるでしょう。
神野さんは「歴史に大きな〝爪痕〞を遺した人物を調べてみると、『不思議なほど無名だった若いころから多くの命の危険に晒されながら、それをことごとく〝強運〞で切り抜けてきた』経験を持つことが多い」と指摘します。〝神の御加護〞でもあるかのように。
ところが、〝神から授かった使命〞をやり遂げると、たちまち〝御加護〞を失い、些細な不運で呆気なく落命してしまいます。たとえば、坂本龍馬はその生涯にどれだけ暗殺されかけたかしれませんが、そのことごとくを脅威的な強運で回避してきたのに、大政奉還が終わった直後にあっさりと暗殺されてしまいました。
トランプ氏の「狙撃」が未遂に終わったのも彼の強運に拠るところが大ですが、それは、神から何かしらの〝使命〞を負ってこの世に生を享けたことを示唆しているのかもしれません。
誰が大統領になるにせよ、次の4年間興味深く見守っていきたいものです。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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