もし「高市首相」がリズ・トラスのような財政バラマキをやったら

池田 信夫

自民党総裁選はきょう15:30に結果が判明するが、日経平均は「高市首相」を織り込んで上がっているという。為替も1ドル145円台と円安になったが、高市首相で実際に何が起こるかを考えてみるのもおもしろい。

「トラス・ショック」は再来するか

誰もが連想するのは、2022年のトラス・ショックである。イギリスのリズ・トラス政権は9月に、エネルギー危機対策として価格統制を行うと同時に「過去50年で最大の減税」を発表した。

450億ポンドの減税でミニバジェット(小さな予算)を実現し、財政赤字はすべて国債でまかなう。大減税によって「中期的に成長で財源をまかなう」という。財政支出は5年間で1610億ポンド(約25.5兆円)にのぼるが、財源はすべて国債で調達する。

この発表直後、財政悪化を警戒して長期金利が5%に上がり、株価が下がり、ポンドは対ドル最安値を更新して「トリプル安」に陥った。

ニッセイ基礎研

イングランド銀行は10月から国債を売却する予定だったが、長期金利が上がったため売却を中止し、逆に国債購入を開始した。内閣支持率は7%に急落し、混乱の責任をとってトラス首相は在任49日で辞任した。

「高市ショック」で1ドル=200円もありうる

「いま金利を上げるのはあほや」とか「自国通貨建ての国債はいくら発行してもいい」と公言する高市氏は、まさにトラスの再来である。彼女が大型のバラマキ補正予算を組み、「足りない財源は国債を発行して日銀に買わせる」と表明したら、ただちに外資系ファンドが日本国債を売り、長期金利は3%を超えるだろう。

ドル円は150円を突破し、当時のポンドと同じく2割安になるとすれば180円ぐらいになる。このときはトラスの辞任で底を打ったが、「高市首相」ががんばると、200円まで円安になってもおかしくない。これを止めるには大規模な為替介入が必要だが、財務省は(イギリス大蔵省のように)緊縮財政を敵視する首相には協力せず、彼女が辞任するまで静観するだろう。

これによって輸入インフレが起こり、金利がさらに上がる。政策金利も3%に上げないとインフレが止まらないが、首相は「利上げはあほや」とそれを禁止するので、植田総裁は辞任し、長期金利は5%になって日銀は債務超過に陥る。

最大のリスクは地方銀行の「取り付け」

日銀の債務超過は問題ではないが、首相がこのようなMMT路線を続けると市中銀行も債務超過に陥り、資本増強が必要になる。これを支援する日銀が債務超過だと、各地の地方銀行で取り付けが起こり、1998年のような金融危機が起こる可能性がある。

MMTが「自国通貨建ての国債はデフォルトしない」などとお気楽なことを言っていられるのは、投資家が財務省と日銀を100%信頼しているからだ。その信頼が1%でも欠けると国債バブルが崩壊する。

安倍政権では財務省出身の黒田日銀総裁が信頼を担保していたが、高市首相の経済顧問は、安倍首相でさえ審議委員に起用しなかった本田悦朗氏である。

円安で外資系ファンドが国債の空売りをかけると、それがさらに国債の暴落をまねいて円安をまねく2022年のイギリスと同じスパイラルが起こる。これで財政インフレが起こると、財政赤字も社会保障債務も解決するかもしれない。

通貨価値を担保しているのは通貨発行権でも金融政策でもなく、政府への信頼である。それをみずから毀損する首相が出てきたとき、財務省が国債の暴落を放置して政権を倒すことはむずかしくない。続きは『もし小泉進次郎がフリードマンの「資本主義と自由」を読んだら』でどうぞ。