米副大統領候補TV討論会が10月1日(現地時間)に行われました。
CNNの世論調査結果によれば、以下の通り。2020年と逆に、共和党副大統領候補のバンス氏に軍配が上がりました。
2024年
バンス氏:51%
ウォルズ氏:49%
2020年
ハリス氏:59%
ペンス氏:38%
リベラル寄りの米政治ニュースサイトのポリティコも「JD Vance is doing really well tonight」と評価するように、弁舌冴えわたるバンス氏がディベートを有利に進めていたようみえます。
注目ポイントは、以下の5点でしょう。
イランによるイスラエルへの攻撃について
民主党のウォルズ氏は、中東情勢について「イスラエルの自衛、さらに人質奪回は根本的なもの(fundamental)で、ガザの人道危機を集結させる」と発言。ハリス氏が「安定的な指導力」を発揮し、世界を導いていると強調しました。
その一方で、イランのミサイル攻撃で「ただでは済まないだろう」とも警告、これが何を示唆するのか懸念を与えました。
共和党のバンス候補は、「自国の安全を守るために何を必要とするかはイスラエル次第であり、同盟国が悪者と戦っているのであれば、どこにいても支援すべきだ」と言及、イスラエルに対する米国の揺るぎない支援に表明する反面、米国の軍事的関与に言質を与えず、対照的でした。
バンス氏、移民流入問題についてCBSの司会者のファクトチェックを阻止
移民流入問題は、最も議論がヒートアップしたトピックの一つとなりました。
ウォルズ氏は前回の米大統領候補TV討論会で話題になった、オハイオ州スプリングフィールドでハイチ系移民がペットを誘拐し食しているとのトランプ氏の発言を取り上げ、同地域に緊張と爆破予告までもたらすことになったと指摘。
その上で「スプリングフィールドの地域社会で合法的に滞在している多くの人々を中傷した」、「知事が州警察を派遣して幼稚園児の登校をエスコートさせなければならなかった」と非難したのです。
これに対し、バンス氏はハイチ系を始めとしたペットを食しているとの問題には触れず、野放図な移民が学校、病院、住宅市場など地域の資源を圧迫していると強調しました。
しかし、今回の討論会で最も白熱した場面は両者の対峙ではありません。司会者が「オハイオ州スプリングフィールド在住の移民の多くは不法移民ではない」とファクトチェックを行った瞬間から始まった、バンス氏による“ファクトチェック返し”です。
バンス氏はすぐに反論し司会者の言葉を遮り「ファクトチェックをしないというルールだったが、私にファクトチェックするならば、実際に何が起こっているの伝えることが重要だと思う」と回答。その上で、バイデン政権が使用する移民プログラムを糾弾しました。
バンス氏によると、バイデン政権下で移民は亡命申請の面接に登録できるアプリ「CBPワン」を利用し、面接が承認された移民は1〜2年間の仮入国が認められ、就労許可を取得できるといいます。このアプリの問題点は、仮入国の期限切れ後、亡命を始めとした移民プログラムに申請しない限り、合法的な在留資格が残らないこと。
バイデン政権は、“CBPワン”を通じ入国を許可すれば、不法入国を抑止でき、かつ移民の追跡が容易になると説明してきました。しかし、通常の申請手続きを経た移民と公平性を担保できない上、仮入国期間後は法的根拠に乏しい移民を増やすことにつながりかねません。
このCBPワンを通じた移民の流入をバンス氏が指摘したところ、CBS側は途中でマイクをミュートにし、発言を阻止しました。
ウォルズ氏、天安門事件発生時に中国に滞在していた件につき回答を避ける
ウォルズ氏は30回以上の中国渡航歴と、1989年6月に起こった天安門事件当時、香港に滞在していたとの発言で知られています。
司会者が本件について質問した際、当初ウォルズ氏は「私はネブラスカ州の小さな町に生まれ、州兵に17歳で入隊し、教師になった。そして中国へ旅行し、様々なことを学び…ミネソタ州知事に2回選出された。これが人々が見る価値だ」と述べ、明確な回答を回避。
しかし、結局は詰め寄られ、「言い間違えた(misspoke)」と言及。天安門事件当時、香港にいなかったと渋々認める運びとなりました。
バンス氏、米大統領選で敗北した場合の対応について模範解答でかわす
今回のディベートでも、やはり2020年の米大統領選結果に対するトランプ氏の抵抗が取り上げられ、バンス氏に敗北を認めるかとの質問が突き付けられました。
そこでのバンス氏の回答は、まさに模範解答というにふさわしい。「トランプ氏は平和的に権限を移譲した。もしあなた方(民主党陣営)が勝利すれば、私は握手をしてあなたのために祈り、あなたを助けるだろう」と回答し、攻撃的なトランプ氏に対しスマートに対応したのです。
これには、ウォルズ氏も肩透かしを食らったことでしょう。ただし「民主党は2016年、ロシアのプーチン氏が米大統領選を盗んだと非難したことを覚えておいてほしい」と、痛烈な皮肉を放つのも忘れません。
バンス氏、ハリス氏が検閲を推進したと批判
ウォルズ氏がトランプ氏の2020年米大統領選結果に抵抗した事実に基づき、トランプ氏が民主主義の脅威と警告した一方で、バンス氏はハリス氏が検閲を推進したと批判しました。これは、コロナ・ワクチンへの反対意見がSNSで禁止されたことなどに依拠します。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが8月に書面で民主党の関与について指摘していましたよね。ハリス氏を始め民主党が「私の体のことは私が決める(my body my choice)」とのキャッチフレーズで中絶の権利を主張する反面、ワクチン接種を米国民に強制したとの批判が存在するのも事実です。
銃問題について、両者は一定の合意を形成
バンス氏が銃乱射事件の増加と移民の急増を結びつける場面もありましたが、基本的に両者は一定の合意を形成しました。
バンス氏が学校の警備強化の必要性を説くなかで自身の3人の子供に言及すると、ウォルズ氏が「私の17歳の子供は銃乱射事件を目撃した」と語り、バンス氏が慰めるシーンも。そのほか、ウォルズ氏は「私は猟師の一面もあり、銃を保有している…ハリス氏は憲法修正第2条を覆し、銃をあなた方から取り上げようとしていない」と強調したものです。
ただ、サンディフック小学校銃乱射事件の被害者の親と面談した機会に触れつつ「学校銃撃犯と友達になった」と言い間違え、X(旧ツイッター)を中心に大炎上してしまいました…。
以上、米副大統領候補TV討論会はベンチャー・キャピタリストでもあるバンス氏が終始リードする形で幕を閉じました。SNSでは、バンス氏の横目でみる表情がミームとなって出回る有様です。
副大統領TV討論会が選挙にどの程度影響するかは不透明ながら、バンス氏が有権者に一定の存在感を残したことは事実でしょう。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2024年10月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。