「石破総理大臣」時代の日本に必要な経済の視点とは何か?という記事「石破茂総理はアベと反アベを「両方」終わらせる政権」でも少し紹介したんですが、ある日本の若手ベンチャー経営者が書いた、
「日本のベンチャーは小さく一塁打ばっか狙ってるんじゃねえ!ホームラン狙えよ!ベンチャーの意味ないだろ?」
っていう「檄文」みたいな記事がめっちゃ出回っていて、すごいシェアされてるのを見かけました。
これですね↓
いわゆる「上場ゴール」的なものが多くて、創業者界隈だけは小金持ちになるけどその先何のイノベーションもない…みたいなのが多いというのは、ベンチャー界隈ですら言ってる人が沢山いる情勢なんで、上記noteは批判されてる上の世代のベンチャー界隈の人からもまあまあ好意的に受け止められているのを見ました。
小泉進次郎が「起業促進税制」みたいなことを言い出してたのに対してベンチャー界隈からも結構「モラルハザードでは?」って言ってる人見かけましたし、そうやって「優遇」されてもそこから出てくる「イノベーション」とやらが交通規制を謎のパワーで緩和して電動キックボードを走らせることだったりするとねえ・・・みたいな、「もっとなんとかならないんですか」というような失望感も、国民の側にある感じはする(笑)
もちろん、「上の世代が頑張ってきたからこそ、下の世代はそのベンチャーインフラを利用して成功できてるんだぞ」という正論もあるんで、無駄に喧嘩するのもバカバカしいですが、いい感じに「ライバル心」を持っていただいて、「若造にそんなこと言われてられないぜ」という感じで上の世代の人も奮起していただければと思います。
なんにせよ、このダイニーというベンチャーの感じって結構「いろんな意味で新しいな」と個人的には感じていて、それが「アベノミクス継承者の時代から石破時代へ」みたいな転換とも響き合ってる面があるんじゃないかと個人的には感じているんですね。
さっきの石破氏に関する記事と合わせて読んでいただきながら、今回はこの「過去30年のIT音痴だった日本だからできるこれからのDX」というお話を聞いてほしいと思っています。
1. 「中小企業の人の縁が破壊されないDX」が始まりつつある
私は外資コンサルからキャリアをはじめて、そういう「外資コンサル的」な世界と日本社会のリアリティとの間を繋ぐ新しい発想がいずれ必要になるなと思って、わざわざ一回自分でブラック企業で働いてみたり肉体労働してみたりカルト宗教団体に潜入してみたり…とかアレコレやったあげく(なんでそんなことしたのか、っていう話は興味があればこのインタビュー記事などを読んでください)、今は中小企業相手の経営コンサルタントをやってる人間なんですね。
実際に自分のクライアント企業で、10年で150万円ぐらい平均給与を上げられた事例とかもあるんですが、そうやって関わっていると、「良い大学を出て大企業か都会のベンチャー勤め」の界隈からは見えてこない部分を色々日々体感したりするわけですけど…
で、そうやって「中小企業側」から見ると、
「ここ最近日本のDXは急に進み始めてる」
…面があるな、と感じてます。
今までそんなITシステムとか入れるのがありえなかった小さな会社まで突然浸透しはじめるようなサービスが結構出てきている。
「今までのシステム」と何が違うかっていうと、「現場の人が使いやすいように」作られてるところが大きいなと思います。
なんかスマホゲームを作るような発想で、現場の人が使いやすいアプリにしなきゃという精神が確立されつつある。
このLayerX社の「バクラク」というサービスについての記事で、
「とにかく現場の事務員さんが使いやすいと感じてくれるサービスにしなきゃ」と必死にやった…みたいな話があって、なかなか格好良かったです。
結果としてそれで今までITシステムとまじで縁がなかったような規模の会社まで急激に導入が進んでいる。
ある意味で、「インボイス」制度が始まった事の数少ない「良い面」はここにあったと言えるかもですね。
こういうSaaSは今いっぱいあって、ただ乱立するだけだとその先がないので、それをまとめて行くような試みの先に何か新しい変化が生まれるのではないかと感じているところがあります。
2. インテリの人が「現場に尽くす」のが日本カルチャーの反撃点
プッチンプリン出荷停止の原因になったSAPみたいなシステムは、「経営者にとってはいいが現場は使いづらい」構造になっていて、もちろんグローバル大企業にはそういうものが必要だけど、普通の日本企業には明らかにトゥーマッチだった例が多かったですよね。
そこでただ「日本企業はDXに対する理解がなくてほんとイヤだよねえ」って言ってるだけじゃなくて、むしろ「現場側の社員が使いやすい発想のアプリ」をインテリが必死に作る流れが日本では最近生まれていてそこにはすごい希望を感じてたんですよね。「日本らしさ」が詰まってるなと。
まず、今はSAP導入コンサルみたいな人ですら、「SAPが向いてる企業と向いてない企業があるし、どこも無理していれなきゃいけないわけじゃないですよね」という感じの話をする時代になってるじゃないですか。
色々な場合分けを行って、自社開発するべきか、もっと小さい単機能なものを使うべきか・・・とか色々な選択肢が用意されて、それぞれについて「かゆいところに手が届く」ような商品展開が用意されるようになってきた。
で、過去の「SAP」型の中央集権的なITシステムに対して日本企業がやたら対応が遅れがちだったのは、「日本は現場が強すぎる」からだってよく言われてたじゃないですか。
現場に責任感がありすぎて、ありとあらゆる例外処理を全部パッケージソフトに載せようとして過剰にカスタマイズするから日本企業は駄目なんだ・・・って褒めてるのかけなしてるのかわからない感じですけどとにかくそういう理由でITの導入が進まずにいた。
でもこうやって「無理やりパッケージに合わせる」と、日本企業側の本来的な能力が出せなくなってしまって、「それで会社を潰しかかった」と言ってた経営者が僕の昔のクライアントにいたりしました。
だから、「インテリが作った普遍性に現場の人が無理やり合わさせられる」型のITシステムに対して日本企業がうまくノレなかったのは、それはそれで「今後の価値につながる側面がある」と考えるべきじゃないかと思うんですね。
というのは、そうやって「過去30年のトップダウン型ITシステム」を無理やりゴリ押しで社会の末端まで入れ込んでしまった国の経済では、「ある種のMBA的人材やテック技術者」だけが神様のように活躍しつつ、そうじゃない現場レベルの人の「自己効力感」は破壊されて社会の不安定化の原因になってしまってる面があるからですね。
一方で、今日本で生まれつつある「インテリの人が現場に尽くす」カルチャーのITシステムは、「現場で自然発生的に生まれている人の縁」を破壊せずに浸透するので、
「社会の末端の安定性とトータルで見た経済の効率性の両立」
…に繋がっていくのではないかと思います。
3. 『ダイニー』はガチで社員が実際に飲食店に働きにいって一緒に作っているらしい
この資料によると、ダイニーは「実際に社員が飲食店の現場に潜入して働いて、そして使い勝手を改善する取り組み」を徹底してやってるらしい。
結果としてチャーンレート(解約率)はむちゃくちゃ低い。一回使ったら手放せなくなる、宣伝しなくてもお店で使った客の立場の人がどんどん問い合わせしてくる状態になってるとか。
なんかこの、
「現場レベルに入り込んでトコトン向き合い、圧倒的な使いやすさを実現する」
↓
「勝手に広まるし解約もされない流れが始まる」
…というのは、調達した資金を広告で溶かしてそのうち泣かず飛ばずになるベンチャーとは大きく違う本当の「希望」を感じますし、それにグローバルで有名なVCが目をつけて巨額投資をする流れが起きているのも「新しい」なと思いました。
このダイニーCEO氏は「陰キャ」とはとても言えませんが、「ちゃんと理想を持って作り込むことが大事」という意味では、以下の記事で書いた話にも通じるところがありますね。
また、こうやって「現場にものすごく近いところから作られたIT」という話では神奈川県秦野市にある大正7年創業の老舗旅館「元湯陣屋」の話を思い出します。
2009年に当時32歳で女将に就任した宮崎知子さんが、旦那さんがソフトウェアエンジニアだったこともあって自家製で「温泉旅館業に特化したシステム」を作り、さらにそれを「陣屋コネクト」という名前で全国の数百以上の同じような旅館で使ってもらう形に展開しているんですね。
これはもう本当に「温泉旅館」に徹底して特化したシステムで、顧客ごとの浴衣のサイズを管理するとか、無料ドリンクのサーバーをカメラで捉えてAIが監視していて足りなくなれば補充するようなアラートがでるといった仕組みまで揃っているそうです。
「SAPみたいな普遍性重視・現場軽視のIT」は日本人はまじで苦手分野ですけど、逆にこういう「現場に近いところからボトムアップに作られたIT」が、その価値を認められて国際展開するという勝ち筋は、今後うまくブーストしていけるのではないでしょうか?
4. 「温存された生態系」の価値を呼び覚ます
さっきも書いたけど、「過去30年のIT」が社会の隅々に通用させてしまった国は、「生態系が単純化」しちゃった問題があるんじゃないか、と私は常々日本の中小企業に触れてる中で感じてるんですよね。
「過去30年のIT」が隅々まで通用したってことは、ある種のMBA的エリートとテック技術者は「神」になれるけど、現場にいる人はもうまじで「単なる手足」以上の感じにならないところに押し込まれちゃうじゃないですか。
そうすると「現場レベルの人間の自己効力感」も失われて、社会が不安定化する原因にもなってしまう。
一方で、ダイニー社長氏が動画とかで熱く語ってるように、日本の飲食店の現場の熱意はすごいですし、それが結果としてミシュランの星の数が世界一の国みたいなのに繋がってる面はある。
そしてその「現場レベルの自己効力感」が崩壊しないようにするためにこそ、「過去30年のITには消極的だったのだ」というようにポジティブに評価する視点を持ってもいいのではないか、と最近私はよくクライアントの経営者と話しています。
そこで「温存されてきた縁」をそのまま、新時代のIT技術なら取り込むことができる。
むしろ「過去30年の間合理化されずに温存されていた現場レベルの人の縁」があるからこそ、「現場レベルと密に連携できるIT」が生まれる余地もある。
トップダウンでなくボトムアップ型の精神で作られたITが今後の日本の勝ち筋として見えてくるのではないでしょうか?
二本指でピンチイン・ピンチアウトするようなタッチパネルのスマホ操作を「発明」したことで有名な情報工学者の暦本純一東大教授が、
「日本企業の短期的に見た非合理性は、将来的にある種のワークシェアリングとかベーシックインカム的な意味を持つのではないか」
…みたいな話を昔動画で話してて笑っちゃったんですが、そういう「縁」が破壊されていない状態を保ちつつ、その上でちゃんと合理化も行えるというのが、これからの日本の勝ち筋として見えてくればいいなと思っています。
5. アベ時代が終わり石破時代が始まる、それに対応する「新しい変化」がこれかも
「ボトムアップ型に現場で作り込んだIT」が逆に普遍性を持ち始めるという日本の勝ちパターンが見えてくるのでは?っていうのは、イーロン・マスクのエルデンリングプレイスタイルについて考察した以下記事なんかでもずっと書いてきたことなんですが・・・
そういう企業がちゃんと「新しく活躍」する時代になってきて個人的にはすごい嬉しく思っています。
最近、クライアントの経営者と「次はこういうのが必要なんじゃないですかね」って言ってたのはだいたいその後すぐに「やってる人が見つかる」って感じになってるんですよね。
「止まっていた時間が動き出す」ように、自分たちの強みを守り切るために必死に「ITに抵抗していた」日本社会が、むしろ「現場に寄り添うIT」にはどんどん乗り気になって変わっていく流れは既に進行中だと思います。
一個前の記事で書いたように、石破政権になるってことは、「長く続いたアベvs反アベ」みたいな時代の終焉を意味するんですよね。
その先の「新しい連携関係」を、国全体で作っていく号砲が鳴り響いているのだ、という理解で、チャレンジしていければ希望が見えてくるのではないかと思いました。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ここからは、コレ書いてるうちに思い出した、私が「ブラック企業その他に潜入して働いてた頃の話」のことをチラホラ話しつつ、
ヤンキーさんはインテリ階層に実はすごく「期待」している。それに応えられなくなると社会は真っ二つに分断される
…という話をしたいと思います。
実は、欧米の左翼思想家みたいな人も、一部は「いわゆるポリコレ(アイデンティティ・ポリティクスの絶対化みたいな風潮)の絶対化」に対して批判的な人が結構いるんですよね。
それはこういう「社会の共通善的紐帯」を「私」的な現象で掘り崩してしまうからだ、って感じなんですが。
もちろん、女性の社会進出とか人種差別への抵抗とか、性的少数者の尊重とか全部大事なんで、それを否定するわけでは全然ないんですが、「それだけが社会の優先課題である」と押し込むことの副作用こそが警戒され、社会の分断の原因になってる面があるはずなんですよね。
逆に言うと、この
「社会に必要な大事な紐帯をむしろ保存しようとする形で、新しい発想(経済面の”いわゆるネオリベ”と、社会変革面での”いわゆるポリコレ”関連のアジェンダ)を取り込める道が見えてくれば、欧米のように社会が真っ二つに分断されて憎悪しあうようにならずに済む。そこに日本のこれからの進む道があるのだ。
…という話をしたいと思っています。
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つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。
編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2024年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。