ニュース番組で、ユニクロの柳井正さんへのインタビューを見た。その中で、失敗から逃げるのではなく、真正面から向き合うことが次の成功のために大切だという言葉が心に残った。
日本の失われた20-30年を、国の科学プロジェクトで振り返ると、まさに「失敗に向き合ってこなかった国」の生き証人であることを実感した。失敗に向き合うどころか、この国では、大型プロジェクトには公には失敗がないのだ。
失敗に真正面から向き合うには、必ず役人・科学者の責任問題と向き合わなければならない。「和をもって尊しとなす」国では、傷をなめ合うような、隠蔽とも言える評価システムが日常となり、すべてが平均点近い評価で終わってしまうことになる。
人間である以上、人は必ず、ミスもするし、失敗する。しかし、失敗がないことにすると誰も傷つかないから丸く収まると思っている文化が、結果として活力を削ぎ、国力を棄損してきたと思っている。日本のように、失敗をすると叩きのめされ、二度と立ち上がれないような状況では、チャレンジは生まれてこない。
研究など、思い通りに行かないことの繰り返しだ。失敗しても、そこから学ぶことが多いが、学ぶには、失敗をしたことを認めることが前提となる。米国で11年以上生活したが、米国では失敗してそこで人生が終わるわけではない。失敗を糧に学び、再挑戦していくことが可能であることが、国力の大きな差に結びついたと考える。その点が彼我の差だ。
会議の場で何か批判をすると、わざわざその相手に、私が批判したことを告げ口するようなムラ社会を目にしてきたが、それが若い人たちの批判的精神を抑え込むことにつながってきたし、批判のない中では、まともな科学は育たないし、イノベーションなど夢のまた夢だ。ユニクロの成功は「失敗から学んで、挑戦してきた積み重ねにある」ことを聞き、なぜか納得してしまった。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。